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英雄に安寧の日々はない  作者: ハンス
第2話 リアノルド事件
25/30

その9 俺と医務室とB級ライセンス

大変遅くなりました m(_ _;)m

 傍にことみを抱えている悠斗は「医務室」と廊下に掲示されている看板を確認すると、医務室に入った。如何にも医務室と感じるようなアルコールっぽい匂いと、教室二つ分の白で統一された部屋だった。

 「すいませぇん、保険医はいらっしゃいますか!?」

 悠斗の声は医務室に響くが、反応はない。

 「こいつは困ったな…。」

 ふと保険医のデスクらしきものを見ると、何やら日誌がディスプレイに表示されていた。遠目から見るとおそらくその日誌は書きかけ。おそらく用事で席を外しているのだろう。

 「しょうがない…、北浜。痛むだろが我慢してくれ。」

 「う、うん…。」

 しかし慣れない激痛だからか、先ほどよりもさらに顔色が悪い。

 (マズイな…、これは。)

 能力者(シビル)である以上、怪我をするのは避けることができない。経験則から悠斗はこの今のことみの状態は非常に危ない。もし今、この怪我で心的外傷のタネでも背負ってしまうと、ことみは今後EQOA演習を含めた戦闘で躊躇いを生じてしまう可能性がある。そうなっては戦闘に巻き込まれた時、ある程度の対応ができなくなってしまう。つまり、この怪我が今は小さくとも、今後に大きな影響を及ぼしてしまうと悠斗は感じているのである。

 「———なぁ、北浜。」

 「な、何?」

 「一昨日、イチローと龍とで放課後こんなことがあったんだよ―——。」


 ◇◆◇◆◇


 「おおっ!ロードバイクだ!やべぇかっけぇ!!」

 始めて三人で帰る日に、イチローのやつが龍の自転車に興味を持ったんだよ。

 「おい勝手に触んな!あとかっこいいとは何だ!レディに対して失礼だぞ!」

 「おお、女の子だったのか!かっけぇ!」

 「お前人の話聞いてんのか!?カッコイイは失礼だろ!謝れ!」

 「おお、なんか悪い事言ったのか!ごめん!」

 「お前分かってないだろ!」

 とにかくイチローのやつ、テンションが上がってたんだな。

 「おまえのロードバイクなのか!?俺にも一度乗らせてくれよ!」

 「あほかお前に乗らせたらぜってぇ壊れるだろ!っていうかロードバイクじゃねえ!セニョリータだ!」

 「何だロードバイクじゃないのか。でもいいや!乗せろ!」

 「なんで命令口調やねんアホか!乗せへんわボケ!」

 面白そうだから傍観者で突き通そうと思っていたが、さすがにフォローに回ったほうがいいかなとおもったんだな。

 イチロー、龍にとってこのロードバイクは大切なものなんだよ。お前みたいな馬鹿が乗って壊しても責任が取れないだろ?

 「悠ちゃんはようわかってるやん!わかったか、一切触れんなよ!」

 「大切な物なら仕方ない。自前で調達するか。土さえあれば何でもできる!うりゃああああ!」

 するとあいつ…、校庭の土で龍のロードバイクと色は違えども全く同じ形のバイクを生成したんだよ…。

 ———ぇえっ!?私も見たことあるけど、龍くんのバイクを…?

 ああ、かなり複雑な形だけどあいつの能力は【土】、コピーはお手の物なんだよ。

 ええ〜…。

 「ええええぇぇぇぇぇ!」

 もちろん龍だってたいそう驚いたさ。俺も昔のあいつを知ってるけど、あそこまでの再現度はビックリしたな。

 ……おまえさ、ちょいとそれ乗ってみ?

 「おう乗るさ!そのために作ったのさ!ロードバイクなんてうらやm…」

 ど、どうなったの?

 所詮は土で無理矢理作ったバイク、少し触っただけで崩れたよ。

 だ、だよね…。

 …な?崩れただろ?

