その1 7年後の世界。
「んあっ…」
目を覚ました私はまず捻れて体に巻き付いているパジャマと布団を外す。1世紀前より合成繊維が増えてきているけども、私はやっぱり天然素材の自然な柔らかさが好きです。そして毎朝の習慣であるカーテンを開く。
(うん、今日もイイ天気だ。)
始めまして、私は天野奏子と言います。能力者の教育を専門にしている神永学院高等学校に通う、新高校2年生です。後、生徒会副会長をやっています。
「…さっ、今日も一日頑張ろう!」
私は急々(いそいそ)と学校へ行く準備を始める。
約100年前。能力者という存在が現れました。その後1世紀近く経ったとき、とある能力者による紛争によって大きな戦争が起きて、そして7年前その戦争が終わりました。私の弟の悠斗は出ましたが、前線に出れない私は保護されたまま最終戦を迎えました。【15年戦争】とか【能力者大戦】とか【ラグナロク】とか様々な言葉で言われるその戦争は私はよく知りません。悠斗が言うには、今自分が生きていることがオカシイくらい激しかったそうです。7年前。ベイズを消費仕切っていた悠斗を見たときは涙が出ました。参加した中で生き残っている能力者がほんの一握りしかいなかった最終戦で、唯一の血の繋がった存在も死んだかと思いました…。ですがあの《ベイズ》を消費仕切っていましたけど、必死に笑顔を見せている悠斗を見て、いつの間にか私も泣きながら笑ってしまいました。
ちなみに《能力者》とは『エネルギー量子を操作干渉することによって超常的非科学的な現象を起こすことが出来る人』のことを、《ベイズ》とは『能力者がエネルギー量子を操作干渉する上で脳から出ている脳波動』のことを言います。たまにエネルギー量子のことを《ベイズ》と言いますが、あれは実は間違えなんです。
「奏子ちゃぁ〜んっ!!ご飯できたよっ!!」
「はぁ〜いっ!!」
制服に着替えた私は急いで階段を駆け下り、リビングに入ると、台所には見知ったとても美しい女性が可愛らしいエプロンを着けて朝御飯を作ってくれてました。
「奏子ちゃん、おはよう。」
「うん、おはよう。シェリーさん。」
「ふふっ、今日も元気ね。」
「はいっ!!」
煌く金髪と大きくクリっとした碧眼、すっきりとした輪郭、私もため息が出るほどの綺麗な容姿を持つシェリーさんは、数年前から私たちの生活を見てくれている協会の方です。…あっ、協会とは《国際能力者協会》のことで、全世界の能力者の登録と治安活動をしている組織です。日本の能力者学校を卒業した能力者の半分はこの協会に入ります。その職員であるシェリーさんは死んでしまったお父さんの元同僚で、その関係で今は保護者のような存在になってもらってます。
「奏子ちゃん、ちょっと悠斗くん起こしてきてくれない?」
「えっ、悠斗まだ起きてないんですか?」
「ええ。昨日ちょっと夜更かししていたみたいで…、ふぁ…。」
シェリーさんは可愛らしく小さな欠伸をしていた。どうやらまた夜遅くまで仕事をしていたみたいだけど、いつ見てもシェリーさんの肌は白くて綺麗…。化粧水とかに秘密があるのかな?
