その3 かつての戦友は想う
(ほぉ〜おっ、スゲェな。流石は神永学院、金持ってんね。)
と、体育館に入った悠斗は絢爛な空中装飾に感嘆のため息を吐いた。
通称パネルと言われている、空間映像投影技術は約80年前に発明された技術だった。現在は既に紫紺石のおかげによって以前よりマシになったが、一世代前までの機器は全て能力者の放つベイズの影響を受ける度に誤作動になる確立が跳ね上がっていくのである。未だにどうのようなメカニズムかは解明されていない。したがって、より影響を受けない形態を開発する研究が進んでいった。その一つがこの空間映像投影技術である。能力者との情報伝達手段が紙媒体だったこともあり、精度が誇る日本製品の後押しもあって一気に大衆化した。その後現在。100年前より遙かに画素数が上がったおかげで空中に投影される映像は視覚的に美しい。
(うお〜キレぇ〜)
空中に舞う白銀の星々。プロがデザインしたであろう「新入生の皆さん、入学おめでとうございます!」の空中に浮く巨大な垂れ幕。時間経過によって色と位置が変化していく飛ぶリボン。まるで妖精が住んでいるような綺羅びやかなだった。
(おっと、このままつったってたら邪魔だな。早く席に座るか。)
新Dクラス生用の自動移動式の席を捜すと、そこには思わぬ知り合いが端に座っていた。
「よう、イチロー。生きていたか。」
赤毛が特徴である精悍な顔つきをしている男子生徒の隣に悠斗は座った。
「…え〜と誰だ?」
男子生徒、一郎は怪訝な顔をした。
「…おい、戦友の名前を忘れるバカがどこにいんだよ。」
「―――ぁあああっ!!お前っ!!」
「お、思い出したか。」
「おう、すっかり思い出した。ひさしぶりだな!…にしても変わったな、お前。」
「そうか?」
「ああ。あの時は何か優等生っぽかったけど、今はまるで不良だぜ?」
「…まぁ、色々あったんだよ。」
悠斗は疲れた笑みを見せた。
「…さて、と。で?俺の名前は何だった?ん?」
「あのぉ、え、っと、うん。ほら…ね☆」一郎は如何にもお道化た顔を見せた。
「…はぁ、一緒に【311部隊】にいただろ?」
「ゆ、ゆー…、なんとか!」
一郎は声を殺し、顔に真剣味を増して耳元に言った。
「バカ。俺は『天野悠斗』って名前だ。」
「うん。今まさに名推理で当ててやろうとしていたところだ。思ったとおりだったな!」
「いや、名前は推理するものじゃなくて思い出すもんだろうがよ。…まあ、変わってないようでなによりだ。」
二人は数年まで戦争をしていたと思えないような光景を眺めていた。
綺麗な服を着た新入生たちとその父兄たち。華やかな会場。
誰もが、今、笑って、喜んで、楽しんで、胸を躍らせている。
「…今。平和なのか?世界は。」
一郎は独り言のように言った。
「さぁ…、ただ今は低強度紛争しかない。―――まぁ、一応相対的な平和だな。今の世界は。」
「…最近さ。」
「ん?」
悠斗は遠くを見ている一郎の横顔を見た。
「俺たちのしたことはよかったのか、って思っちまうんだよ。」
「………。バカが突然どうしたんだよ?」
「失礼な。俺はバカじゃない、アホだ!!…あいつらが言っていたことは確かに分かったし、ある程度は当たっていると思う。…だけどよ、殺す必要は…あったのか?」
「…あの時、殺す以外の手段はあったか?」
「…いや、なかった。けどよ。」
「お前の気持ちは痛いほど分かる。でもな…。」
悠斗はまっすぐに一郎の目を見た。
「『認めてくれないから、分かり合えない。分かってくれないなら、力で抑え、無能力者を支配する。』っていうあいつらの考えは、破滅しかその先にはなんだよ。」
「…ああ、そうだった。―――やっぱりバカだ、俺は。」
「安心しろ。バカじゃなくても迷うんだよ、人は。」
「そうかい、なら安心するよ。」
「ああ、そうしろ。―――こんな話題はやめよう、一高校生がする話じゃねぇよ。」
「はは、ちげぇねぇっ!!」
二人は笑みを見せ合った。
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(※2011/6/28に前話「その2」にて鳳家一族に設定を変更しました。申しわけありません。)