13.ペレオン対セト
八王子の東から、物凄い速さで迫る物は、空自も察知していた。それは、東京湾から現れ、真っ直ぐ西へと進んでいた。
空自のFが、それをマークしようとしたが、その速度に追いつく事は出来なかった。
「一体何だと言うのか?」
管制官は、まだ知らなかった。それが宿命の対決の始まりだという事を。
『GWOOOOOOOOH!!』
セトが叫ぶ。
その先にヤコブの梯子を抜けて、それが急接近して来た。ペレオンだった。
ペレオンは八王子駅前に陣取っているセトに体当たりをかました。セトの身体が大きく仰け反った。
セトの足元にいた丈、早良、渡辺は強風から身を守った。ただ一人、京子の救出を行おうとした坂下だけが、風に飛ばされ、数メートル引きずられた。
「坂下先生!!」
早良が駆け寄ろうとする。
「早良さん、危険だ!!」
丈が彼女を制する。
ペレオンが、回頭して再びセトに迫ろうとする。セトが再度身構える。ペレオンとセトが再びぶつかる。セトは首根っこを、ペレオンの腕に引っ掻けられ、一気に八王子駅前から京王八王子の辺りまで引き摺り出した。
瓦礫が飛び、丈達を強風が襲う。坂下も、身体を地面に丸めてやり過ごした。
「ペレオンが奴を引き摺り出してくれた。チャンスだ!!」
渡辺が一気に走る。その先は、坂下が取り付いている地下通路入口では無かった。先程までセトが腹部を突っ込んでいた、地下通路への穴だった。すぐにザイルとロープで固定すると、渡辺達は一気に地下へ降り立った。
薄暗い中に生臭さが有った。
「危ない!!」
女性の叫び声が聞こえると、何かが渡辺に殴りかかってきた。渡辺はそれを避けると、ピストルをホルスターから引き抜き、発砲した。
ガン、ガン、ガン、ガン!!
目の前のそれは、真っ黒い血飛沫を上げると倒れ伏した。セトの幼体だった。
周囲を見ると、卵が残り三つも有った。
「小隊機銃を」
渡辺が求めると、上から機銃が渡された。
渡辺はそれを構えると、三つ有る卵全てに弾丸を叩き込んだ。真っ黒い体液が飛び散り、肉片が床に壁にぶち当たる。全ての卵が体液を失い萎んで行った。
渡辺は振り返ると、大声で叫んだ。
「救助に来た」
ペレオンは翼を操り、再度セトの頭を掴み、北野の方へ引き摺り回した。セトは、鎌を振り上げて応戦するも、全く当たらない。
一しきりセトを痛めつけたペレオンは、アーケード街を突き破り、日本の足で着陸した。
『PAAAAAAAAAARGH!!』
ペレオンが雄叫びを上げる。
『GWOOOOOOOOH!!』
セトも応じた。
ペレオンは大地を蹴り、一気にセトへ向かった。セトが身構える。ペレオンが殴りかかる。セトは鎌を器用に使い、その一番硬い部分でペレオンの拳を受けていた。
パンチが効果無しと見たペレオンは、鼻先の角を使って攻撃しようと頭を低く構えた。そのまま突進する。だがそれは、セトにとっても恰好の攻撃チャンスだった。ペレオンが角を突き出すのが先か、セトが鎌を頭に振り下ろすのが先か、勝負は本の少しのタイミングのずれで大きく変わる状態だった。
ガキン!!