「はい、分かりました。」
私は急いでまた階段を駆け上がると、一番突き当たりの部屋の前に行ってノックする。
「…悠斗、まだ起きてないの?悠斗、入るよ。」
一言おいて部屋に入ると、悠斗は涎を垂らして寝ていました。
…全く、相変わらずだらしないんだから。
「悠斗、悠斗、早く起きて!!今日は入学式なんだから早く起きて!!」
私はいつものように体を揺らします。
「んなぁ…?」
「ほらっ!!早く!!」
「………30秒待ってやる。」
「なんでっ!!パ◯ゥはいないよ!!」
「………坊やだからさ。」
「意味分からないよ!!んもぉ〜…、早くしてよ!!」
「…ん、姉さんおはよう。」
「ふぅ…、ほら早く下に行こうよ。シェリーさんの朝御飯はもうできるよ。」
悠斗はワシワシと髪を掻いて、ゆっくりと体を起こします。
「ん、了解。」と聞こえるか聞こえないかくらいの大きさの声で返事をすると、大きな生欠伸をした。
「…で、姉さんはいつまでいるの?」
「え?」
「おっと、姉さんは弟の生着替えシーンを見たいのか。そうかそうか、ならばこちらも見せてしんぜよう!!」
「わわわわわっ!!ごっ、ゴメン!!」
突然脱ぎだした悠斗に驚いた私は、顔を真赤にして急いで部屋を出ました。
「ほ…ビックリした。もう、悠斗ったら。ホント…無茶しちゃって…」
そのとき1階からシェリーさんの声が聞こえました。
「―――奏子ちゃぁ〜んっ!!今日は早く出るんじゃないの!?」
…あっ!!しまったっ!!
私は急いで階段を駆け下ります。
今日は生徒会の仕事でいつもより早く出ないといけません。入学式の準備をするからです。
「シェリーさん、朝御飯食べられます?」
「もう出来てるわ、熱いうちにどうぞ。」
「すいません、頂きます!!」
「はい、召し上がれ。」
シェリーさんの熱々の手料理、スクランブルエッグやロールパンという洋食の朝食に私は飛びつく。
『―――次のニュースです。』
ん?
『近日《連合》の残党が活発に活動し始めた、という情報が入ってきました。』
またか…。
『【15年戦争】が終わり既に7年が経ちました。しかし未だ《協会》は全ての《連合》の幹部を捕まえておらず、対応の遅さが批判され―――。』
《連合》とは【15年戦争】を起こした《能力者絶対主義者団体》を基幹とした集団のことを言います。22年前、アメリカで武装蜂起した《能力者絶対主義者団体》の影響は一気に世界へ飛び火し、相次ぐ問題により国連は崩壊。アメリカも事実上崩壊。そして世界同時地域紛争が勃発しました。その後、無能力者を守るために、虚飾化していた《協会》を【天乃川悠介】という男が立て直し、世界を混乱させる《連合》を倒すために立ち上がりました。幾度となく衝突した二つの勢力は、ついに『天乃川悠介』が連合の最高司令かつ、【15年戦争】を起こした張本人の『アイザック・キング』を相討ちによって、戦争は終結しました。そして世界は「共生主義派」に傾き、ようやく世界情勢は安定しました。これがラグナロクの簡単な流れです。ちなみに戦争により世界人口は一気に減りましたが、全人口は70億人。その内、能力者はたったの100万人です。現在の世論は、もちろん人によっては違うけど、一様に「共生主義派」の《協会》についていくという考えは共通しています。
これは2年前の高校受験での数少ない筆記科目で毎年出る問題だったから、今でもこの流れを覚えています。まぁ、その時代の後半をこの目に見ていたということもありますけどね。
私はようやく朝御飯を食べ終わったので、急いで歯を磨き、リビングにおいてある通学カバンを取ります。
「あれ、姉さんもう出るの?」
「あっ、うん!!…悠斗、制服よく似合っているよ。」
ちょうど制服に着替えてきた悠斗がいました。黒っぽいブレザーっぽいうちの制服は、悠斗の大人びいた雰囲気にとてもよく似合っていました。多い白髪もチャームポイントになるしね。
「ああ、ありがとう。それにしても姉さんはいつも綺麗だね。」
「うっ、うん…ありがとうっ!!」
私は顔伏せながら靴を履きます。たまに悠斗はこういうことを真顔でいうから、私困っちゃいます。
「奏子ちゃん、確かお弁当いるって言ってたよね?」
とシェリーさんがいつものお弁当箱が入った袋を私に持ってきてくれました。手触りが変わっているこの袋は、保温性が非常に優れているので一般に広く使われています。
「―――それじゃあ、行ってきます!!」
「いてら。」「いてらっしゃい♪」
私は悠斗とシェリーさんの声を背に受け、私は家を出ました。
さぁ、今日も一日頑張ろう!!