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ep4|トレント戦

戦闘シーンというのは、難しいものですね



出会い頭の葉っぱ〇ッターによってトレント君の頭はかなりスッキリとしたが、葉の残量を見るにあと1,2回は撃てると見て良さそうだ。


俺とトレントの距離はだいたい10mとちょっと。手を伸ばした指先から2mが俺の〈遠隔操作〉の間合いだ。


「さーて、どうするか......」


現状俺の武器はステータスウィンドウのみ。

ちなみに下手をするだけですぐぶっ壊れる。壊れたら無理だな、逃げよう。


初撃で、だいたい幹の腰の当たりの高さに斬り込んだはずだが、これ切れ目が薄すぎて見えないぞ。

まぁ、右前から切り入れたからその方向に例えばハンマーでぶっ叩いたりしたら切れ込みからポキッと行けそうではあるが、俺はハンマーを持っていないしそれを振るうステータスも無い。


おっと、左前予備動作来たな。


右に軽やかにステップを踏み、足元を滑るように襲いかかる根を回避する。


「ヴァーカ、当たらねぇよ!」


ゲーマーは高速思考ができるのだ(戦闘中限定)。


続くもう一本の根は逆に左に跳び超えるようにして回避する。

あまり移動しすぎるとタゲが外れたり他のモンスターと遭遇してしまうかもしれないから、あまり動かない立ち回りを意識する。


「おっと、枝伸ばしもイケるか」


今度は真正面。また回避してもいいが、そればかりではダメージを与えられない。


ギリギリまで引き付けて。躱せるか躱せないかのタイミングで左側に屈むようにすれば。


ちょうど俺の手の間合いに、的が自ら飛び込んでくるという訳だ。

俺は根っこを右手で鷲掴みにし、不敵に笑った。


まぁカスダメでも食らったら死にそうなのでチキってそこそこ余裕あったが。


「こここんなの止まって見えるぜ(震)」


今までいくつかのタイトルのVRをやってきたが、このゲームは迫力が半端じゃない。


今まではなんというか、ドットやポリゴンが動いていて、ゲーム感がいまいち払拭できていなかった。リアリティとゲーム性がお互いに食い違っていて、それを派手なエフェクトやAIによる補正で誤魔化している、そんな感じだ。


木の根っこの、この歪な形。そこそこ速度が出ていてもfpsは下がらないどころか描画が上がっているとまで感じる。


頭を振れば髪が揺れる感覚までする。

ここが現実なのかバーチャルなのか自信が無くなってしまうほどに、ここは完璧な世界だった。


そしてリアリティを保ちながらも、現実では有り得ない生物や動きを、違和感無く世界に溶け込ませている。


リアリティが高すぎるゲームあるあるなのだが、非現実的要素にCGっぽさが出てしまう、しかしここではそんなこともまったくない。

初めからそこにあったかのような自然さがあったからこそ、俺は擬態を見破ることが出来なかったのだろう(流れるような責任転嫁)。


「さあ、俺のターンだ!」


俺のターンだ。


▶︎行動

アーカイは為す術がない


「・・・・・・」

『・・・・・・』


俺とトレント君の間に、気まずい空気が流れる。


えっと、ここからどうしよう。

えっ、なんもしない感じ?


武器、ない

攻撃スキル、ない

アイテム、ない

ステータス、ない


「ふっ、ふふふ......」


一秒ほどの沈黙を破ったのはほぼ同時だった。

綱引き状態だったところを、トレント君は枝を放棄し、中間ほどでパキッと折ってきた。


そのまま、本来は有り得ないシュルシュルとした動きで伸縮するトレント。

俺の手元には長さ1m弱のトレント製木の枝。

正直木の枝にはもう何も期待していないが、一応持っておくに越したことはないだろう。


さて、どうやって戦えばいいのだろうか。


ウィンドウを、もっと素早く動かせばイケるだろうか?いや、それを実現するためのAPはもう残っていない。


詰みか?


うん、何でステータスウィンドウで敵が倒せると思ったんだよ。


それもこれも、最初にスライム倒せちゃったからだな。それで、勘違いしちゃったんだ。ステータスウィンドウは最強だって。


トレントの攻撃はそこそこ苛烈だが、本体の動きはかなり遅い。振り返ってダッシュすれば逃げ切れるだろう。

もしこれで走るのが得意なトレントだったら目も当てられないが。


攻略情報は基本シャットアウトしてるものだから、このゲームの死亡ペナルティは知らない。スライム戦を見るに初心者には優しそうだし全ロストということはないだろう。......ロストするものが何もないけど。


「いや、・・・・・・一番ロストしちゃいけないものがあるだろ」


何逃げ腰になってんだ。武器ないくらいで、始まりの森のモンスターから尻尾巻いて逃げるとか情けないにも程があるぞ。

あっちから喧嘩ふっかけてきたんだ、ぶっ倒してやらないと気が済まない!


