その8 初めてのEQOA演習
大変お待たせしました…。
読者の皆さん、本当にすいません!
特に、世界征服さんすいません!!
では、第2話その8、どうぞ。
Energy Quantum Operating Apparatus。
正式名称「エネルギー量子稼働機器」。通称「ツール」もしくは「EQOA」。
2024年に第一世代EQOAが量子力学博士北野公冶博士によって発明されて以降、剣型・槍型・拳銃型、中にはシールド型など、メジャーなものからマイナーなものまで様々なEQOAが開発競争の中から製作されてきた。
第一世代EQOAはエネルギー量子を動力源とし、第二世代では第一世代の改良版を指す。紫紺石が発見されて製作された第三世代では、コンピュータなどの電子機器を導入され、劇的に進化していく。次にラグナロク中に出回っていた第四世代では第三世代の改良版であり、そしてエネルギー量子による電波障害や誘導障害を克服した第五世代EQOAが現代の主流である。ちなみに現在はさらなる小型化を目指している第六世代は、【量子圧効果《Quantum Hyperbaric Effect》】という現象のせいで、開発競争は以前ほどには進まなくなっている。
「神永学院、ここまで金持ちだったか…。」
と、悠斗は手ある配布された警棒型の銀色のツールを肩にポンポンと叩く。
「そうなの?」
「ああ。こいつは一般に販売されている中では試験型とはいえ最新式だぜ?これ。」
(あいつ、まさか気を利かせてくれたか?)
「そ、そうなんだ…。じゃあ大事に扱わないと。」
「いやいや、これLツール(低レベル能力者認定者用ツール)だから適当に扱っても大丈夫だよ。」
「そ、そっか…。」
既に別れて悠斗とペアになったことみは、初心者らしく、ツールをどのように扱っていいものか迷っている様子だった。確かに小・中学校で扱うときもあるが、それは単にツールとはどういうものかと知るものであって、今日から始める授業『EQOA実習』のようにしっかりとツールを扱うのは高校生からである。なので、ことみのこの反応は全くおかしいものではない。逆に悠斗のように扱い慣れている方がおかしいのである。
いつものメンバーと別アリーナとなった、悠斗はまだ着慣れていないコスチュームを装着している級友たちを眺めた。今からようやく始まる全クラス合同の『EQOA演習Ⅰ』に浮きだっている生徒もいれば、これから自分専用になる配布されたツールを目の前にして緊張している生徒もいる。
実に初々しい。
「悠斗くんは慣れてそうだね、ツール。」
「まぁな、北浜もすぐに慣れるさ。コスチュームには慣れたか?」
「うん、まぁ…。でも体のラインが見えるのはやっぱり恥ずかしいよ。」
「だろうな、男の俺だって恥ずかしいんだ。女子なら尚更だな。」
「うん。それにしても悠斗くんにしても、イチローくんにしても、すごい体にしてるね。」
黒のスウェットに、ツールを装着するための小さめのジャケットと、ハーフパンツもしくはロングパンツを着るのが、神永学院のコスチュームである。そのため腹部のラインは綺麗に出てしまい、悠斗とイチローは見事な腹筋が見えてしまうのである。
(にしても、今時の能力者は体を鍛えないって本当だったんだな…。これだけの人数がいながらも実戦レベルの体を持っているのはイチローだけだなんて…。…はぁ、緋妃のやつが嘆くわけだ。)
戦友である紅条緋妃と以前話したことを悠斗は思い出していた。15年戦争が終決し、以前ほどの実戦の機会がなく、そして最も大きい要因である戦争を生き抜いた精鋭が圧倒的に少ないこの時勢で、協会に所属している能力者たちは弱体化していたのである。
(温室育ち…ね、確かに言われるわけだ。)
「ふぁ…」
「———さすがは天野さんの弟さんね、こんな茶番は面倒なだけ?」
「………おっと、これはこれは牧野先輩。お久しぶりですね。」
眠そうに欠伸をしていた悠斗の背後から数日ぶりに顔を合わせる梨乃に、一応悠斗はとりあえず先輩の扱いをする。
「…喧嘩売ってるの?」
「はて?一体なんのことやら。」
「に、しては様子がおかしいじゃない?」
「何でもないですよ。顔見知りが自分の監督生になって少し驚いているだけですよ?俺は。」
一回生の『EQOA演習Ⅰ』ではよりハイレベルな技術を修得させるために、二回生と一対一で講義に当たるのがこの神永学院の風習である。また一回生同士においても模擬戦を行ったりするので、この講義ではグループ的には一回生二人・二回生二人が1グループとなる。
「ちょっとちょっとっ!!梨乃ちゃん、今日は揉めないって約束したでしょっ!?」
「…まぁ、そういうことにするわ。」
のらりくらりと躱していく悠斗に奏子と同じニオイを感じた梨乃だったが、小晴が止めにかかったのでとりあえず引き下がる。
「———悠斗くん、知り合いなの?」
「ああ、“知り合い”と言えば“知り合い”だな。うちの姉さんが副生徒会長なのは知ってるよな?んで、この先輩たちは生徒会の役員ってなわけ。」
「へぇ〜そうなんだ…。———き、北浜ことみです…。よろ…、よろしくお願いします。」
「牧野梨乃よ、よろしく。」
「東小晴だよ、よっろしっくねぇ〜♪気軽に小晴ちゃんって呼んでね!!」
ことみは礼儀正しく、深々と頭を下げた。その礼に好意を抱いた二人はなるべく優しく返答した。
「は、はい!!牧野先輩に…え〜と小晴先輩。初心者ですが、よろしくお願いします。」
「う〜ん、ことみちゃん!!ダメだよぉ〜。これから一年間一緒にやるんだから、もっとフレンドリーに気安く行こうよ!!ねっ!?」
「は、はい…。」
「東さん、北浜さんちょっと困ってるわよ。もう少し離れなさい。」
「のわあぁ〜!!ちょっと梨乃ちゃん伸びるからやめて!!」
と、梨乃は小晴をことみから引き離す。小晴は背が低いので、女子にしてはかなり長身の梨乃が襟口を持って引き離すと、まるではしゃぐペットの世話に困っているような絵図らになった。
(…牧野って結構面倒見いいんじゃね?)