硬い物同士がぶつかる音がした。ペレオンは大きく後ずさった。セトも同様だった。
『PAAAAAAAAAAAAAAARGH!!』
ペレオンは体勢を立て直すと、再び吠えた。
一気にペレオンが走り込む。セトは、そのペレオンを常に正面に捉えられるように構える。ペレオンが跳躍してセトにぶつかる。二体はもつれたまま、列車の高架駅を薙ぎ倒す。
ペレオンが馬乗りに成る。そのままセトの首に手をかけようとする。
しかし、セトは黙っていなかった。腹部がスパークすると、セトの口が開き、上にのしかかるペレオンの顔面に向けて霧状に溶解液を吐いた。
『AAAAAAAAAARGH……!!』
ペレオンは顔面を抑え、地面に転がった。セトはその隙に立ち上がると、背中の甲を開き、虹色に輝く翅を広げるのだった。ペレオンは顔から煙を昇らせて、苦しみ回っていた。
セトが宙に浮かぶと、八王子の駅に向かって飛んでいった。
「京子、京子!!」
坂下が地下から引き上げられた夏服姿の少女に穴から救出したその姿のまま抱き付いた。
「お父さん、ごめんなさい、ごめんなさい」
少女――坂下京子も坂下に抱き付いた。
「良かった、本当に良かった……」
坂下は京子の肩を叩いた。
「次の方で最後です」
渡辺が地下から報告した。出入り口を塞いだ糸に絡められた人々も何とか救助に成功していた。渡辺が、金髪の若い男をロープに括り付けると、一緒に穴の外へ上がって行った。
「大変だ、セトが戻って来る!!」
隊員の一人が大声で叫ぶ。
「もう少しだ、粘るんだ!!」
渡辺は、最後の民間人を穴の外に置くと、滑車を外した。
ブウウウウウウウウウウウウウン、という不吉な音がした。そのままセトは腹部を元有った位置に押し込んだ。
間一髪、間に合った。
「さあ、逃げましょう」
渡辺が丈、早良、坂下、京子、そして救出された全ての人達に優しく述べた。
セトは、自分の腹の下の様子がおかしい事に気が付いた。顔を押し込む。そこには、萎んだ四つの卵が残されただけだった。
『GWONWONWON!』
セトが突然暴れ出したから丈達は焦った。大地を揺らし、溶解液をそこかしこに吐き散らかす。
「急いで逃げるぞ!!」
坂下が一気に八王子駅のビル陰に隠れようとした。
「そっちへ行ったら駄目です!!」
渡辺が必死に止めようとした。が、間に合わなかった。溶解液が駅ビルを溶かし、一気に瓦礫の塊が落ちて来た。それは、一人先走った坂下の真上に有った。
ドンッ!!
不吉な音がした。誰もがそれを認めたくなかった。
坂下が立っていた所には、坂下を遥かに超える大きさの瓦礫が静かに転がっていた。
「嫌ああああああああああああああああああ!!」
京子が叫び慟哭した。
ペレオンは再び立ち上がった。顔面の皮が所々剥け、肉が露出していた。ペレオンは背中に翼を引き出し、ジェット噴射を吹かした。白い煙が広がる。ペレオンの身体が宙に浮かび上がる。
ペレオンは八王子に真っ直ぐ向かった。そして怒りに任せて暴れ回っているセトに飛び蹴りを食らわせた。セトが横に弾き飛ばされる。
ペレオンはぐるりとセトに回り込むと、羽を格納し、勢いそのままスライディングして、火球をセトに向かって吐き出した。火の玉がセトに吸い込まれていく。着弾、大爆発が起こる。ペレオンは足を止め、セトがいた所を睨んだ。
しかし、それでもセトは倒れなかった。セトは煙の中、翅を震わせていた。空へと飛び立つつもりだった。
ペレオンは一気に加速して、セトに飛び付いた。セトがバランスを崩す。ペレオンはセトの翅を掴んだ。僅かに宙に浮いていたセトが再度地面に脚を着く。ペレオンは、右腕の肘先に飛び出た骨――ペレオンスライサーを、セトの無防備な背中に突き立てた。セトが苦悶の声を漏らした。真っ黒い体液が噴き出し、ペレオンスライサーを伝ってペレオンの手を汚す。ペレオンはセトの背中側に回り込むと、ペレオンスライサーを左右に振り、傷口を深めようとした。
セトとペレオンはもつれ合ったまま、駅の方に向かって行った。
「放して!! お父さんが、お父さんが!!」
渡辺は暴れる京子を抑えつ付けていた。丈がそれを援護する。
「坂下先生……」
ショックを受けているのは京子だけでは無いようだ。
「早良さん!!」
丈は早良に叫んだ。
八王子駅の線路を横断している丈達は不吉な音が近付いているのが分かった。
「早良さん、早く!!」
