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英雄に安寧の日々はない  作者: ハンス
第2話 リアノルド事件
26/30

その10 「エロス!!」

 あの日、私の(プライド)は完全に打ちのめされた。

  『この愛しい愛しい甘ちゃんに見せてやるよ、その番狂わせ(アップセット)を。』

 どこか変な魅力を持つ、目の前の彼に。

  『———久々にすげぇ弾幕見たよ、ビックリした。』

 ほぼすべての能力者(敵)に対して、私の【加速】は圧倒していた。なのに、あの日だけは違った。変則的な動きによって私に全く的を定めさせず、私の一瞬の隙を見逃さずに一撃で仕留めた。

 強い。

 しかも、()()()()()()()も分からせないほどに。

 「“レベルって何”、ねぇ。」

 その問いを一度溜飲し、そして吐き出すと彼は苦笑していた。

 「その質問は難しいな…。多分お前は“レベルなんて関係ない”とか俺が言うと思ってるんだろ?」

 「…違うの?」

 「違うに決まってるだろ。お前らAクラスより遙かに使えるベイズが少ない俺たちは火力の弱さを痛感しているんだよ。しかもその火力があらゆることで関係してくる。だから『レベルは関係ない』っていうことはねぇ。」

 「………。」


 じゃあ、あなたはなんなの?


 私の圧倒的な火力を無視し、一撃で私を倒したあなたは。


 「でもセンパイには関係ないですよね〜。」

 と、雪子先生が北浜さんの治療をしながら言った。

 「関係無くはない、って今言ったじゃねぇか。バカ雪子。」

 「もぉ〜バカ雪子って何ですか!だってセンパイは【荒事専門(ジャック)】の中でも随一の依頼成功率を持ってるじゃないですか!!」

 「ホントホント?雪子せんせっ!!」

 「そうだよ〜、なんたって依頼成功率が―——。」

 「ちょっと俺、宮崎に連絡してくるわ。」

 「わぁああああああああああああああ!!やめて!!!!お願いします!!!!本当にやめて!!!!」

 彼が席を外そうとすると雪子先生は彼に飛びつき止めた。

 ここまで泣きそうな雪子先生は始めて見る。よほど怖い教官なのかしら、宮崎さんは。

 「え〜いいじゃん教えても。」

 「…小晴先輩。あんまり調子にのると、」

 「はいはぁ〜い、ゴメンネ〜。」

 すると彼は今までに見たことない無機質な目で東さんを見つめた。

 「まぁいいや。———牧野、レベルだよな?」

 「ええ。」

 すると彼はまた別の顔を見せた。

 …おそらく仕事人(ハイライセンサー)の顔、なのだろう。

 「俺にとって、レベルは事件処理ケース・ディスポーザルを円滑に進めるための1つの要因(ファクター)だと思ってるよ。低レベル・高レベルなんざ手札の1つにしかならない。」

 「手札…?」

 「ああ。任務の失敗は、俺自身の『死』を意味する。つまり、失敗なんざしたら『終わり』。なら、俺にとって周囲のレベルは関係ない。俺自身を含め、『どう能力を利用するか』、が俺の考え方だ。敵の能力、僚友の能力、そして自分の能力。その他周囲の状況・状態。それらを考えて行動する。」

