アホでヘタレのハンターチャンス
いたって平凡な少年だった。
友達と一緒にゲームやトレカで遊んだり、何とかごっこしたり、
勉強はそれなりにやったけど、友達とゲームするのが楽しくて
そのほかにはまったく目を向けなかった。
でも、周りはそうじゃないと気づいたのはいつのころだっただろう。
そろそろ高校受験勉強しなきゃいけないよなー。
と周りが言い始めるころ、周りの(特に女子)がイベントごとに騒ぐようになった。
最初はお祭り騒ぎだったのに、雌の本性をその目に感じ始めたのは
環境が変わって、高校に入ったころだ。
やれ帰りにどこかに寄ろうとか、やれ一緒に帰ろう、
弁当一緒に食べよう、日曜どこかに行こう、好きです、付き合わないか…
興味もない、ほぼ初対面か、記憶にも残らない同級生か
目をぎらつかせてドヤ顔で猛進してくる女子に辟易していた。というか怖い。
友達は、ブーイングしていたけどあんなのどこが良いんだ。
無理やり上目遣いで(俯いて上を見るから目の筋肉痛くないのか)
邪な感情が見て取れるニヤリアヒル口、鼻をつまみたくなる臭い。
トイレに行きたそうに見えるクネクネした態度にムカツキを覚える。
(あれを見ると、両腕を押さえて「落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
と言いたくなる。んなことしたら触られて勘違いされるからやらないけど。)
俺は、ゲームしてさえいればいい。
母親からは、“残念なイケメン”と称されるくらいゲームにのめりこんだ。
専門はRPGだけど、友達に勧められるならアクションでもシュミレーションでも
格ゲーでもできる。今は何より友達と遊ぶのが楽しかった。
あの日、彼女に逢うまでは………………
その日、昨晩いいところで電源落とせずほぼ徹夜でゲームしてたせいで
ゲーム発売日にショップに行く予定だったのに、寝坊して慌てて
駅に向かった。これで、ゲーム買えなかったらマジ凹むわー。
早く乗りたい電車が来たらしいから、来た方向を見ると
休日の昼にはあまり人が居ないはずなのに1人の女子生徒が居た。
休日に、女子生徒…制服着ているから判ったんだけど、
あの制服ウチのだよな?休日に予定なんかあったのか?ご苦労なこって…
ブワァァァァァァ…
電車が俺の前に来ると、通過する風で彼女の編んであるお下げが舞った。
尻の下辺りまで伸びた重そうな髪の束が、紙切れのようにフワフワ舞って
思わず見惚れてしまった。
彼女が動くまで、扉が開いていたなんて気づかず慌てて乗る、俺。
乗ってからも全力疾走したように動悸が激しく、顔も熱くて
動悸が激しすぎて、胸を押さえてようやく俺が彼女に一目惚れしたと自覚した。
16で初恋とかアホみたいに遅くない?
なんて、ハハハハと心の中で笑っていたら
彼女がいつの間にか降りたことを知った。車内に居ないし。
正真正銘のアホでヘタレだ。オレ。
それから、何度か休日に駅に行ったけど現れなかった。
電車通学なのかもと思い、朝自転車登校なのに駅に行って待ち伏せる。
同じ学校なのだから学校で会えるかもと、周りを見ているのに居ない。
もちろん、上級生も見てみたけどない。一体彼女は誰なんだ!
そんな奇行は、すぐ噂になり友人の笑いのネタにされた。
「お前、一体誰を探してるんだよ。」
「知るか。」
「俺らだって探してやるから特徴言ってみww」
「笑いながら言うな、アホ!」
一向に現れない彼女はもしかしたら、実は天使か転送されたのか
という中二妄想しだしたころ、俺は生徒会長になった。
自分で名乗ったんじゃない。悪友共がノリと罰ゲームで俺を指名したんだ。
結構無関心で学校生活送っていたのに、なんであんなにも投票するんだバカ共。
でも、ここに彼女がいるかもと応援演説や就任演説で
周りを見回しても一瞬で過ぎる視界に捕らえられるはずもない。
落胆しながら会長業務で校内を歩き回っていた。
「田辺、気をつけて帰るんだぞ。」
「はい、ご迷惑をおかけしました。コンコンっ。」
社会の先生と、疲労の声をにじませる少女の声に目を向けて驚いた。
この2年半探していた女子生徒!!
つーか、なんであんなに弱っているんだ!大変だっ!
