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あるメイド見習いの話


 領主様の朝は早いです。日の出と共に起き出し付近の農地を一巡します。

 今日も早起きして、屋敷裏の試験農場を見て回り、生育状況を確認してたようです。

 最近雨が降っていないので、毎日念入りに見て回っています。

 どうやら、干ばつに備えて水路を張り巡らす計画を立てているらしいです。


 領主様はちょっとふっくらしているのでよく食べる印象があるけれど、朝に食べる量は少ない。

 ヘタすると女性であるわたしより少ないかも・・・

 領主様の作る料理がおいしくて、最近食べすぎかもしれない。昔と違ってお腹一杯食べられるのでお腹周りがふっくらしてきたかも?

 今日からダイエットしないと・・・



 領主様は朝食後は部屋に籠り、書物を読んで勉強しています。わたしから見るとすごく頭が良いのに、まだ毎日勉強している勤勉さにビックリです。


 朝食後はメイド見習いとして屋敷の掃除・洗濯に励みます。料理はまだ野菜の皮むきなど下ごしらえしか携わらせてもらえませんが、ゆくゆくは先輩メイドや領主様の様に美味しい料理が出来るようになりたいです。


 メイドとしての仕事が終わるとみんな集まって勉強の時間です。メイド以外の他の仕事をやっていた子たちも合流します。

 先輩に教わり、読み書きや計算の勉強をします。

 小さな子は底の浅い木箱に砂を詰め、数字や文字の書き取りをやっています。

 わたしはかんなで薄く削った木の板を紙代わり使い、文章を書く練習です。


「こんなのやってられないわ~!!」

 暫く黙々とやっていると、最近屋敷へやってきた女の子が癇癪を起しました。

「こんな、役にも立たないことやってらんないわよ!」

 そう言って、女の子は外へ出て行ってしまいました。

 彼女は悪い子ではないのですが怒りっぽい子です。勉強が嫌いで、偶にヒステリー気味に抜け出します。

 前回抜け出した時と同じなら、兵士のお兄さんたちの訓練に混ざって木剣を振り回しているでしょう。

 彼女は女の子ですが、メイドになるより女兵士になりたいそうです。


 領主様は「好きにやれば良いんじゃないか」と鷹揚に構えていますが、後でメイド長のお説教コースです。


 今日は領主様がお菓子を差し入れにきました。

 領主様は気さくで色々な料理を作ってはわたしたちに振る舞ってくれます。

 領主様へ親愛を込めてお礼をしようとすると、照れて一歩引っ込みます。

 領主様は照れ屋でもあります。


 さっき外へ出て行った彼女もクッキーに釣られ、戻ってきました。

 分け前を貰おうとしますが、メイド長に捕まりお説教へなだれ込みます。クッキーは一枚も貰えず、涙目です。


 わたしは美味しくいただきました。

 ・・・ダイエットは明日から始めます。



「何で読み書きなんて勉強しなきゃいけないの? あたし、兵士になるから必要ない! それよりもっと剣の練習がしたい!」

 女の子が領主様へ質問します。

「はぁ? 兵士だからって必要ないことはないだろ? 頭が良ければ必要ないだろうけど」

 頭が良いと必要ないってどういう事だろう?


「例えば、お前は複数の初対面の商人とかの名前を聞いてメモせずに全部覚えていられる位記憶力が良いのか? そいつらから税の徴収もやるんだから計算も必至だぞ? そもそも、兵士だって書類仕事があるぞ?」


「じゃあ、領主様みたいに料理を作る人になる!」

 領主様みたいって・・・この子は領主様を料理人と思っているのかしら?

「じゃあ、お前は料理の作り方を全て暗記していられるんだな? このクッキーを作るのだって一つ作るのと50つ作るので分量が違うんだから計算しなきゃ美味しくできないぞ?」

 女の子はぐうの音も出ません。



 先程の領主様への質問でメイド長の怒気は更に強まり、彼女は夕食抜きにされてしまいました。

 いつもならおかず一品が減るだけなのですが、今日は煮込みうどん一品のみ。彼女の前には汁だけ。とばっちりが来ないように、わたしを含め他のみんなは見て見ぬ振りでした。

 しかし、領主様が気づいた様で、こっそり果物を差し入れしてくださいました。




 常にわたしたちを慈しみ、様々な事に心を砕いてくださいます。何時も、いつもありがとうございます。領主様。




 時々一つの部屋に集まり、女の子たちで集まって就寝までお喋りします。今日のテーマは理想の恋人です。


「ねえ、誰かいいなって思う人いる~?」

 別の部屋で寝ている男の子や近所に住んでいる男性等が挙がります。

 もちろん、領主様の名も挙がりますが、

「領主様はいい人だけど、恋人にはねぇ~。かなりぽっちゃりだし~。見た目がね~。

 ・・・既にメロメロな人がいるみたいだけど~」

 みんな先輩メイドを見ます。

「・・・」

 視線を一身に受けた彼女は真っ赤にしたであろう顔を布団に埋め、もぐり込んでしまいます。まあ、暗くて本当に赤くなっているのか分かりませんが。

 年上の先輩ながら、可愛い仕草です。何故、領主様は彼女のあからさまな想いに気づかないのでしょうか。


「わたしは兵士のお兄さんかな」

「え~~。ありえなくなくない? だって、語尾に『っス』とかつける変人だよ?」

 ーーひどい言われようです。

「けど、一緒にいて楽しいよ? 結構優しい人だし」

 頑張ってフォローしますが、みんなの心には響かない様です。

「お笑いの人はちょっと・・・」

「趣味悪いよ~」

 みんなうなずきます。さっきまで布団に隠れていた先輩も「どうしょうもないなぁ~」みたいな顔をしています。


 ちょっと、酷くない?


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