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第1章 石の鼓動
リナ・ミズハラは考古学者だった。
エジプトに降り立ったその日、砂嵐は収まり、風の音すらも消えていた。
「これを見てください」
現地の調査員が差し出した写真には、ピラミッドの地下に続く未発見の通路が映っていた。
だが、彼女の目は、その奥に微かに光る“石”に釘付けになる。
翌朝、調査隊が慎重に内部へと降りていくと、その石は確かにあった。
無数の石灰岩の中に混じって、異質な深い黒――まるで宇宙を凝縮したような光沢を持つ一枚の石板。
近づいた瞬間、リナの胸が「ドクン」と鳴った。
――心臓じゃない。これは、石の鼓動だ。
彼女は石に手を触れた。その瞬間、時間が、空間が、言葉が、溶けた。
「……見つけてくれて、ありがとう」
声が、どこか遠くから、確かに聞こえた。