ある純粋な男の子の話
今回と次話は『ある行商人の話』で登場した兵士とメイドの話です。
オイラは農家の四男として生まれた。裕福ではないが、飢える事はなく、そこそこの暮らしが出来た家だった。
そんなオイラには小さい頃から一緒に遊んでいた近所で親しかった女の子がいた。所謂幼馴染みの彼女は二つ隣の家の次女で気が強くいつもオイラに対してはお姉さんぶっていた。ちょっとは嫌なときもあったが、ずっと一緒にいるものだと思ていた。
だから、ある時彼女が売られると聞いて驚いた。彼女の家がそんなに困ってるとは知らなかった。
太った大人と細い大人の2人が女の子を連れ去ろうとする。気の強い彼女はこんな時でも涙を見せる事無く、両親に手を振って行ってしまう。
家はオイラを売るほど困窮していないはずだが、彼女が売られるならオイラも一緒に行ってやりたい、とダメ元で言ってみると親父はあっさりOKを出した。
・・・もしかしてオイラって愛されていない息子?
いや、それより売られた先でどんな困難が待っているか分からない。オイラがコイツを守ってやらないと。
売られた先はこの土地の領主様だった。あの時いた太った大人がその領主様だった。
ふたを開けてみると・・・ オイラの決死の思いにもかかわらず、数日後に一日だけだがあっさり家に帰れた。その後も、事前に言っておくと里帰りできた。
親父があっさりOKを出すわけだ。家よりよっぽど良い暮らしが出来る。
いやいや、まだ安心できない。
一緒に引き取られたコイツを領主様の魔の手から守らなくちゃならない。領主様は幼い子供を集めて喜んでいるロリコンだって噂だ。実際、オイラや彼女と同じくらいの子供が引き取り先で生活している。
「ふんっ。オマエみたいなヤツは信用しないからな!」
「領主様になんてこと言うのよ!」
彼女がオイラの言葉にポカッと頭を殴ってくる。
何かとお姉さんぶってくるが、コイツは全く危機感がない。オイラの方が守ってやらないと。
コイツはきっとロリコンだぞ。オマエこそ、身の危険を感じろ。
・・・しばらく生活しても、彼女や別の女の子に手を出した様子はない。もちろん、男の子にも。
ロリコンの噂はデマだったようだ。彼女を守る必要はもう無いかも知れないが、今さら帰れない。
旨い飯と綺麗な服、上等な暮らしが出来るから、別に帰る気はなくなっていたけど。
領主様言葉は偉ぶってくるが、親父みたいに殴ってくることはない。皮肉なことに彼女の方がよっぽど乱暴だ。
・・・領主様って、結構良い奴かもしれない。
目下の悩みは面倒な勉強だ。元来頭のよくないオイラでは大変だ。兵士の訓練に混ぜてもらってストレス解消する。
やっぱり、身体を動かす方が気が楽だ。将来は兵士の一人になるだろう。
彼女はオイラの気も知らず、領主様や先輩メイドと楽しそうに料理を作っている。
◇◇◇
兵士として働き始めたある日、領主様の命令で誰かが行商人と一緒に王都へ作物を売りに行くことになった。誰か行かなければならないが、何日もかけて知らない場所へ行く。そんな大変なこと誰もやりたがらない。
貧乏くじを引いた幼馴染みの女の子が行くことになってしまった。
「大丈夫なのか?」
「心配なら、あんた付いて来なさいよ」
何でコイツは高飛車なんだ? まあ、心配だから付いて行ってやっても良いけど。皆やりたがらないので、特に反対もなくオイラが護衛として付いて行くことになった。
「宜しくお願いします」
彼女は行商人のオッサンに笑顔であいさつする。見事に猫かぶっているな。
王都までの旅路はトラブルもなく順調なものだった。このオッサンは何度も往復しているんだから勝手知ったるものだろう。
王都に着いたら、オッサンにお任せだ。オイラは都会なんて始めて来たんだから、右も左も分からない。不慣れな田舎者が出しゃばっても良い事なんかない。
が、彼女は納得していないようだ。不機嫌に奮発して入ったちょっといい感じの食堂の飯を食っている。そんな顔じゃ、飯が旨くないだろうに。
まあ、ご機嫌な顔で食っても、ここより屋敷の飯の方が旨いよな。
そう思っていると、彼女がテーブル下で蹴ってきた。店の中で余計なことは言うなってことか?
翌日、彼女は「やってみたいことがあります」とオイラを荷物持ちに食堂を巡る。
何件か断られた後、OKがとれた食堂で持参した材料で料理を作ってみせる。
よく分からないが、料理の仕方を教えるから材料を買ってくれという話のようだ。
その店は駄目だったが、一日回って2件の販売契約が取れた。
三日かかって、全部の作物が売れた。オッサンが驚いていたから、すごい事なのだろう。
領地に戻って店を任されたハズの元行商人のオッサンは店主になったくせに、相変わらず自分で飛び回っている。
「いや~、やっぱり店にずっと居座ってるのは性に合わなくってね」
ってことは、代わりにオイラたちが代行しなくちゃならないのか?
・・・一人じゃないにしても大変だぞ。