領主を継いだので満足してみた
おやつ片手に屋敷裏の畑で生育状況を確認がてら一人で散歩していると、辛気臭い顔をしたガキが声を掛けてきた。
「勉強するの、もうヤダ」
そう言うのは下女が産んだ娘の息子だ。まあ、早く言うとオレの孫にあたるガキの一人だ。
「嫌なら、何でわざわざ勉強するんだ?」
「・・・だって、立派な領主になるには、やらなければいけないって。みんなが・・・」
うつむいて言い訳する。しかも、それを何でオレに言うんだ?
「お爺さまは立派な領主だって、みんなが・・・」
バカじゃないのか? このガキは。
みんなが言うからって、それが正しいとは限らないだろ。
オレはそんなに立派なこと考えたことないぞ。
ただ、みんなに美味いモノ腹一杯食わせておけば、とりあえずOK。としか考えていない。
対外的には有能だと思われていた方が得だが、身内には誤解されるのは拙いんじゃないか。
それに領主になるにはと言ったって、ウチに生まれたから領主にならなくっちゃならない訳ではないだろ?
別にお前が領主になりたくなかったら、別の奴にやらせれば良いじゃないか? 代わりに領主になりたい奴なんて、探せば一人や二人いるんじゃないのか。
お前の叔母さんなんか、料理屋の女主人をしているぞ。オレも領主なんて辞めてそっちをやりたいが、元気なうちは引退するなと言われているので仕方なくやっている。
その代わり、領主の実質的な仕事はこのガキが生まれる前から周りに任せきりだ。
抑々まず、このガキの前にこいつの父親が領主になるんだから、今からそんな先のこと心配する必要あるのか?
「辛気臭い顔をするな。どうだ、美味いか?」
ガキはオレが渡した蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキを頬張り、「うん」とうなずき、表情を崩す。
ガキはガキらしく、難しいことなんか考える必要はない。美味いモノでも食って笑っていれば良い。
「勉強は嫌だって言うが、別にやりたいことはあるのか?」
「・・・分かんない」
まあ、オレもこのくらいの年は難しい事何も考えたなかったな。気の利いたアドバイスなんか言えない。
・・・ふむ。
「オレは好き勝手やって生きてきただけだ。だから、言えることはひとつだけ。
お前も好き勝手生きろ。
ーーただし、その笑顔が曇らない範囲でな。周りが辛気臭い顔をしていたら、メシが美味くないからな」
「???」
「要は自分がムカつくと思うことはやるなってことだ。簡単だろ?」
「・・・意地悪や弱い者いじめをするなってこと?」
ガキは首をかしげる。その頭をポンと軽く叩いて、口の周りの蜂蜜を拭ってやる。
それが分かってれば充分だ。
周りの畑を見ると白・黄色等の花、実を付けたもの。そして、青々とした葉っぱ。色々な植物が植えてあるのが分かる。
領主になる前から美味いと言われる産地の麦・子目・野菜の種を取り寄せて育てていた。それから数十年経ち、さらに増えている。
土地が違うため根付かなかったものもあるが、根付いたものもさらに美味くなるよう掛け合わせの実験を行っていた。 その周りを養蜂で飼育してるミツバチが飛び回っている。
様々な作物があるということは、水が多く必要なもの、逆に乾燥に耐性があるもの等様々な種類あるという事だ。つまり、ひとつの気候不順が原因で全滅するリスクが減るということだ。
まあ、今年は気候も温暖でその心配もない。おそらく、豊作となるだろう。
領主権限でオレの好きなもので埋め尽くしてやった。
美味いのものためには苦労は惜しまないのだよ、オレは。
「あ~~、平和だ・・・」
草むらにごろ寝する。昼寝日和だ。パンケーキを食べ終わったガキもその横に寝転がる。
思いついた我が儘を全て叶え、思う存分美味しいものを食べた。
長年一緒にいて愛着もわいてきた手駒たちに囲まれ、思い残すこともなく好き勝手なグータラ生活を目指した領主は満足して亡くなった。
--ある後年の書物の一文
様々な改革を成し遂げ、後の世に名君と称えられた領主は多くの子供・孫に囲まれ亡くなりました。かの地の領民は彼の死を悼み喪に服したと言います。
「結果は受け取り方次第」というこの小説のキーワードタグは主人公の行動を領民がどう思っているかではなく、書いていただいた感想を見て読み手側へ向けて付けたものです。
物語には関係ないので明らかにしていない裏設定がまだあるため作者から見ると、誤解してるんだなぁ、と思ってしまう感想が幾つかありました。
まあ、細かい裏設定はこの領地中心の物語というより別の物語で考えた王都および他領中心の設定です。ただ、その世界観を今回は流用しただけなので。それに、一人称で物語が進むので誤解は仕方ないかもしれません。
過去の活動報告で裏設定を一部書いているので、気になる人は見ても面白いも知れません。なお、知らなくても全く問題ありません。
あと前に前領主を擁護するような文を書いていますが、作者は日本人らしく判官贔屓なので、感想で悪く言われた人の味方したいタチです。
旧版を書いた時に思いついていたネタはあと番外編1話で終わりです。
元々出すつもりもなく削った部分を大分肉付け・水増しして書いていますが、話数の割に1話毎の文字数は少ないです。元々の話は1話数行程度のメモですから作者的にはソコソコ頑張ったつもりです。
旧版の方が良くて連載版は要らないという方もいらっしゃいましたが、書いちゃったのでそこは諦めて見るのはご遠慮下さい。というかここを読んでいる方は見ちゃってますが・・・
兎も角、短い間ですが、お付き合い頂き有難う御座いました。