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領主を継いだので子供をさらってきた


ーー領民を強制労働させている日々。


 が、面倒くさい現場監督として指示を出しているのはオレだ。

 おばちゃんと一緒に領民に出す食事を作っているのもオレだ。


 あれ? 可笑しくね? 領主就任当初、家令に「さしあたって仕事ない」って言われたよね?

 自分で仕事を増やしているっていう言葉は受け付けません。だって、エビ食べたかったんだもん。

 それでも、我慢の限界だ!


 もう、働きたくない、働きたくないでござる。


 我がままを叶えるために、苦労する? やりたい放題したいのに、本末転倒だ。けど、仕事はいくらでもある。


 自分の代わりに仕事をしてくれる忠実な手駒が必要だ。

 こいつらの中から選ぶってのも一つの手だ。

 けど、何の疑問も持たずに黙々と作業をしているような学のない人間にオレの代わりが務まるか?

 どっかから、優秀な人材を見繕ってるか。しかし、優秀な人材はオレみたいな若造の言う事を聞いてくれないだろう。


 う~ん。オレの言う事を素直に聞いて学のあるっているか?

 ダメ元で食事作りの最中におばちゃんに聞いてみる。恐ろしい伝達速度を誇るおばちゃんネットワークに期待だ。

「素直に言うことを聞く頭の良い人材ですか。・・・心当たりは居ますよ」

「えっ? マジで? さすが亀の甲より年のこ・・・ アチッ!?」

「失礼。お湯が跳ねてしまったようですね。坊ちゃん」


 ワザとだろ、とは言えない。領主として鷹揚な心で見逃してやろう。またお湯をかけられるのが怖いわけじゃないよ。


「で、何処のどいつだ?」

 おばちゃんの指が指した方向はオレの胸辺り。後ろを振り返るが、その方向には誰もいない。森が広がるのみだ。

 まさか、別の街の奴か? 遠くなら、そいつをスカウトしに行くのも面倒だ。


「坊ちゃんに決まってるでしょ。小っちゃい頃の坊ちゃんはそれはそれは素直で、・・・今はちょっと捻くれていますけれど根は素直なままですよ。難しい本もいっぱい読んでいるようですし、正にピッタリ」


 ええ~い! 戯言を言うな!


 だが、オレの小っちゃい頃・・・  子供か? そうか! 何も考えてない馬鹿な子供を洗脳、もとい、教育すれば良いのか!?

 小さい頃から洗脳しておけば裏切る心配もないし、良いかもしれない!

 さすが年の功・・・思っただけなのに睨まれたよ。


 早速、食事の準備が終わってから子供と調達する準備に取り掛かろう。

 決して、現場で領民どもと共にマズ飯を食べながらオレの幼少期の話をするおばちゃんに居た堪れないからでは、絶対、何が何でも無い!!




