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 私は逃げている。現在進行形で逃げている。

 この国は、逃げることに対して否定的だ。小さい頃から、強い敵が現れれば「おら、ワクワクすっぞ!」などと陽気なセリフを発して、敵をけちょんけちょんにする漫画が、発行部数一億部を突破するような国である。生まれもっての狂戦士を育て上げるのが大変お上手な国である。最近では、それに加えて、腕をびよんと伸ばしながら仲間を大事にすることにも力を加えているから恐ろしい。心の底から恐ろしいと思う。



 だから、私も逃げてはいけないのかもしれない。しかし、私の目の前に現れた敵はとてもじゃないが、私に太刀打ちできるような相手ではない。だから、私は逃げた。逃げるしか無かった。その場から力の限り全力疾走をした。

 


 たしかに、その敵と戦って敗れ、何かを得ることもいいかもしれない。敗れた瞬間に、「ああ。悔しいが今は、勝てない。でも、いつか必ずこの強い相手にも俺は勝ちたい。勝ちたくなるから勝負はやめられないんだ」とさとることも必要なのかもしれない。しかしだ。そんなものは、人間ではない。単なる人間の面をした化け物だ。豚かもしれない。私の考える常人ならば、負けた瞬間「もうこんなの嫌だ。どうせ勝てない。もう嫌だ。明日からは引きこもる。」こんなネガティブな感情になるのが普通ではないのだろうか。そして、数日立ってから一人反省会が始まる。自問自答だ。どうすればよかったのか。自分には何が足りなかったのか。これを永遠自分が満足するまでやるのである。

 


 では、私は今何をしているのだろうか。逃げているのである。しかも走ってだ。

 私は、呼吸を整えるために、膝に両手をついて肩で息をした。そして、私は顔をあげた。あげた瞬間、ビルとビルの隙間から電車のホームに一人、たつ綺麗な女性の姿が目に入った。彼女は、風に靡くその長い黒い髪を右手でそっと乱れないように押さえていた。なんとも可憐な姿であった。もし、自分がその横に立っていられるのならば、いっそのこと彼女の風よけになってあげたい気分であった。

 


 私にも守りたい人がいた。しかし、その強敵を目の前にして怯える私を見て、彼女は愕然としたに違いなかった。私は、それ以来、彼女とは連絡を取っていない。正確には、昨日の話ではあるが。彼女は、とても綺麗であった。月並な言葉ではあるが、自分にはもったいない女性であり、大変魅力的なボインな女性であった。いわゆる、男性100人に聞いたら、一度は付き合ってみたいと必ず言うであろう女性である。私とて、健全な男である。そのような女性を目の前にして、逃げるという行為をしたくはなかった。しかし、明らかに私には力がなかった。その敵を倒すために。悔しいの一言である。

 


 もう、どれくらい走ったのだろうか。10キロか。20キロか。しかし、私は、道路標識を見て愕然とした。

「3キロだと……」


 私の体は、限界に近づいていたのであった。私は、逃げ切れるのか。 


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