丈は叫ぶ。駅ビルに衝撃が走る。早良もハッとして、上を見上げた。
伸び上がったセトとペレオンが、くんずほぐれつの状態で、駅ビルへ倒れ込んだ。
早良が一気に走り逃げる。そのまま線路を渡り切った。
そこでは、救出用の最後のトラックに、渡辺と丈が京子を押し込んでいた。早良もその荷台に飛び乗る。
「出してくれ」
渡辺が運転手に叫んだ。
丈達は、倒れながらも戦う二体の怪獣を後ろに、逃げ去るのだった。
その後ろでは、ペレオンがセトの翅を引き裂いていた。
ペレオンは、ペレオンスライサーを引き抜くと、両手を組んで、セトの後頭部を殴った。セトの後頭部に生える角が圧し折れ、丈達が乗り込むトラックの方へ飛んでいった。運転手は何とかそれを避けると、一気に幹線道路に向かって進んで行った。
セトが寝返りを打つように転がったから、ペレオンは振り落された。セトは背中からどくどくと黒い体液を漏らしていた。しかしその傷口を、甲で隠した。セトは鎌を振り上げると、ペレオンに向かい進んだ。鎌の一撃が、空を切る。ペレオンはペレオンスライサーでそれを防いだ。逆に、鎌の根本を狙い噛み付いた。それもすぐに振りほどかれる。両者、一進一退の戦況だった。
セトが脚を全開にして大きく伸び上がると、ペレオンにのしかかった。ペレオンはそれに応じ切れず、倒れてしまった。その上をセトが押し付ける。鎌による攻撃が、ペレオンの頭部を狙う。腕も抑えつけられたペレオンは、なすすべも無く鎌の攻撃を浴びていた。突かれた先から体液が滲む。セトの鎌先が真っ赤に染まる。セトが止めを刺そうと腹部をスパークさせる。
しかしペレオンはその瞬間を狙っていた。口から火球を吐き出すと、それがセトの屈み込んだ頭部を直撃した。
『GWOOOOOOOOH……!!』
セトが顔を焼かれ悶絶する。その隙にペレオンは翼を伸ばし、ジェット噴射で一気にピンチから脱出した。
ペレオンは少し離れると、再び翼を格納した。二本の足で再び着陸するペレオン。そこをセトが突撃した。セトが攻める、攻める、攻める。リーチの長い鎌による攻撃にペレオンは防戦一方と成る。セトは地上においてペレオンを超える運動性を持っていた。脚を細かく動かすと、滑るように道路を渡り、器用に飛び上がると、ビルの側面にしがみ付く。ペレオンは、右に左に揺さぶられた。セトが素早い動きでペレオンに反撃の機会を与えずに、かつその隙を突こうとしていた。ペレオンは防御態勢のまま、じりじりと下がって行く。
日野駅が見えた頃、セトはペレオンに突撃した。セトの牙が、ペレオンの腹部に噛み付く。真っ赤な体液が噴き出す。ペレオンはそのセトの頭の両頬の角を掴んだ。その角は刃のように鋭かった。だからペレオンの掴んだ両手は、掌を切って、赤い血液が噴出していた。だがペレオンはそれを放さなかった。力を思い切り込めると、噛み付いているセトの顎を身体から離した。セトの鎌がペレオンに襲い掛かる。ペレオンはそれに耐えると、セトの頭を力を込めて下に押さえ付けて、右膝でそれを蹴り上げた。
セトが一気に引き下がる。効いているようだ。ペレオンはクルリと回転すると、長いしっぽでセトを薙ぎ払った。セトが駅の方に吹き飛ばされる。日野駅は木端微塵に吹き飛んだ。
『AAAAAAAAAARGH!!』
ペレオンが叫び、一気に畳みかける。だがセトは、それを躱してみせた。ペレオンのパンチは空振りに終わり、その突き出された上腕に、セトが噛み付く。
『EEEEAAAAAAAA、EEEEAAAAAAGH……!!』
ペレオンが天に向かって吠えた。赤い血液が、コンクリートの街を染めた。
ペレオンはセトの首根っこを掴むと、自ら後方へ倒れた。巴投げをかましたのだった。セトはぐるりと回ると、一気に地面に背中から叩き付けられた。ペレオンは立ち上がると、セトにストンピングを食らわせた。セトが地面を転がり、苦悶の表情を浮かべる。このまま一気に勝負を決める。まるでそう意識したように、ペレオンはセトの頭部を集中して狙った。
だがペレオンのターンはそこまでだった。ペレオンはセトの鎌に足をすくわれた。ペレオンがバランスを崩して倒れる。そこをチャンスとセトが立ち上がりペレオンの背後に一気に回り込む。立ち上がるペレオンを、鎌が襲い掛かる。ペレオンはじわりじわりと東に追いやられて行った。ペレオンは急いで振り返る。その瞬間、セトの溶解液がペレオンに向かって発射された。ペレオンは頭からそれを被ってしまった。
