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PEREON  作者: 屋久堂義尊
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10.セト逃げ去る

 早良と丈は、セトが巨体を地面に突っ伏して、貪り食っているのを見た。口元は森に隠されていて良く見えなかったが、確かに何かを食べていた。早良はそれが人間で無い事を祈った。丁度山の輪郭に沿って走っている道にいた二人は、起き上がったセトと同じ目線でいられた。セトは、天を見上げると、口元に付着した肉片を飲み込んだ。

「急いで自衛隊に連絡しないと」

 早良はスマートフォンを取り出すと、大急ぎで現在地を調べた。

 一方丈は自分の仇を見た。憎しみの籠った眼で。

 肉片を飲み込み終わったセトは、鎌を手入れしだした。口元に持っていくと、舐めまわすのだった。丁度、昆虫がそうするように。

 すると、今までこちらに気が付かなかったセトが、振り向いたのが丈は分かった。獲物を見付けた眼が、ギラギラと光る。しかし丈は怯まなかった。その眼を逆に睨み付けた。

 異変に気が付いた早良が、スマートフォンに叫んだ。

「今、狙われています!! 早く来て下さい!!」

 セトは確実に丈と早良を狙っていた。脚をわしゃわしゃと動かして、近付いて来る。唾液と生き物の体液の混じった口内が、眼の前に迫る。

「きゃあああああ!!」

 早良が思わず声を上げ、丈の腕にしがみ付く。

 その時だった。上空から空を切って火球がセトのがら空きの背中の甲羅に直撃した。

『GWOOOOOOOO!!』

 セトが鎌を地面に突き刺して、もたれかかる。丈が上空を見上げると、何かが急降下して来た。ペレオンだ。

 ペレオンはそのままセトの背中にのしかかった。両手が、セトの顔面の頬に有る刃状の角にかかる。背後からの急襲にセトは鎌をばたつかせて抵抗する。ペレオンは放さず、全体重をセトにかけて抑え込もうとしていた。セトの角の切れ味に、ペレオンの両手から血が滲む。ペレオンの顔に苦悶の色が見えたように丈には思えた。セトは、背後に取り付かれた事から殆ど一方的に攻撃を受けていた。時折背中の甲羅を広げ、翅を使って飛ぼうとするが、ペレオンはそれを全力で阻止していた。

 しかし、セトの反撃はすぐに展開された。セトは思い切り鎌を後ろへ向けると、ついにペレオンの頭に鋭い一撃をくらわせた。

『AAAAAAAAAARGH……!!』

 ペレオンが悲痛な叫び声を上げる。その手が、抑えつけていたセトから離れる。ペレオンは頭を抱え、悶絶していた。額が割れて、流血している。今度はセトのターンだった。

 セトは素早い動きでペレオンの上にのしかかった。六本の脚が、ペレオンの身体をがっちり掴み、ペレオンの両腕を締め付ける。そうして動けないペレオンを、二本の鎌が襲った。セトはペレオンの顔面を鎌で叩いた。鎌先が当たるたび、火花が飛び散る。ペレオンは動けない。一方的な展開に、ペレオンは追い詰められていった。ペレオンは、振りかざされた鎌に果敢にも噛み付いた。そのまま放さない。だが、残ったもう一つの鎌が横薙ぎに払われ、ペレオンは殴りつけられた。口の中から血が溢れていた。セトは残酷にも更に攻撃を加える。と、ペレオンの背中から煙が溢れ出した。翼を展開したのだ。ジェット噴射が地面を焦がす。ペレオンの身体が僅かに浮かび上がる。だが、セトは、先程ペレオンがそうしたように、全体重をかけてそれを妨害した。ペレオンは続いて、息を深く吸い込んだ。口角から煙が漏れる。逆転の一撃をかけた火球が吐き出された。しかしそれは、ほんの僅かな距離でセトの頭部を掠めた。それが逆にセトの怒りを買う事となった。セトは次から次へと鎌を振り下ろした。ペレオンが、段々動きを鈍くしていく。ついに顔中血だらけで、動きを止めてしまった。

『GWOOOOOOOOOH!!』

 セトが勝ち誇った雄叫びを上げる。

「ペレオンが、負けた……?」

 早良が丈の腕に捕まったまま、息を飲んだ。すっかり動きを止めたペレオンをセトはやっと解放した。セトの狙いは、変わっていなかった。セトはゆっくりと、丈と早良に近付いて行った。