「よし、子供をさらって来よう」

「正気ですか、坊ちゃん!! ・・・じゃなかった。領主様?」

 戻ってきたオレに家令が驚きの声を上げるが、本気も本気だ。

 こんな田舎の狭い街でも親のいないストリートチルドレンはいる。

 そんな子供ならどこからも苦情も来ないだろう。


 街から汚い子供が減り、オレは忠実な手駒が増える。子供ものたれ死ぬよりはオレのために働く方が幸せだ。誰も損しない完璧な計画。


 オレの水も漏らさぬ計画に賛同したのか、「部屋で唸っている兵士でも連れて探して来てください」と言った。


 部屋で唸っているのは先日の夫婦喧嘩の余波を受け、怪我をした間抜けな一番年下の兵士だ。といっても、オレより二つ年上の17歳だ。

 何でそんなくだらないことを知っているかと言えば、例によっておばちゃんが身振り手振りでユーモアを交えて解説してくれたからだ。


「おい、この間抜け! みなしごをさらいに行く。オレの供をしろ!」

 部屋の扉を力強く開け、兵士に向かって命令する。しかしながら、布団に眩まったまま出てこない。

「・・・今街に出たくないっス」

「何でだ? 今なら街を歩けば人気者だぞ?」

「だ・か・ら・出たくないんス!!」

 ますます布団にもぐりこむ。

「領主命令だそ! 怪我が既に治っているのは(おばちゃんに)確認済みだぞ!」

「それでも嫌っス!!」


「・・・なら、お前の給料カットだな」

「何で!?」

 飛び起きやがった。現金な奴だ。

「当たり前だろ。兵士としての仕事を放棄しているんだから、給料なんて払う訳ないだろ」

「くっ。・・・でも、でも、これは勤務中に起きた名誉の負傷っス? この怪我のせいでケンカが止まったっスよ! 大目に見てくれてもいいじゃないっスか」

「ほ~、それが名誉の負傷かどうかは、主観が分かれるところだな。なら、他の人に聞いてみるか?」

 結果は分かり切っている。


 この兵士は妻の投げた桶につまずいた拍子に自ら当たりに行ったそうだ。普通なら当たるはずのない桶と兵士予想外の行動に喧嘩中にも関わらす夫婦のみならず一緒にいた先輩兵士も大爆笑だったそうだ。

 大爆笑した後喧嘩など続くはずもなく、仲直りして一件落着。


 しぶしぶと布団から出た兵士は深い帽子をかぶって怪我の跡を隠しているが無駄だろうな。



「あれはどうだ?」

 オレの指摘に兵士は力なく首を振る。

「三軒向こうの家の子供っス」

 小汚い子供を見る度に、孤児かどうかを確認しているが皆親有だ。

 オレが今までストリートチルドレンだと思っていた小汚い子供はちゃんと親がいて養ってもらっているらしい。

 あんな汚い恰好させてるなんて、親は何考えてるんだ?


「じゃ、あれはさすがに親いないだろう?」

 さっきより汚いし、やせっぽちの子供を指す。

「あっちの角っこの家の子供っス」

 さすが、腐っても兵士。すれ違う人にくすくす笑われても兵士。領民の顔と素性を覚えているらしい。

 なお、当初人を避けていたが笑われた人が2ケタに達した時点で既に諦め、自身も半笑いだ。



「こっちっスよ」

 兵士が案内したのは掘立小屋と言うのもおこがましいボロ布と背の高い枯草で覆っただけの囲いだ。

「この子らは確実にみなしごっスよ。連れて帰っても問題ないっス」

 そこにいたのは5人の子供だ。

「こいつらが?」

 ガリガリに痩せ、さっきの小汚い子供が小奇麗に見えるくらい真っ黒いボロ布をまとっている。けれど、肌は透き通るようで青い筋が見える。肉がなくて血管が透き通っているだけだ。


 兵士は力なく半笑いだ。笑われたことへの意趣返しか? ・・・いや、良く考えたら道中も半笑いで力なかった。一緒か?


「ふんっ。領主に二言はない。こいつらをさらって行く」

 正直、触るのも嫌な不潔感があるが、このまま放っておくのも目覚めが悪い。

 この地のどこかで幾百人もの餓死者が出ているのは当然知識で知っている。こんな死にそうなガキを見たって、如何って事ない。

 けど、野たれ死ぬなら、オレの見ていないところにしてくれ・・・

 こいつらを見捨てないのは自分の精神安定上の理由だ。

 こんな胸糞悪いガキを見捨てたら、美味い飯が食えそうにない。


 ・・・それだけだ。あ~、ムカつく。


「オレはオレの思うまま好き勝手やってやるって決めたんだ」我知らず、つぶやく。


 歩けそうにない二人を肩に担いで、三人は強引に引っ張る。運動不足の身体でも問題ない。昔親父に握らされた練習用の剣の方がずっと重い。

「おじちゃん。どこ連れてくの・・・?」

 おじちゃんと言われたのはこの兵士に違いない。だから返事を返さず、無言で歩く。


「そのゴミを処分しておけ」

 振り返らずに二度と見ることのない枯草の処分を兵士へ命令する。


 ここから連れ出してやれば感謝するだろう。これは単なる先行投資だ。

 せいぜい恩に着ろ!! オレに尽くすように洗脳して、元気になったらこき使ってやるからな!!



孤児はそのままだと作者も含め「こじ」と読むと思いますが、「みなしご」と読ませたいので平仮名表示です。ふりがな機能が上手くいかない・・・

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