『AAAAAAAAAARGH……!!』
ペレオンはゆっくりと倒れ伏した。身体の至る所が痙攣していた。
セトは止めを刺そうとした。両方の鎌を、大きく振りかぶって、真下に振りかざした。倒れたペレオンの背中に二つの鎌は突き刺さった。大流血しどくどくと赤い沼が作りだされていた。
丈と早良、京子、渡辺は立川駐屯地に辿り着いていた。
「お父さん……、お父さん……」
京子はショックを隠せないでいた。
早良もショックが抜け切れないでいた。坂下が、死んでしまったショックは、二人の表情に影を落とした。
「早良さん……」
「丈さん……」
「坂下先生があんな事に成ったのは残念だと思う。でも気を強く持って。坂下先生も、そう望んでいるはず」
それに噛み付いたのは京子だった。
「何でそんな分かったような事が言えるの!? お父さんは、お父さんは、私を助けようとして、無念の最期を遂げたのよ!! そんなお父さんが何を言うかなんて、分かるはず無いじゃない!!」
京子は充血した眼で丈を睨み付けていた。眼も赤ければ鼻も赤かった。
「京子ちゃんだっけ……? 坂下先生は、もう何を仰ってくれるか分からない。でも私達が坂下先生に引き摺られてここで死んでしまうのはナンセンスだと思うよ……」
早良はそう呟いた。腹の奥底から絞り出すような声だった。
「だから今は、生きる事だけを考えましょ」
丈には、そう気丈に振る舞おうとする早良が痛々しく思えた。丈は坂下という人間を完全に好きには成れなかったが、早良は違ったのだろう。本当に尊敬していたからこそ、早良のショックは大きかったと言える。
丈は似たような感情を持っていた。彼は、この一連の騒動で尊敬していた船長を失った。それだからこそ彼は生き延びねばならないとそう確信していた。
そして彼は、この事件のラストシーンまで見届けたかった。
「ペレオンとセトがこちらへ向かって来ます」
渡辺が血相を変えて報告した。
「大変だ、撤退の用意を」
髭面と、面長眼鏡がそれを聞き、真っ先に現れた。彼等は手近なジープに乗り込むと、すぐに国道の方へと去って行った。
「こういう時だけ決断が早いな」
渡辺は呆れ返った。
「倉田さん、早良さん、坂下さん、私達も逃げましょう」
しかし、丈は動かなかった。早良も同じだった。
「僕達は、この戦いを見届けたいのです」
丈はゆっくりと、しかしはっきり話した。丈の決意に早良も頷いて答えるのだった。
「見届けるって、ペレオンとセトの戦いをですか?」
渡辺は、京子の腕を掴みながら丈と早良を見やった。
「怪獣が見たいならば、映画館に行けば良いじゃないですか!!」
渡辺の声には非難の色が見えた。彼等がペレオンとセトの戦いを遊び感覚で見ているのでは無いとは分かっていた。だが、彼は自衛官なのだ。例え海自の自衛官だ管轄外だと言われても、民間人を危険に晒すような事はしたく無かった。
「でも僕は、船長の命を奪ったこの戦いから眼を逸らしたく無い」
丈は矢張り静かに述べた。
早良もその横に並んだ。
「私も、坂下先生を失ったこの戦いの最後を見たいです。だから、残らせて下さい」
そんな丈と早良のやりとりを見て、渡辺を振り切り京子まで横に並んだ。
「私もお父さんを殺したあの怪獣の行く末を見たいです!! それで死んだとしても、構いません」
三人の決意は固かった。渡辺は困ったような顔をしたが、溜め息を一つ吐くと、笑ってみせた。
「分かりました、そこまで言うならば。私も残りますよ、最低限私達を守ってくれる隊員を募ります。屋上に上がって下さい。そこからは良く見えるはずです」
渡辺はそう言うと、一刻も早く退避しようとする陸自の隊員達の所へ走っていった。
丈達は、自衛官の流れとは逆流し、駐屯地本部の屋上に向かった。途中何人かが、彼等を妨害しようとしたが、丈はそれを上手く躱した。早良と京子もぴったりくっついていた。
屋上に出ると、西の方から爆発音が聞こえた。
セトが立っていた。ペレオンはどうしたのだろうか? 丈は目を凝らして、セトの方を見た。やられてしまったのか?
「丈さん、ペレオンは……?」
早良が聞いた。丈は何も答えなかった。答えられなかった。
「あの怪獣が、お父さんの仇……」
京子はまだ泣いていた。現実の復讐を出来ない悔しさから出た涙だったのだろうか……?