アーカイの中で、彼が初めにウィンドウをザクッとやってちょっかい出したことは無かったことにされていた。


「ステータスウィンドウでも敵が倒せるってことを証明してやるよ!・・・・・・待て、最初に倒した時って」


頭の中で何かが弾けた。

それは瞬時に頭の中を駆け巡り、妄想は形となって道を標した。



スライム倒した時、まだ俺はアビリティを一つも持っていなかった。


なのに倒せた。


どうやって倒した?



「行ける、行けるぞ......!」



◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎



なぜ俺はスライムを倒せたのか。

それを反芻すれば、勝利への希望が見えてきた。


まずはアビリティ〈形状記憶〉〈巨大化〉を取得した。この二つが必要だ。


俺は左右から迫る根を、そのへんの木を盾にして凌ぐ。バリバリと幹を抉る音がする中、俺は手にステータスウィンドウを持ち、引き伸ばすようにして大きさを確保する。


あのトレントの幹よりも大きくならなければいけない。遠目では自信がないが、ギリギリ程の大きさなので、〈巨大化〉をレベル2に上げる。おそらくこれで大丈夫だ。


......フォントサイズがでかくなって見やすいな。これ。個人情報とか大丈夫だろうか。


ダメ押しで、残りの1ポイントで〈剪断力〉を取得する。切断力、よりもより滑るように切るステータスウィンドウに適していると思う。

これでポイントは使い切った。


ウィンドウを仕舞うと、木の枝を握りしめ右方へ駆け出す。

ちょうど盾にしていた木は限界を迎え、見るも無惨にボコボコになっていた。

森林破壊が進んでいく......



この作戦を実行するために、まずはトレントに「あの葉っぱ攻撃」を誘発させる必要がある。


別にあれでなくても動きを止めてくれれば何でもいいのだが、残念ながら足止めができるようなものは何も持ち合わせていない。

それに未知の攻撃パターンでぶっつけ本番もそれはそれで不安なので却下。


トレントは一見その場に留まっているように見えるが、よく見ると足元の根っこをうにょうにょと動かしてこっちに距離を詰めてきている。だいたい、人がゆったりと歩く程度だ。


逃げたり立ち回ったりする分には遅くてありがたいが、この動きがステータスウィンドウ君にとっては致命的な破損の起因になってしまう。



思い返したのだ、こんな脆いハリセン(当時はまな板)を壊さずどうやってスライムを倒したのか。


そもそも当ててなかった。全てはあの〈実体化〉のせいだ。

あれのせいで脆さが露呈したのだ。


ただ、実体化しないことには実質なにもできない。実体化を解除し、盾のように根枝攻撃に対して構えても、普通にすり抜けてくる。そもそも認知されてすらいない気がする。


なんでかスライムが倒せた理由はなんとなく推測があるが、この場では試せない。それよりも可能性のある作戦があるので、今はそれを試す。


失敗したら、一枚でも多く葉をもぎ取って死のうと思う。ハゲ上がらせてやる......



◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎



だいたい10mほどの間隔を保ちつつ、攻撃を見切り続けること5分以上。既にあたりの盾になる木はすべて薙ぎ倒され、空き地のような光景が広がっていた。


「来たっ......!」


ずっとうにょうにょと空中で攻撃を繰り返す足の根が、地面に這うように伏せられる。

まるで、足踏みをするように。


最初は体を大きく仰け反るところまで見てから回避したからギリギリになったが、今回は違う。一度見た攻撃には完璧に対処する。初見攻略の鉄則だ。


この作戦のやることは簡単だ。動きを見切り、接近する。これがどうして、意外と難しい。


まぁそこは慣れだ。やってればわかるようになる。



体を屈めて、できるだけ低く、速く、前へ。


根の動きが収まると、トレントは体全体を大きく仰け反らせる。


恐れてはいけない。地面を見て、真っ直ぐ前に。



バサバサと葉が舞う頃には、俺はその葉飛ばしを見上げる位置にいた。


その距離、1m。俺の射程だ。


「ステータス・オープン!」


〈形状記憶〉により、先ほど成形したのと同じ状態でウィンドウが召喚される。そして、それをトレントの顔がついているあたりにぶっ刺す。


ウィンドウは、幹を透過する。


そして、その状態で、アビリティを起動するのだ。



「〈実体化〉ッッッ!!!」



音はしない。派手なエフェクトも。

ただ、葉っぱを飛ばし終わったトレントが支えを失い静かに倒れていく光景を、


ガッツポーズしながら見ていた。


トレント枝はそのへんに投げ捨てられています


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