完結編
変態勇者と聖なる秘宝 完結編
芋虫将軍を倒し、ついに魔王の城が見える丘にたどり着いたカイトとエリナ。二人の表情は、これまでとは違い、どこか晴れやかだった。
「ついにここまで来たな…」
カイトは、手にした聖なる秘宝をじっと見つめる。それは、もはや彼を嘲笑う存在ではなかった。
「ええ。勇者様は、もう秘宝の力を恥ずかしがっていませんわね」
エリナが優しく微笑む。
「ああ。俺は、ずっと自分に自信がなくて…目立つのが嫌で、誰とも関わりたくなかった。でも、この旅でエリナと出会って、色んな変態スキルを使いこなすうちに…なんか、開き直れたんだ。俺はこれでいいんだって」
「勇者様…」
「それに、エリナもいてくれたからだ。一人じゃ、こんな旅、きっと続かなかった」
カイトの言葉に、エリナは顔を赤らめた。
「ふふ、私も同じですわ。聖女として、皆の期待に応えなければならないと、ずっと自分を押し殺してきました。でも、勇者様と一緒なら…どんな変態スキルでも、恥ずかしくありませんもの」
二人は静かに手を取り合い、魔王の城の門をくぐった。
「よく来たな、変態勇者と聖女よ!」
玉座に座る魔王は、不気味な笑みを浮かべていた。しかし、その瞳の奥には、深い悲しみが隠されていることに、カイトは気づいていた。
「魔王!俺は、お前を倒す!」
カイトは、迷いなく聖なる秘宝を構えた。
「ふははは!無駄だ!貴様らのスキルなど、この私には通じぬ!この世に、変態の力など必要ないのだ!」
魔王が放った闇の力は、これまでの魔物とは比べ物にならないほど強大だった。カイトの『聖なる金玉』も、エリナとの合体技も、全て弾き返されてしまう。
「なぜだ…どうして、俺たちの力が効かないんだ!」
絶望に打ちひしがれるカイトに、魔王は嘲笑を浴びせた。
「当然だ。変態性は、心の弱さから生まれる。そして、私は…心の弱さなど持たぬ!」
その言葉に、カイトは違和感を覚えた。心の弱さがない…?そんな人間はいないはずだ。
「違う!お前も、心の弱さを抱えているはずだ!」
カイトは叫んだ。
「お前は、この世界を憎んでいるんじゃない。ただ、誰にも理解されずに、一人でいることが寂しかっただけなんだろ!」
魔王の表情が、一瞬だけ揺らいだ。カイトはさらに続けた。
「俺は、お前と同じだ。自分の居場所がなくて、ずっと一人だった。だが、俺はエリナと出会い、この秘宝と出会って、自分を肯定できた!だから、お前も…!」
「黙れ!そんな偽善、私には通用しない!」
魔王は怒りに震え、巨大な闇の球体を出現させた。
「やめて!もう、一人ぼっちじゃないんだから!」
エリナが叫ぶ。その声に、カイトは迷いなく、最後の力を秘宝に込めた。
「…最後のスキルだ。俺たち二人の、純粋な心が作った、最強のスキルだ!」
カイトとエリナは、固く手を取り合った。
「合体技!…『聖なる純愛』!」
秘宝から放たれた光は、これまでで一番強い、温かく優しい光だった。その光は、魔王が作り出した闇の球体を打ち消し、彼の心を包み込んだ。
「あ…ああ…」
魔王は、静かに涙を流した。彼の体から闇の力が消え、彼の正体である、一人の孤独な少年の姿が現れた。
「君たちは…本当に…僕を…」
少年は、カイトとエリナに抱きかかえられ、静かに泣いた。
「もう、大丈夫だ。俺たちがいる」
カイトは少年の頭を撫でた。
その時、一筋の光が天から差し込んだ。それは、聖なる秘宝を授けた神の声だった。
「勇者よ…よくぞ、真の力を呼び覚ました。その秘宝は、変態性を力に変えるものではない。自分自身の心の弱さを受け入れ、愛に変えるためのもの。そして、貴様を導いた聖女エリナも、その証…」
「なんですと!?」
カイトとエリナは驚き、顔を見合わせた。
「…実は、勇者よ。変態性は、私自身が与えたもの。そして、この魔王も、私自身が作り出したものなのだ」
「え…お前、だったんかーい!」
カイトは思わず叫んだ。
「我は、この世界に愛と希望を取り戻すため、貴様と魔王を生み出したのだ」
神の声は、静かに響き渡った。
こうして、世界は救われた。魔王の少年は、カイトとエリナと共に、新しい世界で生きていくことを決めた。聖なる秘宝は、もはや変態の力ではなく、心の弱さを力に変える、愛の証として、彼らの心の中で輝き続けていた。