「ペレオンは、きっと立ち上がってくれる……」
丈はキッとセトのいる方向を睨んだ。
「私もそう思いましたよ」
丈が振り返ると渡辺がいた。脇に数人の陸自の隊員が立っていた。
「渡辺さん」
渡辺は丈に何かを投げた。受け取ってみると、それは双眼鏡だった。
「有難うございます」
渡辺は、早良と京子にもそれを渡した。
三人で揃ってそれを覗き込む。セトが見えた。しかしペレオンはどこにも見当たらない。
と、セトの足元で爆発が起きた。その炎の中からペレオンが立ち上がった。所々流血している。
「ペレオンが、立った!!」
早良が、喜びの声を上げる。
立ち上がったペレオンは、セトに向かって構えた。セトは脚を細かく動かし、素早い動きでペレオンを撹乱していた。
「自衛隊がペレオンを援護する事は出来ないのですか!?」
丈は不機嫌に渡辺にぼやく。
「自衛隊、いえ、防衛省では、セトもペレオンも同じ危険生物として考えられています。それは、この前の会議でも分かった事ですよね」
渡辺が返す。もっともな意見だ。
「ペレオンを信じるしか無いか」
丈は独り言ちた。
ペレオンはセトの攻撃を防御していた。セトは鎌を振り上げ、上空からペレオンを痛めつける。ペレオンは再度回転すると、しっぽでセトを薙ぐ。セトが倒れた。ペレオンはその隙に、しっぽでセトを何度も打った。セトが口から溶解液を吐いた。それがペレオンのしっぽから背中にまでかかる。
『EEEEAAAAAAGH!!』
ペレオンが悲鳴を上げた。よろめくペレオン。だが、ペレオンは、二本の足で踏ん張った。
振り返ったペレオンをセトが突進し、突き放す。ペレオンは吹っ飛ばされる。そこに、更にセトが攻撃を加えようと接近した。ペレオンはそれを受け止める。両手で鎌を押さえ、蹴りを食らわせる。セトがそれに動揺の色を見せた。ペレオンは力づくで、セトの驀進を防いだ。そのまま横に倒そうとする。だが、脚力はセトの方が上だった。ペレオンは、やがてじりじりと押されて行った。
セトがまた溶解液を吐こうと、腹部をスパークさせる。それを見たペレオンは、鎌を掴んでいた両手を放し、セトの顎を抑えた。溶解液を発射しようとしたセトは、それを口内で防がれてしまった。セトの口から煙が噴き出す。セトは頭を大きく振って、ペレオンの束縛から逃れた。しかしその口内はボロボロだった。
セトは怒り狂い、鎌を次から次へと払った。ペレオンは後退した。鎌の一撃が頭頂部に直撃した。ペレオンは大きく仰け反り、悲痛な叫びを上げた。だが、ペレオンも負けてはいない。ペレオンスライサーで鎌を受け止めると、セトの顔面を殴りつけた。そしてそのまま頭部を掴んだ。ペレオンは翼を引き延ばすとジェット噴射を吹かした。セトの巨体を掴んだまま、ペレオンは空へと舞い上がった。
「どこに行くつもりなのでしょうか?」
早良が双眼鏡を片手に、二体の後を追った。二体は雲海を抜けてその先にまで進んで行った。
「これ以上上を見ると太陽を見てしまう。僕達はここで大人しくしているしかないか」
丈は唇を噛むのだった。
ペレオンは雲海を抜けて、更に上空を目指した。セトが必死に抵抗する。鎌の一撃が頭に何度も当たる。ペレオンの額はぱっくり割れていて、そこからとめど無く体液が漏れていた。
ペレオンはそこで、手を放した。セトが一気に重力に引かれて落ちていく。セトは背中の甲を開き、翅をばたつかせた。しかし、セトの翅は既に引き裂かれていた後だった。セトはなすすべも無く、落下していった。
「来ました!!」
早良がそれを見付けた。空中より落ちて来るそれは、セトだった。
雲を引きながら、セトは真っ直ぐ、立川駐屯地の北へと落ちた。
物凄い衝撃が立川周辺に伝わる。丈、早良、京子、渡辺も身を低くしてそれを堪えた。駐屯地本部を初め、付近に有るビルのガラスが木端微塵に吹き飛んだ。丈達が、再び立ち上がった時、セトの落ちた辺りは土煙が昇っていた。
ペレオンも急降下すると、セトの落下地点東にジェットを吹かして着陸した。
ペレオンは、セトの墜落地点を睨み付けていた。
丈達も、その二体を交互に見た。
土煙の中から、セトが姿を現した。背中の甲が、大きく割れていた。黒い体液が噴出し、周囲の建物を汚していた。頬の角も片方が欠けていた。
しかし、セトは戦闘態勢を崩さなかった。六本の脚でしっかりと立ち上がって、鎌を上空へともたげた。