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PEREON  作者: 屋久堂義尊
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1.早良貴子

 二〇一五年七月七日、静岡県静岡市清水区。

 清水産業大学内キャンパス図書館において。

「また海難事故らしいね」

「そうだね貴子」

 早良貴子は新聞を読んでいた。

 隣には彼女の盟友である長谷川が座っていた。

 早良はこの清水産業大学の大学院に所属している。専攻は生物学。大学の卒論は「クローンによるグルメの復活」についてだった。小さい頃から動物図鑑が大好きだった彼女の考えている事は失われた生物をどうにかこの世に蘇らせたいという物だった。最近は、深海生物に重きを置いていて、修士論文もそれに関係する事にしようと思っていた。

 横にいる長谷川は、彼女と小学校時代から同じ学校に通っている親友である。彼女は生命倫理について学んでいる。特別早良と仲が良い。共に苦楽を分かち合った盟友なのだ。

 そんな二人が読んでいる新聞。そこにはここ最近多発している海難事故について書かれている。最初は四国沖、続いて紀伊半島沖、続いて浜松沖。どれも船が原型を留めない程破壊されていて、生存者が一人もいないと言う怪事件だった。

 中にはどこかの国の潜水艦にでも沈められたと考える者をいた。

「何か、きな臭い話だね。慣れて来ると怖い物で、もうそのニュースは聞き飽きたよ」

 長谷川が笑いながら話した。確かにこのニュースに慣れて来て以前よりも驚きを感じなくなってきている。

 しかし早良は指を振るのだった。

「今回は違うんだよね」

 長谷川がきょとんとしていた。

「今度の事件は生存者がいたんだよ」

 潜水艦対策で海上を警備していた海保の船が、たまたま爆発を目撃したらしく、すぐに救助へ向かったとの事。

「本当なの?」

 長谷川が身を乗り出して、新聞の一面をじっくり読む。

「小型漁船かいゆう丸の乗組員倉田丈さん(二十六歳)を海上にて保護」

 早良はそこの部分に指を当てた。

「生存者がどんな証言をするかが気に成る所でしょ」

「この倉田さんって言う人?」

「そうだよ。静岡の病院に運ばれたそうだけれどこれから取り調べが大変だろうね」

 早良は新聞のページをめくった。関連するニュースで、海自が動くらしい。我が国の領海防衛の為だそうだ。もしかすると戦争に成るかもしれない。それだけは避けて欲しかった。

「本当、この先どうなっちゃうのやら」

 その時、授業初めのベルが鳴った。

「あ、ごめん私三限目有るんだった」

 長谷川が急いで立ち上がると、早良に手を振って、駆けていった。

 早良はそれに応じると、長谷川の姿が見えなく成るのを確認して再び新聞に眼を凝らした。

 この倉田がどんな事を言うのだろうか?

 仮に、潜水艦に撃沈されたのだとしたら倉田は何も分かる事無く沈められたという事に成る。でもそれ以外はどうだろう。

 海賊? いや船を爆破する必要は無い。

 それに、彼女は気に成る一文を見付けた。

「これまで被害に有った船体と同じく、船は左右からの圧迫によってへし折られた形に成っている」

 魚雷による攻撃ならばそのような痕跡が残るはずが無い。

 左右挟み撃ちにして、同時に魚雷を当てたのだろうか?

 いやいや、何故そんな手の込んだ事をしなければ成らないのか。

 早良は倉田の第一声が気に成っていた。

 新聞の記事を真に受けると、倉田は事故後すぐに救助された為特別目立った外傷は無いそうだ。ただメンタルの部分はダメージが大きいだろう。船が沈められ、一緒に乗っていた船長は行方不明。失語症に成ってもおかしくは無い。

「でも海の男だもの。きっと大丈夫だろうね」

 完全にステレオタイプだが彼女にはそう願う事しか出来なかった。

 やがて早良は、別の記事に眼を移す事にした。

 消費税がまた上がるらしい。食料品やライフラインに関する物は、増税から除外して欲しかった。

 これで彼女の研究費用も大変な事に成るだろう。

 もっとも、早良は博士まで行くつもりは無かったが。

 このまま生物学研究所に勤務したかった。ただその為にはインパクトの有る論文を仕上げなければならない。

 論文の提出までにはまだまだ時間が有るがそれはいつまでも続く物では無いのだ。授業の単位は足りている。後は論文、右も左も論文なのだ。

 新聞を読み終えた彼女は、図書館で本を借りる事にした。ダーウィンが残した進化論の研究書が目当てだった。

 こうしてその日、早良は大学で本を借りて、気に成る授業を聴講するのだった。

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