 その時だった。セトの身体の側面で爆発が起こった。

「何……!?」

 早良は怯えきった眼でその光景を見た。山の陰から、陸自のヘリコプター部隊は現れたのだ。早良の通報が実を結んだのだ。

 ヘリコプター部隊は、動かないペレオンを無視してセトに攻撃を集中した。爆発に次ぐ爆発がセトを包む。セトが僅かに仰け反っているのが分かった。

「良し、そのまま押し切れ……!!」

 丈は拳を作っていた。勝てるかもしれない。

 しかし、その考えは甘かった。セトは、くるりと向きを変えると、ヘリコプター部隊に直進していった。鎌を振り上げて、ヘリコプターを襲う。ヘリコプターの一機が、鎌に叩き落される。山肌に墜落したそれは大爆発を起こした。早良が眼を覆う。続いての敵に狙いを定めたセト。その腹部が盛り上がり、スパークする。セトの口から金色に輝く液体が発射された。その霧が、ヘリコプター部隊を覆った。ヘリの装甲が溶け、プロペラが圧し折れ、無残な形と成ったヘリコプター部隊は、一気に大半の戦力を墜落させてしまった。

「溶解液だと?」

 丈は唖然とした。このセト、果たして勝てる相手なのだろうか。絶望的なイメージしか湧かなかった。

 その時、火球がセトの背中の甲羅に直撃した。大爆発が起こる。その爆風は、早良と丈のいる山肌の道にまで迫った。

「きゃあああああ!!」

「くうう!!」

 早良と丈は、身を屈めた。

 しかし炎にも熱風にもさらされなかった。丈が恐る恐る見上げると、ペレオンが立っていた。両腕を広げ、仁王立ちだった。

「まさか、守ってくれたのか……?」

 ペレオンは、丈と早良を見た――ような気がした。

『AAAAAAAAAARGH!!』

 雄叫びを上げたペレオンは、爆発の中に瞳を向けた。ブーンと言う風切り音と共に、セトが煙を棚引かせながら上空へと飛んで去った。

 ペレオンも身を屈めると、背中から翼を生やして、ジェットを吹き出し、空へと向かって飛んでいった。

 全てが終った後、残されたのは、大量のヘリコプターの残骸とその生き残り、そして早良と丈の二人だけだった。

「丈さん、有難うございます」

「お礼はペレオンに言うんだな」

 現場に残された二人は、近くに陸自のヘリコプターが着陸するのを見届けた。


 太陽の下セトとペレオンは空中戦を展開していた。ペレオンがセトに体当たりをしかける。ペレオンは向きを変え、スピードを変え、セトを攻撃していた。セトは一方、繰り返しぶつかってくるペレオンに鎌を振り上げて応戦していた。

 空自はそれを見逃さなかった。もう逃がす事は許されなかった。

「目標、静岡沖に南下」

「出し惜しみは無しだ。付近のFを呼び寄せろ。ペトリオットも使え」

 駿河湾沖を哨戒中のファントム91が二機、ペレオンとセトの元へ向かう。

「ミサイル発射を許可する」

 ファントム91の攻撃が始まろうとしていた。

 だが、二体はそんなファントムの様子は気にしない。ペレオンはセトの頭に殴り掛かった。セトは空中でホバリングをした。

 そこがチャンスだった。ファントム91が一機、ミサイルをぶつけた。大爆発が起こる。

 だがセトは生きていた。セトの脇を通過して行ったファントム91に向かって溶解液を発射した。やられる!! しかし、その攻撃は、ペレオンが盾になる事で防がれた。

『AAAAAAAAAARGH!!』

 ペレオンの身体が煙が沸き立つ。

 残ったもう一機のファントム91がミサイルを発射した。それは、ペレオンの翼を貫通して、ボディに直撃した。

『PAAAAAAAAAAAAAAARGH!!』

 ペレオンの悲鳴がこだまする。爆炎を棚引かせながらペレオンは、落下していった。

 残されたセトは、ファントムの相手をせずに、上空高くへと舞った。

「目標の運動性、当機を上回ています」

「決して逃がすな。殲滅せよ」

「駄目です。逃げられます」

 セトは一気に加速すると、その場から消えていった。

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