ep1|何にでもステータスが振れる世界
拙いですがよろしくお願いします
キャラクター名、アーカイ。レベルはもちろん1。性別が男で、装備は初期装備の麻の服(上下セット)。ここまでは、普通のVRMMORPGと同じだ。
だが、それだけだった。非常に小ざっぱりとしている。
そして、期待通りだった。
指先で触れるとひんやりとした硬質な感触がする、淡い青色をした、半透明で長方形の板。「ステータス・オープン」の呪文で呼び出すことができる。この世界にやってきたプレイヤーが真っ先にするのが、この「ステータス・オープン」であろう。
ウィンドウを下にスワイプすると、主張の控えめなフレームに縁取られた、ただ何も無い広いスペースが現れた。
そして、そこをタップすれば『どのアビリティにAPを振りますか?』という通知が出てくる。
そして、入力ボックス。
そう、入力ボックスである。
俺はニヤニヤが止められなかった。
初期キャラクターには、APが10与えられている。APとは、〈アビリティポイント〉のことであり、そのポイントを任意の〈アビリティ〉に振り分けることで、能力を強くできるのだ。
ああ、はいはいそういう感じね。で終わらないのがこのゲームの売りだ。
入力ボックスに、試しに「攻撃」と入力する。すると、『1APを消費して、アビリティ〈攻撃〉を取得しますか?』というメッセージが出てくる。
一旦キャンセルし、今度は「ヒヨコ鑑定」と入力すると、『1APを消費して、アビリティ〈ヒヨコ鑑定〉を取得しますか?』という感じである。
「ックゥゥゥゥ、これだよ、これ!!この自由度!!最ッ高だなこのゲーム!!」
始まってもいないのにこのテンション。もしも彼を傍から見る人が居たならば、アビリティ〈目逸らし〉の取得を検討するだろう。
少々はっちゃけてしまったが、気を取り直して再び始めの画面に戻り、いよいよ本腰を入れてアビリティの選定に取り掛かることにした。
自分だけの、オリジナル能力。そんな謳い文句のゲームは、溢れて腐り畑の肥料になりそうなほどあった。
だが、そのどれもが、スキルツリーを伸ばすだけであった。名前だけで内部データは同じだった。結局最後にはコンプリートできた。
無限量のデータなど用意できないのだから、それは仕方のないことだったのかもしれない。
数あるものからプレイヤーが好きなものを選び、「自分だけのステータス」感を得る。まぁ、初めは俺もその魅力に取り憑かれていた。
やってくうちに、「あ、多分これ強いんだろうな〜」とか、やっぱり思っちゃうのだ。そうしたら、もうオリジナリティなんて微塵も感じなくなってしまう。
そんな風に俺の「自分だけ」ブームは段々と勢いを失い、大学受験を折にきっぱりと消え失せた。
そしてその僅か数ヶ月後に、日本中を震撼させたVRMMO、それが「Everything Have The Ability」。EHTAと呼んだりエブリーアビリティと呼んだり、略称はいくつかある。が、どれもなんだか呼びにくいので俺は「オリジナルゲーム」とか呼んでいる。
視界には溢れんばかりのの緑が飛び込んできた。
遥か遠方にそびえる山も、ほとんど現実と区別できないほどリアルな木々も、踏みしめる度にしっかりとした感触を返す地面も、五感全てがリアル以上のリアルを訴えかけてくる。
ああ、俺が受験勉強に勤しんでいる間に、こんな楽しそうなゲームが開発されていただなんて。技術の進歩に頭皮まで脱帽してしまいそうだ。ありがたやありがたや。
そうして色々と、思いつく限りの能力を思い描いてはあーでもないこーでもないと悩んでいると、後ろの草むらからガサゴソと音がした。
初めての接敵。だが、俺はステータスウィンドウを見るのに夢中で背後から近づいてくる敵に気が付かなかった。
「ぐへぶっ!?」
背中から突き飛ばされる。
ああ、なんと素晴らしい物理演算。現実でコケた時となんら変わりないほどのクオリティの転倒だ。
まぁ、痛みはゲーム的にカットされているが、衝撃?のような痛みのようなものは伝わってくる。
そんなことを分析しているといつまで経ってもタコ殴りにされるだけなので、さっさと立ち上がり背後を振り向く。
「おおっ......これがスライム!......思ったより薄い色してんな」
もっと青っぽいかと思っていたが、水っぽい感じだ。背中濡れてないだろうか?
スライムはプルプルと震えている。さすがに初期エリアの敵だけあって、行動パターンは相当に甘いものだろう。それに、不意打ちを食らっても大してダメージを食らった感触はない。
「さーて、初めての戦闘と行きますか!」
俺はステータスウィンドウを操作し、初期装備の枝を装備した。
30cmくらいの長さの、枝が現れた。
「・・・・・・えーっと」
(ぷるぷるぷる)
おおっと、俺のこれまでのゲーム人生で培われた経験と感性が告げているこれは攻撃モーシぐわあああああああああああああああいたあああああくねえええええええええ
「こ、これでもくらえ!」
アーカイの枝攻撃! スライムは凹んだ!
「ですよね!」
スライムに物理は効かない。これ、常識。
ハンマーで潰すとか核を突くとか剣で切れば倒せる場合もあるが、なんて言ってもこの枝である。てか、もう半ば程で折れかけている。
スライムの攻撃を受け、俺も攻撃をして、そしたら次はスライムの攻撃となるのが自然の摂理というものである。
「待て、話せばわかる!」
〈テイム〉とか〈意思疎通〉とかのアビリティがあれば和解が成立するのだろうか。
スライムの震え具合をよく観察し、飛びかかってきたところを華麗に(必死に)かわし、すれ違いざまの一撃で枝は折れた。
「初期装備弱すぎる件について!!」
木剣とかくらい用意しておけよ!!
ここで、視界の端にアテンションマークが表示される。ステータスウィンドウが開かれ、アビリティを取得しようと通知が急かしてくる。
「い、いやだ!!俺は俺だけの能力を育てたいんだ!!ありふれたスキルなんて使いたくない!!」
無慈悲にもスライムは襲いかかってくる。
だが、おそらくだが、ダメージが入っていない。成人男性に突き飛ばされるくらいの衝撃でぶつかられるだけだ。
初期装備で倒せないの分かってるならダメージ無効じゃなくて武器寄越せよ......
俺の葛藤を他所に、スライムは俺に攻撃を続ける。
「いやだ、ファイアーボールとかストーンエッジとかアイスバレッドとかウインドカッターとか使いたくないんだ!!」
このままでは、ゲームの思惑通り魔法を取得することになってしまう。
ああ、痺れをきらしたチュートリアルが選択肢を出してきた。
〈火魔法〉〈筋力強化〉〈魔剣召喚〉......最後ちょっと気になるな......
「はっ、ダメだ、それはもう開拓されている!!」
相手の生命力を吸うやつとか、格上相手に強いやつとか、使用者を蝕む代償に能力をブーストするとか......とにかく、もうその分野は知っているのだ。絶対に嫌だ。
〈氷魔法〉〈脚力強化〉〈属性付与〉〈弱点看破〉〈鑑定〉〈自動戦闘〉〈行動予測〉〈罠設置〉〈傀儡〉〈透明化〉〈闇魔法〉〈禁術〉............
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!
そして俺は、ピコピコとうるさい手元の板をスライムに叩きつけた。
するとどうだろうか、板は僅かな抵抗の後スライムの体をすり抜け、俺はそのまま派手にすっころんだ。
『スライムを倒した。経験値を獲得した。レベルアップ!APを10獲得した』
見切り発車なので不定期で更新です




