親父が死んだので領主を継いでみた
前に投稿した分の加筆修正の連載版です。この前にある2話は旧版として残します。
連載版といっても、10話ちょっとで終わるかもしれません。
「えっ? マジで? マジで親父死んだの?」
王都から来た親父の元部下という使者にオレは聞き返してしまった。
「ええ、はい。残念ながら。この度はお悔やみ申し上げます」
本当に残念そうに彼は生前親がどんなに素晴らしかったか言葉を続ける。が、オレは別のことを考えていた。
筋肉隆々で殺しても死なないと思っていた親父がなぁ~。
早く死んでくれないかなぁ~、とは思っていたがその時期はあと二十年はかかると思っていった。
親父は王都のどっかの部隊で部隊長をしていた。一年のほとんどを王都で過ごし、この領地に帰ってくるのは1ヶ月もない。
正直、情もわかない。むしろ、屋敷に住んでいる家令や飯炊きのおばちゃんの方が死んだら困る。
考えていると使者の言葉は終わっていたようだ。
「次の領主は貴方様になります」
使者はそう言って、国からの任命書を差し出す。
マジで? 良いの? ・・・親父の子供ってオレだけだから当然か!?
「どうかしましたか?」
一緒に聞いていた家令がオレの腕をつつく。
「いえ、親父の死に呆然としていました。申し訳ありません。謹んで拝命します」
恭しくその任命書を受け取る。
内容は貴族らしい回りくどい表現だが、要約すると親父が死んだので次の領主はオレで決定。けど、王都に行って正式に就任のあいさつをしなければならないらしい。
親父が王都で住んでいた家も整理しなくちゃならないし、一度行かなきゃならないか。
親父の様に王都にずっと住むなんて思わないし、家は売った方がいいのかなぁ。維持費が勿体ない。
美味しいものがあるのはいいんだが、物価が高すぎる。オレの小遣いでは高級店で食べ歩きはできない。
元々傭兵だった祖父が戦場で武功を立て、この一帯を預けられた。その時は親子二代の一時的な預かりだった。
その息子である親父も親に似て戦場で武功を立てた。これにより正式に下級貴族に取り立てられ名実共に領主となった。
オレ? オレは無理。部屋で娯楽本を読んで食っちゃ寝の生活でダブダブに太った身体。剣なんて持って10回も振れば息が切れる。
そもそも、戦争なんて親父の世代で終わって、先の対戦国とは停戦協定が結ばれている。よしんば紛争が起きたとしても、国境から遠いここまで飛び火することはない。
王都から距離的に少々離れているので、国からの監視・干渉もない。 よほどヘタをこかなければ領地を国に取り上げられることはない。
使者が帰ると、意気揚々として親父の使っていた部屋に入る。今までも暇つぶしの本を探してこっそり入り浸っていたが、今日から正式にこの部屋の主だ。
親父は脳筋だったため、領地運営は家令に任せきりだった。
親父の言いつけでオレは跡継ぎとしては勉強不足とされていて携わることが出来なかったが、親父が死んだ今やっとタッチできる。
「よし! やってやるぜ!!」
親父のサイズに合わせた自分には大きめのイスに座り、気合を入れる。
・
・
・
「何やればいいんだ?」
いきなり頓挫した。ひとり気合を入れたのが恥ずかしい。
仕方なく、今まで実務をこなしていた家令を呼ぶ。彼は使者を玄関まで送って席を外してしる。
先人に学ぶのは恥ずかしい事ではない。断じて!
「さしあったって仕事はありません」
家令の一言に驚く。
「マジで?」
「マジです。今年の税の徴収も既に終わっていますし、旦那様の葬儀は王都で昨日実施したようです」
こっちで親父の葬儀をやろうとしても領地に遺体を運ぶまでに腐ってしまう。オレは聞いていなかったが、さっきの使者がそのことも話していたらしい。
また、王都にいきなり行っても、あいさつは事前アポの遣り取りが終わるまで駄目らしい。
オレが領主を継いだことも領地に自分で周知するまでもなく、おばちゃんたちのネットワークで広がるようだ。
「既に私の妻経由で5人ほどに伝わっているようです。3日後には全ての領民が知ることになるでしょう」
恐るべし、おばちゃんネットワーク!?
いきなり、暇だ。良く考えたら、今までも忙しかったことなんてないけど。
だ・が・さっきのやる気を返してくれ!!
・・・いや、逆に考えるんだ! 領主になったのに仕事しないで良い! 素晴らしいじゃないか!
「ということはやりたい放題? よっしゃ~!! 領主就任祝いだ。宴会やるぞ! 宴会! 準備だ」
今までの微々たるお小遣いではなく、入って来る収入は全て領主であるオレのもの。
税収が終わっているって言ってたし、金もガッツリ入っただろ。贅沢ができるぜ。