ある商人の話
「ふざけるなよ!」
店の商品に文句をつけてきたのは、以前奴隷を買うのに妨害をした領主だ。この土地では領主が邪魔をして、奴隷を仕入れる事が出来ない。
今回は麦の値段にケチをつけるが、言いがかりだ。
「これが私どもの商売ですから」
安く買って、高く売る。これが商人のやること。文句を言われる筋合いはない。
文句を言ってもこんな大量に買い取るのはウチだけ。ウチに売るしかない。
が、翌年から2軒隣に領主が店を作って売り始めた。
麦がウチの1割引きだ。対抗して値下げすれば、翌日にはその1割引き。終いには売値と買値が同額にまでなってしまった。
そもそも、今年は領主がこちらに売らないので昨年からの在庫のみだ。なんとか近所の農民から少量買い取れたが、このままではジリ貧だ。隣領地から運んでは手間賃を含めると売り値を上回って赤字になってしまう。
あの店と被らない品目を充実させるしかない。
やっと持ち直したところに、今度は税収方法の変更!?
馬鹿げている!!
隣の領地は交易が盛んで商人を保護している。領主は王都に勤めていて不在だが、そこの領主夫人が代わりに治めている。彼女へ目通りが叶い、あの領主の横暴を訴える。
「隣の領地がどんな税率にしようが、その領主の自由ですわよ」
領主夫人の返答は冷たいものだった。
確かにそうだ。だが、それを曲げたいから訴えているのだ。
ーー奥の手を出すしかない。
「あの領地へ行くには此処の領地を通らざるを得ません。関所を設ければ、通行税は思うがままです」
あそこの領主は近年王都への交易にも手を出しているらしい。この提案ならどうだ? 利益に聡ければ乗るはずだ。
「そんな卑怯なことするつもりはありませんわ! とっとと失せなさい!」
けんもほろろに追い出される。今回のことで領主夫人の不興を買ってしまったかもしれない。
そんな・・・ 一体どうしよう?
くそっ!! 踏んだり蹴ったりだ。あのクソ領主め!!
今回に関しては領主の方が酷いです。麦を保管する倉庫や店の維持費、人件費がかかるのだから、買値の2倍で売る位当然です。子供の身売りも他でも当たり前に行われていました。この商人は違法な事は一切行っていない、真っ当な商人ですよ。