その4 弱者の力
ゴーグルを付けたシェリーは、小さく肩で息をしながら跳ねるように通路を進んでいく。
「ハァ…ハァ…」
(―――左の通路から3人、右の通路から4人。…なら!)
腰のグレネードを3つ取り、ショルダーバックから拳銃を取り出す。
(接近まで…、―――3…、2…、1…。―――今!!)
シェリーは常識では有り得ない跳躍をし、右の壁を蹴る。右の通路にはグレネードを。目的の扉へと続く左の通路へ飛び込むと、そこには4人の男が立っていた。シェリーはマントで銃と体を隠し、小さく構えた。
そのうちの如何にも柄が悪そうな男が嬉しそうに口笛を吹く。
(―――全員レベル4…、まぁこのような所ではそうしょうね。)
ゴーグルに表示されるベイズの放出量から算出すると、そうなる。
ならば相手にしても倒すことは難しくないだろう。
「うっほ〜、上玉じゃねぇですかい!」
「ああ。」
「いやぁ〜久々に楽しめるぜ。この前買ってきた無能力者も壊れたからなぁ…。」
「そうだな、今夜は宴だな!」
通路にゲラゲラと不愉快な笑いが響く。
(…また、そのことですか。)
シェリーは遠慮無く不快感を顔に示した。
今までに何回もこのような唾棄すべき男と出会ったことがあり、その度に自分の体を上から下まで舐め回されるような目付きで見られる。その度に自分を拭い捨てたくなるような不快な気持ちになるのはどうしても慣れない。もちろん慣れるつもりはないが、人からチヤホヤされやすいこの容姿に生まれたことにやはり悔やんでしまう。
(だから男というものは…、いや。そういえば一人いましたね。)
シェリーはある青年の顔を思い出すと、洗い流すようなため息と共に小さな笑みを浮かべた。
(私に色仕掛けをさせたのに、まるで効果がありませんでした。)
先ほど別れた相方は常に自分を一人の人間として扱う。一応美人のプライドとして何回も色仕掛けをしたが、いつもスルーされてしまう。一度男色家かと思ったが、あれの姉曰くしっかりと女性に対して興味を持っているそうだ。
コンビを組んで何年も経つが未だに「掴ませ」ない、不思議な青年。
(ふぅ…、なんだか考えてるのが馬鹿らしくなってきました。)
勝手に盛り上がっている能力者たちと対峙していることを思い出し、相手が傭兵と云えども能力者であると自分に忠告する。
「…《国際能力者協定:第16条》において、あなた方の心身を保証します。速やかに投降してください。」
凛として言ったシェリーに、男たちは大笑いした。
「おい聞いたか!?無能力者が投降しろってよ!?」
「ギャァアッハッハッハッハッ!!」
「ヤバイな…、いいね気が強い女は嫌いじゃないぜ。」
「うわぁ〜カッコイイ!」
井の中の蛙たちはそう騒ぐ。
「再度通告します。《国際能力者協定:第16条》において、あなた方の心身を保証します。速やかに投降してください。」
さらに男たちは笑う。4人のうち1人は笑い転げていた。
「…では、あなた方を捕縛します。」
そのとき。
シェリーの姿は消え、男たちの背後に現れた。
「―――なっ!?!?!?」
1人は突如出現したシェリーに何とか反応したが、シェリーにとっては嘲笑するほどの遅さだった。
シェリーはまずその能力者の首もとを掴みグローブの装置によって高圧電流を流し、気絶させる。その次にその能力者を蹴り飛ばし、別の能力者にぶつける。
「きっ、貴様ぁ!!」
叫ぶ男の手に焔を舞わせ、何やらを収束している慌てふためく男は、2人はシェリーに放とうとする。
(遅い。)
脇下に構えていた拳銃から麻酔弾を露出している肌に放った。
「…このクソ無能力者がぁ!!」
気絶した仲間ごと蹴り飛ばした能力者は、仲間を乱暴に退かすと、【加速】させたライフル弾を数十発飛ばす。だが、その男の思惑通りにシェリーはならなかった。
「消えた!?」
すると又もやシェリーは姿を消した。
「ガガアアァァァァァァァっ!!!!!!!!」
男の背後に【移動】したシェリーはスタングローブで気絶させる。
「…無能力者は確かに《弱者》です。しかし、《無力》ではありません。」
と諭すかのように能力者に言った。
(さて、急ぎましょうか。)
シェリーは目的の扉がある方へと移動を始めた。