「———よし、顔合わせが済んだみたいだな。俺は教師の井之上だ。」
アリーナの中央に教員であることを示すコスチュームを着た、渋い魅力の男性教師がいた。顔には戦場で出来たものらしい切り傷が右頬に大きくある。
(こいつが講師か…、物好きもいたもんだ。)
奏子から聞いていた説明を聞き流しながら悠斗は、自分やイチローと似た者がいたことに驚き、自然に笑みをこぼした。
現代の医療は再生医療が数十年前から確立されており、15年戦争で後に残るような怪我はiPS細胞によって元通りに治すことは可能である。しかし、それでも古疵を残す者は医療が発達した今でもいる。
悠斗はいつもとは違った溜息を吐きながら、胸付近にある心臓と同じ大きさの古傷をコスチュームの上からさする。
傷跡を残す者の理由は、大小それぞれである。「格好いい」や「クール」などの子供っぽい理由から、「想い出」などの傷心に浸りたいという複雑な理由まである。その理由が他人からすれば小さくとも、他人からすれば下らなくとも、その傷跡に“懐い”がある。
(…あいつら今何してっかな。———まぁ。最近連絡とってないけど、どうせ元気だろ。あの311部隊は。)
「———以上、こんなツールを扱うこの講義の堅い話はこんなところだが、まぁ簡単な話。ツールを扱えて能力者は一人前だ。そのツールがHツールだろうがLツールだろうがな。おし、俺の話はここまでだ。後は二回生の先輩たちに教えてもらながら今持っているツールに慣れろ。今お前たちが持っているツールは、『LG-113F』。通称”シルバースティック”だ。何人かのオタクは気づいているようだが、警棒型のLツールでは試験ながらも【D.C.Company】の最新式だ。どういうわけであのD.C.Companyが寄越したか分からないが、使えるものは使わせてもらおう。使い方は一般的な警棒型ツールと同じだから分かるな?じゃ、今日は二回生の先輩方相手に打ち合ってそのツールに慣れな。今日はそれだけだ。———はじめ!」
井之上の話が終わると生徒たちは打ち合いを始める。
「それじゃ、私たちも始めるわよ。」
「よろしくお願いします!牧野先輩!!小晴先輩!!」
「よろしくお願いします。」
緊張しながらやる気十分のことみとは対象的に、悠斗はのんびりと脱力感を出す。
「うん♪二人とも頑張ろうね!!私は…ことみちゃんを担当したほうがいいかな?」
「そうね。貴方は私と。」
「はいはい。」
4人は2グループに別れ、距離を取った。
「…それで、どういうことですか?」
「どういうことって?」
「なんでAクラスの牧野先輩が俺の監督生になるんですか。明らかにおかしいでしょ?」
「ああそのこと…、貴方何も知らないのね。」
梨乃は呆れたと言わんばかりに溜息を見せる。しかし話をただしているのも何なので、梨乃はツールにベイズを通し起動させる。そしてゆっくりと構えた。
「貴方は貴方が思っている以上に存在が大きいのよ。『天野奏子の弟』っていうのは。」
「存在が大きい?」
打ち合いをしながら話すということを感づいた悠斗は、梨乃と同じようにツールにベイズを通し起動させ、メジャーな構えをしている梨乃とは違ってほんの少し腰を落としただけだった。
「ええ。どういうふうにチューターを決めるか知っている?まず二回生たちの教えたい一回生の希望を聞いて、その後ランダムに決めるの。そしたら今年は異常なことが起きた…のっ!!。」
打ち合いは梨乃から始まった。ベイズシフトによって身体能力を上げた梨乃は悠斗に向かって直線的にツールを振り下ろした。
「異常なこと?」
予備動作で予測していた悠斗は梨乃のシルバースティックを払い、カウンターとして開いた脇腹にシルバースティックを払い上げる。
「そっ!!———いつもは一回生のAクラスの名前が並ぶはずなんだけど、今年はなんと貴方の名前が多かったの。」
鋭い一撃を何とかステップで躱すと、また梨乃と悠斗はお互いに打ち合いを続けていく。
「…本当ですか?」
「本当…よっ!!理由は「天野さんとお近づきになれるかもしれないから」とか、「天野さんの弟なら是非仲良くなりたい!」とか、男女関係なく多かった…の!!」
「ハハ…こいつは恐れいりましたね。」
全く隙に付け入ることができない梨乃は一旦離れる。
「中には“好みのタイプ”っていう理由も多かったんだけど…。」
「…はい?今何か言いました?」
「いや、何もないわ。それで、結局実習の成績が良かった私が貴方を見ることになったわけ。以上よ。」
「なるほど。」
「———で、その話し方やめてくれない?」
「話し方?」
「そ、その話し方。そのムカつく先輩扱い。気持ち悪い…わっ!!」
(———速いっ!!)
