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PEREON  作者: 屋久堂義尊
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12.救出作戦

 漆黒の闇の中を陸自のトラック部隊が八王子を目指して進んでいた。隊員達は自動小銃を片手にトラックの後ろに座っていた。約十台の空トラックも用意されていた。

 渡辺は仮眠をとっていた。作戦が執り行われるのは四時の予定だった。朝日が昇る頃だった。ヘリコプター部隊が果たしてどこまで効果が有るのか、渡辺は信用していなかった。

 ただ、この救出作戦を失敗に終わらせてしまえば、空自の爆撃が始まってしまう。何人もの民間人が取り残されている中で、そんな事をするのを渡辺は静かに見守るなんて出来なかった。大衆を救う為に少数を切り捨てるなんて許されない事だった。

 やがて、トラックは駅の南側に止まった。隊員達は線路に入る。駅の南北通路の北側は、セトの溶解液によって崩されていた。見上げてみると、セトの巨大さが良く分かる。鎌を振り上げれば全高九十メートルは有るだろうか。その内三十メートル程を鎌が占めていた。しかし、眠りに就いているセトは鎌を降ろして小さく縮こまっていた。

 作戦開始時刻まで、残り一時間。渡辺は電気カッターを使って、線路と道路の間の柵を取り払っていた。セトに見付からないように慎重に、慎重に。

 通路を作り出した渡辺は、次々と現れる陸自の隊員達を通路から北側へ移動させた。

「目標はどこだ?」

 渡辺が問う。

 一人の隊員が、自動小銃で指し示したその先には、変色したセトの粘液が入口を塞ぐ地下通路が見えた。

「あそこだな。爆破班、用意」

 空が段々と明るく成っていた。渡辺は、額に取り付けていたライトのスイッチを消した。

 バルバルバルバルバル!!

 ヘリのローター音が聞こえてきた。四時だ、作戦開始だ。

 渡辺の眼の前で、セトが巨体を動かし始めた。



 丈は立川駐屯地で拝借したジープで、八王子駅の南口に到着した。助手席から早良が降りる。

 空が明るく成って来ている中、ヘリコプターのローター音だけが駅ビルにこだましていた。

「本当にこんな所に坂下先生がいるの!?」

 早良はヘリの音に負けないくらい叫んだ。

「可能性は一番高いよね!!」

 丈も同じだった。

 陸自のトラックが大量に南口に集まっていた。

「ご苦労様です」

 丈が隊員の一人に声をかけた。

「な、民間人は下がって下さい」

「その民間人が、救出部隊に混ざっているんだよ」

 聞いてその隊員の顔色が青ざめる。

「それは確かなのですか!?」

 丈は、駅の方を見やった。ヘリコプターにセトが視線を移していた。

「確かめている時間は無い。急いで通してくれ」

「し……しかし」

 ドンッという音がした。

『GWOOOOOOOOH!!』

 セトが唸り声を上げる。その様子を、一斉に陸自達が見上げた。それは、丈の相手をしていた隊員も同様だった。

 丈と早良はその隙を突いて、駅ビルに入っていった。北口の方は塞がれていた。

「丈さん、降りましょう」

「ああ」

 丈と早良はホームへと走り、線路へ飛び降りた。北口の方を見やると巨大な焦げ茶色の生物が蠢いていた。あの足元に坂下がいるのか? 丈と早良は一気に線路を横断した。一番北側に辿り着いた時、柵に穴が開けられているのが分かった。

「ここから抜けられるな」

「そうですね」

 早良は網状の柵を潜り抜けた。丈も続く。

『GWONWONWON!!』

 セトがしきりに叫んでいた。

「あ、あそこです」

 早良が指差す先には、座り込み、チャンスを待つ迷彩服が見えた。

 丈と早良はそこまで一気に駆ける。

 それを見た渡辺が驚いた声を上げた。

「倉田さん、早良さん、一体何をしに来られたのですか!?」

 その声色には彼等を非難する物も含まれていた。

「坂下先生がいらっしゃらないのです。もしかしたらこちらに来ていないかと」

 その時、ヘリのローター音が遠ざかって行った。

「作戦は失敗か」

 渡辺が無念そうに呟く。

「ここには坂下教授はいらっしゃらない。彼には辛い報告をせねばならなくなりました」

 と、一人の自衛官が、粘液で固められた地下通路入口に突っ走って行った。

「おい、作戦は失敗したんだぞ」

 渡辺が叫ぶ。と、その自衛官はヘルメットを投げ捨てた。坂下だった。

「坂下教授!?」

「坂下先生!!」

 セトの巨大な脚が、ゆっくりとこちらにその向きを変える。

 しかし、坂下は、叫び散らしながらアーミーナイフで彼の前に立ちはだかった粘液を切り付け始めた。

「京子、京子おお!!」

 坂下が一心不乱に叫ぶ。

 すると中からくぐもった声が聞こえて来た。

「お父さん……? お父さんなの?」

 坂下はそれを聞き、粘液に刃を突き立てた。

「下がっていろ京子、今お父さんが助けてやる」

 しかし、無情にも、渡辺と丈が坂下を抑えつけた。坂下の腕をねじり上げながら渡辺は嘆息を漏らす。

「全く、無茶な事を」

「放せ!! 早くしないと、爆撃されてしまう!!」

「私だってこのまま引き下がるつもりは無いです。チャンスはまだ有ります。それを貴方が信じないでどうなさるのですか!?」

「クソおおおお!!」

 坂下が悲痛な叫びを発する。

 だが、彼等は騒ぎ過ぎた。セトは完全に狙いを騒ぎ立てている三人に向けた。鎌が振り下ろされる。

丈と渡辺は、反射的に身を転がして避けた。だが坂下の事を放してしまった。坂下は一気に、再び粘液に駆け寄る。その危険行為を止めようとした時、再度鎌による一撃が振り下ろされた。コンクリートがめくれ上がり、水道管が破裂した。

 セトが鎌をもたげる。が、そのまま動きを止めた。

 セトの巨大な脚が蠢き、身体の向きを変える。

 丁度朝日を睨むように、セトは遥か上空の雲に眼を向けていた。

 その隙に、丈と渡辺は、早良のいるフェンスの所まで後退した。

「一体何が始まろうとしているんでしょう?」

「僕に聞かれても……」

 渡辺と丈は目の前の事態を収めきっていないようだった。

 しかし早良は違った。

「来たんだわ」

 彼女はそう呟くと、右手を上げて、人差し指で一点を指し示した。

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