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英雄に安寧の日々はない  作者: ハンス
第0話 天野悠斗
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その6 シェリー・ディア・カリス

 「作戦は成功しました。《R663K》により、あの能力者(シビル)とアシスタント、コンドルのアジトを全て葬りました。」

 正装したコンドラトは先ほどまで悠斗がいた別の協会支部の応接室にいた。作戦の経緯を知らせるデータチップを新田に渡す。

 「ご苦労。協会の能力者(シビル)はやっぱり強いのか?」

 先ほどの腰の低い態度と打って変わって、葉巻を悪趣味に加えている箕島は横柄に言った。

 「はい。うちの防衛部隊が数分でやられました。」

 「そうか。…ちなみに《R663K》は完成したか?」

 「ええ、あなたの援助もあって数日前に。あなたのご注文通り、シュミレーションでは領域を設定できるはずです。これ以上にテロに向いた兵器はないでしょう。」

 「ほぉ…、他の完成品はどこにある?」

 「ここに。計210発を建造しておきました。」

 さらにコンドラトはデータチップを新田に渡す。渡された新田はすぐにデータを開き、中身を確認した。そこにはコンドラトが予め運び出していた他の最新式の兵器のデータも入っていた。新田は確認したことを箕島に知らせる。

 「うん。なかなか素晴らしい働きをしてくれた。」

 「ありがとうございます。お約束通り、今後も支援していただけますね?」

 「…いや、すまないが変更だ。」

 箕島の言葉にコンドラトは眉を寄せる。

 「―――君はここで退場だ。」

 「なっ!?!?!?」

 新田は懐から銃を取り出し、コンドラトの脳天を撃ちぬいた。そして返り血で自分たちの服が汚れないよう不透明の障壁が展開され、飛び散った血がカーテンを作る。

 「しっかりと処理してくれ。」

 「はっ、すぐに処理班が来る手はずになっています。」

 「そうか…。」

 箕島は血の匂いで充満した応接室を出、自分の部屋支部長室に入り、椅子に自分の体を預けた。

 「それにしても…ようやくここまで来たのだな。」

 「はい。もうすぐあの忌々しい協会を潰すことが出来ます。」

 「ああ…、我々《連合》が負けてすでに7年…。国際的にも政治的にも我々は徐々に弱体化していくだろう。しかし、天乃川悠介に破れ散っていったアイザック様の本懐を叶えるために苦渋を飲み続けた甲斐が…今報われる。」

 「はい…。」


 「やっぱり、協会内部にも敵がいたわけだ。」

 支部長室中に銀色のエネルギー量子(ベイズ)の結晶体が現れる。


 「これは…、《量子可視化(クアンタム・フォール)》!?」

 「―――まさか!!」


 「協会を舐めて貰っちゃあ困るな。」


 部屋の扉が派手に破壊され武装集団が部屋に入り、箕島と新田に銃を向ける。

 「貴様…生きていたのか…」

 「ああ、逆に爆発が弱すぎてビックリしたよ。」

 銀色のベイズを纏っている悠斗は悠々と部屋に入ってくる。

 「…データでは、大量の紫紺石(ラクナチウム)が含まれていたはずです。なのに何故能力を使用できたのですか?」

 「俺は特異体質でね。そういう奴には一応影響は受けるんだけど、気合入れたら関係ないんだよね。どうしてかは知らないけど。」

 「対対能力者兵器(アンチキャンセラー)…銀色の《量子可視化(クアンタム・フォール)》…、まさかあなたは【カイト】!?」

 「あり?紅條(くじょう)のやつ、ちゃんと情報統制してんのかな。…まっ、いっか。」

 悠斗は緊張感なくポリポリと頭を掻く。

 「にっ、新田くん…【カイト】とは何だ?」

 「任務成功率100%、戦後数々の騒乱や組織を鎮圧・駆逐してきた高レベル能力者(シビル)です…。対対能力者兵器(アンチキャンセラー)を持ち、しかも抽象(アブストラクト)系の能力を持つ能力者…。」

 「そっ、そんな【精鋭】ラグナロクで聞いたことがないぞ!!」

 「ふぅ〜ん、幹部クラスだったみたいだな。こりゃイイもん釣り上げたよ。―――んじゃ、後のことよろしくねぇ〜。」

 悠斗は予め協会から呼んだ制圧部隊の隊長の肩を叩き、部屋を出て行く。


 「悠斗さん。」

 「おっ、シェリー。データは取れたか?」

 「はい。」

 外で待っていたシェリーは悠斗の横に侍り、一緒に外へと向かう。

 「どこまでいけたか?」

 「研究に関与していた組織、支援していた人物、そして…こんな方まで。」

 シェリーは結果を悠斗の前にパネルで表示した。

 「…こいつ生きていたのか?」

 「通話記録をサルベージしました。」

 (…えっ?)


 一瞬だけ。ほんの一瞬だけ。


 「…そうか、あいつが…か。」


 悠斗は今までに見たこともない息をこらした顔をしていた。

 触れば自分が消されるかもしれないほど、重い顔を。


 「…まだ天乃川悠介()は死に切れないか。」


 何を言ったか聞こえず、声を掛けようとしたが飲み込んだ。


 「…よし。シェリー帰るぞ。」

 「はっ、はいっ!!…って何かありましたっけ?」

 「爆笑オンエアバトル(オンバト)があんだよ!!」


 その言葉を言ったとき、悠斗はいつものお道化た顔に戻った。


 「―――って録画すればいいじゃないですか!!」

 「バカヤロウ!!あれはリアルタイムで見るからこそいいんだよ!!」


 駆け出した悠斗にシェリーは慌てて追いかける。


 (私は…あなたが何者か知りません。ですが…。)


 どこかコドモっぽく、どこかオトナっぽい。


 (私、シェリー・ディア・カリスはあなたの背中を追い続けます。)


 二人は対応に追われる隊員の間を通り抜き、支部の出入口から光の中へ飛びだした。

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