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PEREON  作者: 屋久堂義尊
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プロローグ

 時に二〇一五年七月六日深夜、静岡県沖西伊豆町西沖十五キロメートル。

 小さな漁船が一隻浮かんでいた。

「今日もさっぱりだ」

 髭面の初老の男が、船内に巻き上げられた網を見てぼやく。

「全くその通りですね。魚群探知機にも反応有りません」

 ねじり鉢巻きをしたまだ若い男が、船内に備わった超音波レーダーを見て溜め息を漏らす。

「こんなに上がらないのは、俺が船に乗って三十年間、初めての事だよ」

 髭面の男――おそらく船長は全く収穫が無かったこの漁に不安を感じていた。取れ無ければ、生活に関わって来る。この所の原油値上がりで船を出すたび大きな賭けをせねばならないと言うのに。

「影も形も無いのだからどうしろと言うのでしょうか?」

「焦ってもしょうがないぞ丈。魚群探知機から目を離すなよ」

 丈と呼ばれた青年は、ねじり鉢巻きを締め直すと探知機に眼を凝らした。

 と、その時だった。

「来ました船長! 大物です!」

「何、本当か!?」

 魚群探知機には大きな群れが塊となって映し出される。確実に巨大な群れだ。

 髭面の船長が網を投げ入れたのと同時に探知機は不審な動きを見せた。

「船長、群れがこちらへ迫って来ます!」

「何だって?」

「!?」

 船が波打ち始める。

「違う、これは群れなんかじゃ無い。船長……!!」

 丈は叫びと共に甲板に出た。海がこんもり盛り上がった次の瞬間だった。巨大な何かが、船を底から突き上げると、挟み込み砕くのだった。

 船は爆発を起こし、丈の身体は海に投げ出された。何が起こったのか分からないまま、丈は粉々になった船から飛んで来た救命用の浮き輪にしがみついた。

「……、船長! 船長!!」

 必死に声を上げるが、全くその姿は見当たらない。

 ただ、船の半身が、ゆっくりと海へ引きずり込まれているのが分かった。

「船長!!」

 丈が叫んだその時、信じられない光景が目の前に広がった。

 海が再び山状に二カ所盛り上がる。波飛沫の中姿を見せたのは、焦げ茶色の何か巨大な物が二本、月明かりに照らし出されて。それはまるで、甲殻類の鎌のように見えた。

 その二本の鎌は、状に向かって振り下ろされようとした。

「やられる……!!」

 丈が最期を思った時、物凄い荒波が浮かんでいる丈を押し流した。今度は何か鞭のような物が、海上に姿を現した。

 それは、丈に襲い掛かろうとした二本の鎌を叩き込み、海中にそれらは絡み合いながら消えた。

 その衝撃で、海面が大きく揺れる。浮かんでいる丈は、上下左右に振り回された。

「今のは一体……」

 月明かりが眩しい程に成った。

 丈はその時初めて気が付いた。

 彼の真下の海中を移動する巨大な影に。

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