 「………。」

 つまり、相手が高レベルであろうと、誰であろうと関係ない。

 《任務成功》。それが唯一の結果。

 「ふ〜ん、流石は奏子ちゃんの弟くん、ってところかな?」

 「…ま、黙っててくれればそれでいい。月代(さかやき)、北浜の治療終わったか?」

 「はぁ〜い♪バッチリです!!」

 「北浜?」

 「うん、今さっきまでの痛さがもうないよ。月代先生ありがとうございました。」

 「いえいえ〜、伊達にA級ライセンサーじゃあありませんから。」

 深々と礼をすることみに雪子はニッコリと垢抜けない笑顔を返す。

 「す、凄いですね、A級ライセンサーなんですか。」

 「まぁね♪だから安心して演習受けてね、今のうちにしっかりと学んどかないと卒業後が大変だからね。ね、天野センパイ?」

 「———ああ、ケガにも慣れとかないといけないからな。にしても、この学校は凄いな。月代を常駐保険医にするなんて。」

 「南家(みなみや)理事長が『絶対に獲得しろ!!』と言って、何とか去年から採用できたの。他の理事からの批判があったけど、大きくうちの生徒の累計入院期間が大きく減ったから南家理事長の判断は正しかったわ。」

 「…去年から?」

 梨乃の言葉に悠斗は眉を潜め、じっと雪子を見つめる。

 「そうだけど、それが…?」

 「な、なんですか?天野センパイ?」

 「…オメェ、去年からなら相当金もらってるはずだよな?なのに何であんだけ俺にたかってたんだ?」

 「…あ”。」

 雪子の顔をしかめ、固まった。

 「『いいバイト先が見つからないんですぅ〜、センパイお願いします!』って俺が何回聞いたか教えてやろうか?」

 「いや…あの…その…。」

 「俺が紹介してやった先、ことごとく断ったよな?『ちょっと上司が反りが合わなくてぇ〜』とかほざいてたよな?」

 「あ…あの…それは…。」

 「それは、なんだ?俺と宮崎がどれだけ頭を悩ませたか知ってるか?俺と宮崎がどれだけ頭を下げたか知っているか?」

 雪子に一歩ずつ近づく悠斗の声は徐々に気迫が上がっていく。

 「いや…あの…。」

 「オメェ―——」

 そのとき、医務室に良子たちが飛び出してきた。

 「ことみちゃん!?」

 「大丈夫か!?」

 「ことみ大丈夫や!?」

 3人は椅子に座っていることみに駆け寄る。

 「あ、みんな。私は大丈夫だよ。」

 「ふう…よかった。ことみ、あなたは天然でボケボケなんだからもっと気を付けないと。」

 「ゴメンね、良子ちゃん。」

 「でもよかった、大事にならなかったみたいだね。」

 「うん、ありがとう、イチローくん。」

 「そうか、よかったなぁ…。―――って、悠ちゃん、何やっとるんや?」

 詰め寄っている悠斗と詰め寄られている雪子。事情を知らない龍太郎と良子は怪訝な顔をする。

 「いや、なんでもない。———月代、後で覚悟しとけ。」

 安堵していた雪子だったが、悠斗のつぶやきに一気に肩を落とした。

 「ことみ、えらい災難やったなぁ。けが大丈夫か?宮ちゃんに聞いたときは焦ったわ。」

 龍太郎は顔色を見て安心した。ちなみに“宮ちゃん”というのは、担任の宮下のことである。

 「私が診ている以上は心配ないよぉ?どんな怪我でもバンバン来い、だよぉ!!」

 「そんなにバンバンけが人が出ても困りますよ。」

 「まあまあ、安心できる先生がいるってのは大きいですよね。」

 梨乃は雪子の言葉にツッコむ悠斗をおさめる。

 「東先輩!!僕を癒してください!!」

 「いや、アンタは何にも怪我してないでしょ!!」

 「ぉお、先生に見せて見せて!!どぉ〜んと来い!!」

 「いや、こいつは相手にしなくていいですよ、先生。」

 戯言を言うイチローに、ツッコむ良子。そしてまたもやズレている雪子にことみは、自然に笑みをこぼす。

 「いやしかし、けがはホンマに怖いからなぁ。前にセニョリータのブレーキが利かんようなってもうたときは大変やったで?」

