その2 二人の環境
「どう?学校は慣れた?」
「ん〜、まだ始まったばっかだから何とも言えないな。」
登校中。見慣れているはずなのにどこか真新しさを感じる奏子を目の前にしながら、悠斗はやる気なく返答した。
DNAコンピュータなどの登場や集積回路のトンネル効果の克服、個人情報保護方針がさらに強くなっている時代の潮流、そして人類は数十年とは比べ物にならない程に演算能力を獲得したおかげで大型陸上輸送機関は様変わりしていた。昔車両は数十人の容量が常識だったが、今ではたった数人を運ぶのが現代の電車である。これはまだ技術が突出して進んでいる日本のみでしか見られないので、無数の電車がそれぞれ違うところへ行く光景は外国人にとっては圧巻である。
しかしこれが日常である悠斗たちは窓に流れる光景を眺めながら雑談を続けた。
「それもそうか、昨日今日はまだ説明だけだもんね。」
「ああ。B級ライセンスを持っている俺は理解しているけど、周りの奴らはちょっと大変みたいだけどな。」
《力持つものは、それ相応の責任をもたなければならない。》
力を持て余さず、無闇に使わない。『救出活動に向いている能力を持っている能力者は、もし災害が起きたときは参加する』だとか『治療系の能力を持っている能力者は、もし緊急性の高い怪我人がいれば治療する』という、つまり状況によって使用することが望ましい。もちろん闇雲に使う能力者はただ状況を混乱させてしまうので、これは全ての能力者に生じるものではない。
そこで出てくるのが【ライセンス】である。
【ライセンス】は責任が生じる18歳以上の能力者が全員必ず取得するもので、能力者を専門に教育している全ての機関はライセンスを取得することを目指している。また、よくある異世界トリップ物で出てくるギルドのように、ライセンスは「S・A・B・C・D・E」まで分けられている。ランクが高ければ高いほど、様々な活動に参加する権利・指揮権、そして社会からの名声を持つ。例として、悠斗のBクラスのライセンスは社会的に見れば、大企業の専属能力者になり、ビジュアルが良ければCM出演があるほどの地位を持っている。ちなみにライセンスは18歳未満でも厳しい試験を通れば取得することができる。
「しっかし、案外メンドクセーんだな、【Tライセンス】って。」
「まぁね、でも自然に覚えるから気にしなくていいよ。」
ライセンサーの予備軍と言われている高校生たちは【Tライセンス】というものを1年生の間に取得することが、二年生に上がることの必須条件になっている。自動車学校でいう仮免許と似ているTライセンスの制限が、悠斗は多少困惑している。
《緊急時を除き、クラスC以上のライセンサーが同伴している場合のみ使用を許可する。》
“緊急時”って何だよ?能力者が必要な場合が“緊急時”じゃないのか?しかもC級以上って何人いるのか知っているのか?だいたいC級ライセンサーに子守を任せられるのか?———っと、悠斗は思ってしまうのである。もちろんこれは戦前から問題になっていたが、利権の問題か何らかの問題で変更されていない。
「それにしても、悠斗は凄いよね。私去年Tライセンス取ったからよく分かるけど、B級ライセンスを持っているなんて。」
「間違っても他人に言わないでくれよ?C級から《ライセンス保持の黙秘義務》が未成年には適用されてんだから。」
「分かってるよ。私も変な団体から勧誘されたくないしね。———そういえばこの前、中東に行ったんだよね?A級の人と一緒に。」
「ああ。くっだらねぇ事件だったよ。『妻との離婚問題で能力と爆弾を振り回している』っていうレベル5のA級ライセンサーを黙らせに行くなんて、姉さんも気をつけろよ?ハイランカーつっても、唯の人間なんだからな。」
「うん。分かってる。…私たちだって所詮は人…なんだからね。」
「———今日説明が終わった後は何すんの?」
「明日以降?まず明日は能力審査で、数日後からは通常授業が始まるよ。みんな大好きシビラル・ウェポンの授業もね。」
「へぇ、シビラル・ウェポンね。まっ、俺たちDクラスは大したシビラル・ウェポンは使えないだろうけどさ。」
「悠斗はDクラスと言っても最強のDクラスでしょ?私より最新型使えるじゃないの?」
「俺がB級ライセンスを見せればね、唯のDクラスには無理だよ。」
レベルはエネルギー量子使用可能量に比例する。全ての能力者専用武器又は能力者専用器具はエネルギー量子を利用しているので、より高いレベルの認定者は、より多くのウェポンやデバイスを使用することがある。つまり低レベルに認定された者は、高レベル認定者よりも遙かに単純なツールしか使えないのである。
もちろん例外は存在するが。
「まっ、《Lツール(低レベル認定者用ツール)》はかなり丈夫にできているからな。使いようによっては《Hツール(高レベル認定者用ツール)》よりも使えるから気にしてないけど。」
「そっ、そうなんだ…。私はHツールしか使ったことがないから知らないけど…。」
「そういえば、姉さんの専用ツール決まった?」
「まだ。しっくりこないくてさ…全部、一応射撃系にしようかなって思っているんだけど…。」
「ふぅ〜ん…、まぁ焦らず決めればいいよ。ライセンスを持っても決まっていない能力者だっているんだから。」
「そっか。」
その時到着を知らせる音が鳴り、間もなくして扉は開いた。そしてそれぞれの友人を見ると、
「もうか…、んじゃ姉さん。」
「うん、またね。」
二人は別れ、校舎へと移動していった。
ちょっと説明するつもりが、こんなに長くなってしまいました…。
制度などの説明が上手く言えてなければ、感想にて指摘して頂ければ幸いです。
《修正》2011/11/17 ホールトン効果→トンネル効果