 「———うりょああああ!!」

 だけどあいつはバカの中のバカ、性懲りなく【土】で生成したんだよ。もちろん崩れたけどな。

 い、イチローくん…。

 いや、またチャレンジしても結果は変わんねぇから。

 「…。なあ、校庭一周ぐらいならのせてあげるからさ…。」

 「———うりゃあああ!!」

 んでスイッチが入って、また生成しては崩れ去った。

 「あの子完全にアホの子やんな。」

 「初対面の時に紹介したとおり、臆面もなく馬鹿をやってのけるやつをアホの子と言わないなら、どんな奴ならアホって呼べんだろうな…。」

 「…っは!!分かった!!今俺に足りないもの、それは…  能力愛情頭脳気合根性渋さ…あと、えと、もうイイ!! そしてェなによりもォ―—— 強度が足りないきょ・う・ど・が・た・り・な・い!!」

 いやそれ、最後の強度しか必要ねぇよ。

 「仕方ない!龍!それ貸せ!」

 「そう言われて貸すアホがどこにおんねん!」

 「お前らさっきから黙って聞いてたらアホだの馬鹿だのボロカス言っていただろ!その慰謝料だ!グラウンド一周でいいです!!貸してください!」

 イチローのやつが土下座して頼むもんだから、龍も渋々貸したんだよ。バイク。

 そ、それでどうなったの?

 楽しそうに走ってたよ、そりゃ気持ちが良さそうに。

 イチローくんが楽しそうにかぁ…。

 でも龍のやつ、一計を案じてある細工をしたんだよ。

 細工?

 ああ、チェーンが外れやすいようにしたんだな。

 チェーン…?

 足で漕いだ動力を車輪に伝えるためのローラーチェーンのことだよ。———ほら、これ。

 ああ、うん、分かった。え、でもこれって故障なの…?

 いんや、また付ければすぐに走れる。だけどイチローのやつ、それを知らなくて―——。

 「う、動かない!?いくら漕いでも動かない!?…龍、スマン…。」

 「…ここまでいくと、こっちも気持ちええわ。」


 ◆◇◆◇◆


 「だからあいつはやめらんねぇんだよ。」

 悠斗の回想話で、イチローの真っ直ぐな間抜けさに腹を抱えて爆笑していた。

 「い、イチローくん…ぷぷ…」

 (だいぶ痛みを忘れることができたみたいだな。)

 「———北浜さん!!大丈夫!?」

 突然牧野が医務室に飛び込んできた。

 「ま、牧野先輩!?」

 「北浜さん大丈夫!?ゴメンね、うちのバカが手加減し損なって…」

 椅子に座っていたことみを見つけると梨乃は腰を落とし、平身低頭謝っていた。

 「バカってヒドい言い方だなぁ…梨乃ちゃん、もちろん悪かったとは思うけど。」

 「あのね、東さん。たとえよそ見していたとしても、すぐに止めて注意するのが私たちの仕事よ。だから―——。」

 「わあああぁぁ〜!!うん分かったホントに分かった!!ちゃんと気をつけるよ!!」

 「———まぁいいわ、まだ最初だもの。私も気をつけるわ。」

 話が長くなると感づいた小晴はすぐさま止めに入り、なんとか踏みとどまらせた。

 「うんうん、いいことだね。失敗から学ぶって。」

 「…あなたちゃんと反省してるの?」

 「まぁまぁ、ことみちゃん。もう大丈夫?」

 「いえ、まだ先生がいないので…。」

 「あれ?雪子先生が?」

 「———どうやら少し席を外しているみたいです。製作しているデータをあるので、そこまで長く外すとは思えないですが…。」

 悠斗はすかさず説明した。

 「そう…、でも北浜さん痛そうにしてないわね。」

 「今さっきまで悠斗くんが面白い話をしてくれて、気を紛らわせてくれてたので大丈夫でした。今だんだん痛みが大きくなってきてますけど…。」

 そのとき、悠斗たちが入ってきた扉とは別の扉から保険医らしき白衣を着た女性が現れた。

 「はぁ〜い、患者さんですかぁ?———って天野センパイじゃないですか!? あれぇ?なんでB級ライセンサーのセンパイがここに?」

 応対に出てきた女性の保険医は、タレ目と泣き黒子、そして綺麗なロングの黒髪が特徴としており、おっとりとした雰囲気と豊満な胸は如何にも生徒受けがよさそうな保険医だった。