 「お前でもそんなことあるんだな?」

 「いや、ちょうど乗る前に点検し忘れてた時に限って近所の小学生がいたずらしよってな。それとあと、わき見運転やな。」

 「わき見運転?アレアレ?自転車にしか興味ない君が?」

 「何で知ってんねん!?」

 見知らぬ先輩、東に龍太郎は、思わず往年の体勢で驚きを示す。

 「それで、自転車にしか興味ない龍がなぁにに興味を持ったのかなぁ~?」

 「気になる!!龍太郎君って何に興味があるのかすごく気になる!!」

 「いやあの、う〜ん…。」

 「ん~?お姉さんには言えないようなものに興味持っちゃったのかな~?かな?かな?かな?」

 「エロス!!」

 「うっさいイチロー!!そんなんちゃうわ!!」

 「ほら、もったいぶってないでさっさと吐きなさいよ。」

 いつの間にか興味を持ってしまった梨乃も参戦した。

 「ゲロス!!ぅぼぁ!?」

 「おいバカイチロー、くだらねぇ事言ってんじゃねえよ。」

 悠斗は容赦無くイチローを殴る。

 「いやあの、その時公園を走ってたんだけどさ、ちっちゃい猫の親子がさ、こう、じっとこっちをみてたのよ。」

 「ああ、轢いたりしたらいけないしね。」

 「子猫ならなおさら飛び出してくるかもしれないしな。」

 「ふ〜ん、『小さい女の子』とかだったら面白かったのに。」

 「東先輩ここにほら!!たんこぶ出来た!僕を癒して!」

 <イチローはログアウトしました>

 「…抱きつこうとしたらキレイに投げ飛ばされたな、イチロー。」

 「東先輩も凄いなぁ…。話戻そ。———猫の親子は完全に通路の向こう側だったんやけどな。いや、ほら、…見てしまうやん。ついほっこりしてもうたんや。」

 「ああ、かわいいもんね。それでわき見運転か。」

 「せやねんことみちゃん。連れて帰ろうと思った時にはすでに時速60km出てるんやで?流石の俺でもバック走行は無理やったわ~。」

 「はっ?」

 梨乃はあまりの驚きに気の抜けた声を出してしまう。

 「こぉらっ、法定速度は守らないとダメだよ?」

 「自転車に法定速度はなーい!」

 「ならよし!」

 「イイわけあるか!!」

 異常なやりとりに悠斗は立場を忘れてしまう。一方、ことみは声を出して爆笑していた。

 「急旋回してネコの親子を追いかけようとしたんやけど、半ば転倒に近い形になってもうてんな。足とか血だらけ。めげへんかってんでぇ〜?でもネコの親子も必死の形相で逃げぇんねやんかぁ…」

 その龍太郎の言葉に、良子と東は首を傾げる。

 「血だらけの人間に全力で追いかけられたら猫じゃなくても逃げるよ、普通。」

 「しかもそれ、わき見運転が原因でケガしてるわけでもないしね…う〜ん…。」

 <イチローがログインしました>

 「———トゥっ!!ま、こいつ馬鹿だからな。」

 「いや、バカイチロー、お前にだけは言われたくはなかったわ。」

 どうも皆さん、毎回読んでいただきありがとうございます。ベゼルです。


 今回は今後に繋がりそうなのがチラホラ書けましたので満足です。

 他にもやっぱりキャラクターのやりとりが書けて楽しいですね。

 ちなみに今回も雑音さんの助けを借りてます。(汗


 ここでお知らせを。

 この「英雄に安寧の日々はない」の解説小説「「英雄に安寧の日々はない」 〜世界の歩き方〜 」を別に更新しました。世界観をより詳しく、そして分かりやすく雑音さんが解説していただいたので、是非読んでください!

 また、質問がある場合、感想に書くと雑音さんが解答してもらうことも約束していただきました。どうぞ分からないことがあれば感想に!


 次回は、ついに「第2話リアノルド事件」が動き出します!

 次回もお楽しみに!


 では、ご意見・ご感想・誤字脱字報告お待ちしてます。


 《修正》2012/02/13 くろりんさんのご指摘により、一部加筆修正。

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