領主を継いだので子供に水をぶっかけてやった
屋敷に入る前に敷地内の井戸で担いでいたガキを降ろす。引っ張っていた子供も手を離させる。
軽いとはいえ、さすがに疲れた。が、ひと仕事残っている。
みんな臭いし、汚い。ガキに直接触れていた場所だけでなく、全身に臭いがしみついてしまっている。屋敷内の風呂に入りたいが、無理だ。沸かす用意もしていないし、汚いまま屋敷に入れる訳にはいかない。
ガキたちをこのまま屋敷に入れたとしたら・・・屋敷が汚れて、オレがおばちゃんに怒られてしまう。
無言で歩いていたオレが足を止め、手を離したオレが何を仕出かすのか分からず、怖いのだろう。すっかり萎縮している。
暴れ出さないだけマシか。それとも、そんな元気もないのか・・・
服の態を成していない巻くだけだったボロ布をガキたちから剥ぎ取り、裸にひん剥く。そして桶で水をぶっかける。
「こらっ! 逃げるな!」
大声を出すと、ビクッと固まる。
バシャバシャと全員に水を掛け、ボロ布で擦る。ざっと汚れを落とそうとしたが、あまり落ちない。そもそもこの汚いボロ布じゃ駄目か。
ブルブルブル~~
秋も深まり、寒さに震えるが、同情は禁物だ。
「坊ちゃん。何やってるんですか?」
大きい籠を担いだおばちゃんに声を掛けられる。ガキどもを洗うのに夢中で気が付かなかった。
「これは・・・ その~・・・」
これだけ見ると、ロリコン且つ虐待する変態だ。
オレは領主。一番偉いんだ。おばちゃんなんて、怖くないぜ。・・・怖くないよ。・・・怖くないはず。
おばちゃんはため息をつくと、
「お風呂を沸かしてありますから、その子たちを入れちゃいますよ。まったく、もう。タオルも用意せず、この寒空に濡れたままでいさせる気だったんですか?」
そう言えば、そんなこと気にしていなかった。
籠にはタオルが入っていた。おばちゃんはガキどもをタオルでくるむと、歩けなかった2人を抱きかかえる。
そして、そのまま風呂に向かう。オレも残りのガキを連れてそれについて行く。が、入り口で止められる。
「女の子もいるんですよ。坊ちゃんは外で待機です。それとも、幼子に並々ならぬ興味でも?」
「男のガキもいるだろ? それにオレも濡れたから入りたいんだけど?」
「坊ちゃんにはお話があります」
拒否は・・・無理だよね?
通いで手伝いに来ている別のおばちゃんにガキを託す。
「坊ちゃん、あの子たちが何だか分かっているんですか?」
「ただのみなしごだろ?」
「は~、あの子らは街の皆で見捨てると決めた子供たちです」
「・・・はっ? ・・・どういうことだ?」
「あの子らが大人になるまでどれくらいかかると思いますか? 特に、この冬食料事情が厳しくなりそうです。春になってから即戦力となる元気な大人をどこからか引っ張ってくる方が安上がりで確実です。
これが普通の領主の判断です。夫も兵士のあんちゃんもあの子たちの扱いは知っていました」
なるほど。だからあの兵士はオレをガキどもの元まで案内できた訳だ。
知らないのはオレだけか・・・?
いや、オレはオレの思うまま好き勝手やってやるって決めたんだ。
「これはオレのわがままだ。だけど、あんなの放っておいて美味い飯が食えるか!
い~か、おばちゃん。オレは美味い物を食って、楽したいんだ!!」
「良いんじゃないですか? 坊ちゃんがそれで良いなら」
「良いのかよ!!」
オレの意気込みというか、決意というか・・・、言いようなく入っていたチカラがしぼむ。
「坊ちゃんは新しい領主になったんだから、思ったとおりにやってみれば。子供の不始末は大人がとるもんですよ。後の事は夫に任せて知らんぷりしていれば良いんですよ。
・・・夫は見捨てる方に賭けていましたけど」
「オレはもう大人だ! っていうか、賭けてたのかよ!? ちなみにおばちゃんは?」
「タオルと風呂を用意してたことが答えになりませんか?」
キモいウィンクをしてきたけど、不快には感じなかった。
実際はタオルなんてその当時高級な物使っていませんが、手拭や拭き布というのも違和感があったのでタオルと表記しました。
さて、今回・前回に続き、領主のセリフにこの物語のタイトルである「好き勝手」という言葉が出てきました。
このタイトルは「周りが何と言おうが自分の信念を貫く」という意味を念頭に考えました。
領主の目的はあらすじの通り「美味い物を食って毎日グータラする生活」のみ。
領主には他人の不幸を喜ぶ性癖はないし、周りをこき使おうとするのは単に自分が楽するためだけです。
子供を攫ってくるのも、元々は誰からも必要としていない不用品のリサイクル感覚でした。その場の勢いで口調は悪いですが、悪意は全くありません。
本人は悪人なんて目指していないですよ。まあ、善人になるつもりもありませんけど・・・