と駆け寄ろうとしたら、今の後期の会計の女子が駆け寄って
わからないことがあるのに、後期役員誰も居ない。と、
にじり寄ってきた。…っ近い、寄るなし職務以上の眼をして見るな!
視線を彼女の方に向けると、もう居なかった。
てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
この2年半の努力が報われそうだったのにっ、
思いをこめて会計の女を見て、必死で後期のヤツか先生を探せと言い放つ。
女が怯えるがそんなのこと俺には関係ない。むしろ俺が泣きたい。
とりあえず、今掴んだ手がかりを離さないよう情報収集をすることにする。
そう、さっき彼女と話した社会科教諭に聞けばいいんだ。
「先生、さっき話していた田辺さんのことなのですが
用事があったのですが何組か忘れてしまって…」
「あぁ、森川君。田辺さんなら4組だが体調崩してね。
熱を出しているから今日は帰ったよ。
用事なら私が担任だから聞くが、何だったかな?」
この先生は、俺と同じ学年のそう4組の担任だ。
良かった。俺と同い年か。年上だったら卒業してるかもと思ってた。
「いえ、直接本人に聞きたいことだったので本人に聞きます。」
そう、学校のことだったら教師に聞けばいいが
俺が聞きたいのはごく私的なこと。直接本人に聞かないと意味がない。
ただでさえ教師は多忙というのに、この先生は受験する学年の担任だ。
特に用はないといえば深く考えず立ち去ってくれた。
しかし、困った。
彼女―田辺さんは、どうやらインフルエンザにかかったらしく
当分学校に来れない。学校保健法によると解熱から2日経ったあと
登校可能になる。だけどいつ熱が下がるのか判らない。
このまま何も、接触もないまま卒業してしまうのだろうか。
この2年半、顔を見ることがなかった同級生。
相当目立たないおとなしい女子なんだろう。
誰かと一緒に居るのも見なかったのだから、友達も居ないか少ないだろう。
それで、次の学校イベントは…卒業式になってしまう。
このままでは、このまま苦い思い出のままになってしまうのだろうか。
それは、絶対にイヤだ!!
と、思った俺は周りの人間が震撼することを実行した。
“森川俊樹 9教科中4教科赤点につき補習”
そう、インフルエンザでテストに出られなかった田辺さんに
早く逢うのはこれが最大のチャンス。補習だ。
親や教師友人や知らない連中までも理由を聞いてきたが、
インフルエンザ流行っていたので、具合悪いことにした。
補習教室に入ると、マスクをかけた彼女が最後尾の席でもう取り組んでいた。
内心ニヤリとした俺がその前の席に着く。
とりあえず、何があってもいいようにテストを全部書き上げて、計画実行。
「消しゴム貸して。」
小声で後ろに向かって言うと、すぐに消しゴムが俺の肩にとんとんしてきた。
やっっっっっっっっっべ、肩から幸せが広がってく…
ナニコレシアワセ。と恍惚としながら用意した紙を消しゴムの紙ケースに
はさんで返す。これで、田辺さんはなんて返してくれるかな。
……………逃げられたし。orz
なんで?返事聞いてないのに帰るかな。
それが返答とも受け取れるけど、そういうのも直接聞きたかった。
だから、ダンッ!て教卓にプリントを置いて彼女を追いかける。
体格差あるし、彼女はまだ病人だし、ということで幸いにもすぐ追いついた。
いきなり走りすぎて咳が止まらないようだ。
その咳の仕方と音が気管支が弱い母親のに似ていたから、
慌てて自販機でジュース買ってきた。温かいミルクティなら誰でも飲めるかな。
彼女に渡して飲ませると、少し落ち着いたようだ。
よかった、母親を見ていると咳が続くと体力がそがれてとても辛そうだからな。
少し落ち着いたところで、俺のことどうなのか聞いてみた。
「ぐっ……………!!」
まだ飲んでいたらしく、むせたので背中をたたいた。
小さく柔らかく儚げな女の背中だ。
さするとホックらしい突っかかりがあってドキドキするが耐えろ、俺!