 しかしもちろん、ことみたちは別のポイントに驚きを示した。

 「び、B級ライセンサー!?」

 「B級ライセンサー…」

 「月代(さかやき)…、テメェ。」

 「は、はわぁ!?また私失敗しましたかぁ!!」

 悠斗の容赦ない睨みと静かな怒りを示す低い声に、月代(さかやき)雪子(ゆきこ)は大きな瞳に涙を蓄えながら慌てふためく。

 「オメェ…、何回言ったら分かるんだ?俺はまだ未成年だ、つぅことはだ。」

 「———は、はわわわわわぁ!! 《ライセンス保持の黙秘義務》が出ますぅ!!」

 「はぁ…、とりあえず月代(さかやき)。治療してくれ。」

 「はははははははははい!!させて頂きますぅ!!」

 「…はぁ、しょうがねぇ。北浜、牧野先輩、小晴先輩。」

 「う、うん。」

 「…何?」

 「はいはぁ〜い。」

 「すまないが、今さっきの会話は黙秘してくれないか?じゃねぇと…」

 疲れた表情をする悠斗の指し示す方向を見ると、ことみを治療しながら今にも泣き出しそうな顔をする月代(さかやき)が小さく足を抱えていた。

 「うう…、また宮崎教官に怒られるぅ…。あの悪夢がはじまるぅ…。もうやだぁ…もうやだよぉ…。」

 「ゆ、悠斗くん、どういうこと…?」

 「月代はA級ライセンサーで、能力には申し分はない。だが規律違反の常習犯なんだよ。あいつは昔っからよく規律違反して、秘匿情報を漏らしているんだよ。例えば今、俺がB級ライセンサーってことをな。」

 「———ちなみに、私たちが引き受けないといけない義務はあるの?」

 急に憮然としはじめた梨乃と悠斗は数秒間目を合わせる。

 「———Tライセンサーは仮であるとしても協会に属している…、つまり協会の規定に従わなければならない。」

 梨乃は短く息を吸い、緊張する。

 「…脅し、って捉えてもいいのかな?」

 緊張している梨乃とは全く打って変わって、全く変わらない小晴はまるで仲のいい友人と話すように質問した。

 (———こいつ、食えないな。)

 「んまぁ、俺は先輩の経歴に傷を付けたくないだけですよ。《未成年のライセンス保持の黙秘義務》については知っていますよね?まぁ後は…言わなくても分かりますよね?」

 「………。」

 二人は息を止め、体を停める。ことみはずっと悠斗を見つめていた。

 B級ライセンサー。しかもおそらく【荒事専門(ジャック)】であろう、B級ライセンサーは一般的に見ても、彼女たち(Tライセンサー)から見ても、大きな存在なのである。最も危険な仕事でありながら、能力者シビルたちの羨望の的である【荒事専門(ジャック)】。しかもそのB級ライセンサーならば、他の能力者シビルとも一線を画している戦闘力や判断力、そして様々な特殊技能を兼ね備えていなければならない。

 もちろん、協会はそれ相応の影響力も持っている。

 「———分かったわ。」

 梨乃は静かに返答する。

 「そいつはよかった。」

 「だけど…だけど1つだけ教えて。」

 「聞くだけなら。」

 「……………。———あなたにとって、レベルって何?」

 「“レベルって何”、ねぇ。」


 お前はアニキかww


 どうもベゼルです。


 サークルでイベントの責任者になったり、その他諸々の事情によって遅くなってしまいました。

 大変申し訳ありません、今後共「英雄に安寧の日々はない」をよろしくお願いします。


 さて、今回はイチローたちにスポットライトを当てたわけですが、雑音さんの協力によりキャラクターが立ってきたと思います。オリジナルではキャラの魅力を自分で見せなきゃいけないわけですが、未だに自信がありません…。本当にオリジナルは難しいですね。


 次回はこのまま医務室での話になると思います。


 では、ご意見・ご感想・誤字脱字報告よろしくお願いします。

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