鋭く息を吐くと、先ほどの速さも曇る程の【加速】を使って悠斗に迫る。そして悠斗に一撃を入れるために打撃を繰り出していく。
(やっぱり動きが単調すぎる上に素直…、これなら奏子姉と張り合えるわけだ。)
即座にその【加速】に対応した悠斗は難なく払い落としていく。
(【2倍速】でも全然…当たらない!!———ならっ!!【3倍速】!!)
(おっと、こいつはヤバい。)
梨乃はさらに【加速】した。梨乃の姿は滲んでいき、繰り出されていくシルバースティックは、1本が2本、2本が4本、4本は8本へとブレていく。ベイズシフトによって身体能力を上げた悠斗は梨乃ほどの速さを出せないものの、押されるどころか逆に一歩引かずに梨乃の一手一手に鋭く切り返していく。
「すげぇ…」
「おいおい…嘘だろ…」
生徒たちの声が飛び交っていたアリーナはいつの間にか静まり返った。二回生のAクラス、しかも二回生の中で実技に関してはトップである梨乃が、一回生のしかもDクラスに惜しみなく能力を使っている。
「悠斗くん…やっぱり凄い…」
「———あ、ことみちゃん!!余所見したらダメ!!」
「———キャアっ!!」
激しい攻防が続いたが、最終的には悠斗が競り負けてしまった。
「———くっ!!」
悠斗声とともにシルバースティックが空を飛ぶ。
「———見事だ!!」
井之上の言葉をきっかけにDクラスながらもAクラスの連撃を数十秒いなしきった悠斗に周囲から拍手が湧いた。
「いてててて…、やられたな。」
シルバースティックを持っていた手の痛みを飛ばすために小さく振っている悠斗は、ふと梨乃を見ると、梨乃は顔を真っ赤にしていた。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
梨乃は何かを言いたげにしていたが、一度悠斗を睨みつけるとアリーナを出ていった。
「………、ナンだよ…あいつ。急にむくれやがって。」
「悠斗くん、大丈夫?」
「ああ、小晴先輩。大丈夫だよ、そこまで強く打たれてないから軽く痛むだけだ。」
知らぬ間に再び生徒たちの気合の入った咆哮が飛び交っているとき、小晴は心配そうに声を掛けるが、悠斗は15年戦争を生き抜いている《精鋭》。切創から銃創、ついには強酸などによる化学的な痛みまで体験している。逆にこれくらいの痛みなら笑えてしまうくらいだ。
「はい、これ悠斗くんのツール。で、悠斗くん、お願いがあるんだけど…。」
「ありがとうございます。なんですか?」
「ごめんけど、ことみちゃんを連れて医務室に行ってくれるかな?私、手加減しそこなてことみちゃんに怪我させちゃったんだ。私が治療はしたいけど、やっぱり医務室の先生に診てもらった方がいいからお願いできるかな?」
「分かりました。———北浜、大丈夫か?」
「う、うん…大丈夫…。」
ことみは顔を青くし、力一杯に歯を食いしばり、体を小さく震えさせ、必死に痛みを堪えているのが目に見えて分かる。
(北浜つらそうだな…、早く連れていってやらないと。)
「じゃ、小晴先輩行きますね。」
「うん、お願いね、私先生と梨乃ちゃんに話しておくから。」
「はい。北浜、行こう。」
「う、うん…。」
悠斗はことみと生徒たちの間を通って、アリーナを後にした。
今回はEQOAの設定にかなり手間取りました…。
他の現代兵器なら、ミリオタの友人と話しあえばいいんですが、ツールの設定はこれは自分で考えなければならなかったので、5回ほど手直ししました。オリジナルは本当に難しいですね。
ちなみに、梨乃はこれから使っていく予定です。
後、解説用の小説を別に投稿しようかなと思います。
EQOAとシルバースティックの設定も書く暇ないでしょうし…。
次回の投稿は来年を予定してます。
これから元旦に向かって非常に慌ただしくなりますので、ご了承下さい。
では、ご意見・ご感想・誤字脱字報告、お待ちします。
《修正》 C・Dクラス合同→全クラス合同