領主を継いだので商売始めてみた
農村からの税は作物で納められているため、現金に換えるために売却しなければならない。今年は試験的に育てた作物も無事に育ったが、全体的には平年並みな出来だ。不も可もない。
それでも、現金収入を得て、気の大きくなったオレは露店の食料品の店を巡る。
何か美味そうな食材はないか? しかし、地元でとれた野菜や肉などオレが知っている食材しか扱っていない。
一通り回った後、街で一番デカい商店に入る。王都や他領との交易品を扱う総合商店だ。税作物を売ったのも、この店だ。露店と違って品揃えも多い。
・・・しかし、店頭の値札を見て愕然とする。
オレが昨日売った麦が金額の倍の値段で店に並んでいる。
「ふざけるなよ!」
何の冗談だ? ウチの倉庫からここの店に運ぶだけでどんな暴利だ!?
「これが私どもの商売ですから」
しれっと答える。
「他から仕入れたとか、凶作とかなら兎も角・・・、如何いう値段設定だ?」
商人に文句を言うが、のらりくらりと言い逃れる。そっちがその気なら、こっちにも考えがある。
もう、てめえには売ってやらねえ!! ついでに潰れやがれ!!
オレを敵に回したことを後悔しやがれ!!
まずは・・・よし、領主直営店を出そう。
中間マージンを取られずに自分で売れば儲かる。てめえの隣に店舗を構え、常に1割引きで売ってやる。
ふはははは~。ざまーみろ! ・・・と言っても、もう今年の分はこいつに売っちまったから、来年からだ。まあ、準備も掛かるし仕方ないか。
とりあえず、あの商人の隣の家を買い取ろうとしたが、駄目だったので2軒隣の店主が高齢で閉まっていた雑貨屋を買い取る。倉庫が無いのが難点だが、屋敷の倉庫から運ぶだけだ。
翌年、領主直営店として開店だ。手駒を送り込み、商売を始める。
だがしかし、実際問題オレは商売のイロハが分からない。そのため、値段は先に宣言した通り、あの商人の店の1割引きにしておく。
気づいた商人が値下げするが、その翌日はその1割引き設定。利益度外視の強気設定だ。そもそも、オレが売らないから在庫がほとんどないはず。
ざま~みろ!!
農民からの買い取りも行うが、基本的にこの店が取り扱う品目は税作物のため、麦・子目・豆と一部の野菜だけだ。
なお、別の小さい個人商店や地元のおばちゃんが露店で売っている野菜等とは露骨にかぶらないようには気を付けている。
あの商店とかぶっている商品はもうここでしか買わないだろう。けれど品数が少ないため、商店を廃業に追い込むまではいかない。
しかも、品目が少ないため店番も仕事が少ない。せっかく直営店を出したんだ。商売の幅を広げてみる。
ここで売り切れない分を他の所で売る分には問題ないだろう。帰りに何か買ってくれば軽い交易が出来るだろう。
けど、他領では通行税とかあるらしいし、商売をするときに金をとられるはずだ。やっぱノウハウは必要だよな。
う~ん。そうだ、行商人だ! 領主直営店の店長の座を餌にそいつを取り込んでやろう。
「何か、適当な奴いない?」
困ったときにお馴染みのおばちゃんネットワークだ。
検索に引っかかったのは、ある中年の行商人。前領主の時代から定期的に交易品を持ってきてくれる誠実な人らしい。
じゃ、そいつでいいや。手始めにここの作物を王都で売ってこさせよう。
ついでに、王都の流行りの食べ物も知りたい。食事上手な下女も付けよう。そうだ! 盗賊対策で手駒の兵士も付けよう。
試行錯誤で商売方法を模索する。徐々にこの領地がブランドとして知れ始めてくる。やっぱ成功が目に見えると、テンションも上がるし、遣り甲斐も感じる。
ただ、昔オレが王都に行った時と同じメニューしかなく、新しい料理レシピが見つからなかったのだけが残念だ。
・・・あれ? 何で商売始めたんだっけ? そうだ! あの商店だ。あそこはまだ元気に商売を続けている。
こうなったら、税金をふんだくってやる!! ムカつくから税収方法を変えてやるぞ。
自分の領地の税収方法は領主に一任されている。
今までの税金は人頭税だ。暮らす人数に応じて税金がかかる。これだと金持ちだろうが貧乏人だろうが税金は一緒だ。
これを儲けに比例して増えていく所得税に変えていく。
やっぱり金持ちから金をごっそり持っていく方が儲かる。
「この地から商売人が消えていきますよ」
商人は抗議するが無視だ。
「どうぞご自由に。私たちで別の商店を用意しますので、ご心配なく」
というか、もう商人の店で扱う商品はウチで揃えることが可能だ。
こいつの息のかかった者とは別の場所へ行けば別の商人もいる。
品種改良で作った作物も新ブランドとして王都の店にまで知られ始めている。
ーー全く問題ない。
食にうるさいオレも納得のいくモノが最近出来始めている。
こいつを切ることで引き取り先は減るかもしれないが、この商人と決別した方が長期的に見てプラスだろう。