「受験生だから付き合うとか
そんな状態じゃないのは分かってるけど、」
まぁ、俺はもう進む大学決まっているから関係ないんだけど
大学進学するやつらは今が最大の追い込みだろうし、
就職するやつらはもっと大変なはずだ。長すぎる不況だし。
だから、恋だの交際だのに気持ちを持っていくのは不適切なんだろうけど、
今を逃したら多分一生逢えない。だから、
「卒業式になったらとか言っても
田辺さんすぐ帰っちゃうだろうし、
同窓会とかにも来ないだろ。」
田辺さんは、同意の表情を浮かべた。
今まで交友らしいことを見てこなかったのだから
卒業式や同窓会などの友情ムードいっぱいのイベントにも来ないだろう。
だから、このまま何も言わないのは嫌だったというと、
彼女は複雑そうな顔を浮かべた。信じてはくれないだろうか?
まぁ…そうだろうな。
今まで見かけたことがないのだから、
田辺さんなら壇上に居る俺を見たかもしれないけれど
ただ“見た”だけだ。接近したこともなければ話したこともない。
ほぼ初対面。田辺さんからすればテレビの向うの人感覚なのかもしれない。
なんか、やっていることが俺が嫌っていたハイエナ(♀)みたいだ。
それだったら、今の田辺さんの心境もわかる。
でも、だからといって諦めるのは嫌だ。やっと逢えて判ったけど
田辺さん、おとなしくて外見も内面も可愛い癒し系だ。
とりあえず、俺のことを受け入れてくれるか生理的に無理なのか聞かないと。
「田辺さん。」
「っは、はい!!」
逃げないよう両方の肩をつかんだら驚くほど上がった。
可愛いなぁ、もう。
「この話、
1.俺が急ぎすぎた。
2.俺に興味がない。
どっち?」
少しの変化も逃さず見ようと思ってたら
思わず顔が近すぎたらしい。田辺さんの顔が見る見る赤くなる。
戸惑うように動く瞳、揺れるまつげ、キュッと結ばれた濡れる唇。
どれもが俺を魅了する。しかも、近いからわかるシャンプーの香り。
だめだ、すっげぇ抱きしめたい!!
なんだ、この可愛い生物は。
いや、18年くらい生きる人間だけど、それにしてもめちゃ俺好み!
なんて、下心どころか底辺心的な邪念にとらわれていると
田辺さんは、小さく1…かな。なんて、なんてっ!三点リーダーすら愛おしい!!
そっか、俺ウザがられてない!望みは十分にあるんだな!!
と、内心小躍りしていたら、俺のことまったく知らないから返答できないとか。
知ってたらいい返事くれそうなニュアンスで返事してくれるから、
送りながら、俺のこと知ってもらおうと思ったら…
……………逃げられたし。orz (2回目)
なんで逃げるんだ、なんかいい方向に向かって行ったっぽいのに。
しかたない。と、玄関にカバン放り投げて自転車で追いかけた。
学校から近くにある駅に着いた時、改札を通る田辺さんを見つけた。
逃がすかぁ!
急いで切符買って、走りこみ乗車(危険なので真似しないでください)して、
田辺さんの居る車両に向かう。
本日二度目の病人の全力疾走で、相当疲弊したのか
座っていた彼女は、可哀想なくらい肩が揺れている。
駆け寄って、背中をさすると(背中のホック背中のホック背中のホック背n…)
まだそんな体力あるのか、ものすごい勢いで顔を上げた。
「大丈夫?」
「…え、…ハァハァハァハ…も、りかわ……く、ん。」
なんか息継ぎが、ものすごく色っぽい。クルな。
「俺まだ田辺さんの連絡先も住所も知らないし、
次の日曜の打ち合わせもまだだよね?」
“逃がさん”の気持ちをこめて真剣に言うと、
目を大きく見開き“信じられない”という顔をした。
「ちゃんと送るから。」
俺は、君に逢えて嬉しい。という気持ちをこめて笑顔で言った。
あれ?ハンター過ぎて犯罪臭がする(笑)
そして、私の中の森川像からドンドン離れて行ってる。こんな危ないヤツだったか?
長編になりつつあるあの小説が行き詰って短編に手を出しました☆-(>ω・)
作中にある『学校保健法によりインフルエンザは解熱2日後に登校可能』と
ありますが、今年の4月から改正になるようです。
でも、解熱しても菌は残っているし潜伏期間が10日くらいなので
解熱後1週間は休んで欲しいといわれましたけどね。先月子供が掛かったの。
あと、途中田辺さんの口元が見えますが咳がひどすぎてマスクを外しています。
もちろん、周りに誰も居なくて一時的なつもりで。
咳をする時大きく息を吸うので、マスクをすると息苦しいんですよね私。
気管支が弱い母は私です。急激な寒さとストレスで咳が止まりません。
皆さん体調管理には気をつけてくださいね。(私もか)