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ネカフェ男子は、お人形イラストレーターと仲良くできるのかもしれない

「おい宮本。朱音先輩とはどういう関係だ」


教室に戻ってきた真太に対しての第一声は、クラスカースト上位に座るサッカー部部長だった。


二年生で部長ということもあり、相当の運動神経を持つのであろう……。それゆえの、カースト上位。

さすがに無視は出来ず立ち止まる。


「どういう関係……と言われましても」

「なんだよあれ。朱音先輩と付き合ってんの?」


明らかに悪態をつくサッカー部部長。


「なぁ高橋……やめとけよ」

「うるせぇ。お前は黙っとけ」


高橋と呼ばれたサッカー部部長は、止めに入った男を眼光で押え、その鋭い瞳を真太に向ける。


「本当のことを言えよ宮本。痛いことなんてされたくないだろ?」


クスクス……と小声で笑い始める周りのクラスメート。

真太は、冷めきった瞳で高橋を観る()


「脅しって言うのは、本当に相手が嫌な事をしないと成立しないんですよ。知ってました?」

「あ? なんだテメェ」


ドスの効いた声で威圧をかける高橋。


「なんですか?もしかして朱音先輩のこと好きなんすか? その腹いせ?」


真太がそう言うと、


「は……はあ!? んな訳ねーだろうが! 舐めた口聞いてんじゃねぇ!」


と、赤面する高橋。


「朱音先輩とは付き合ってない。好きなら告白してみたらいいんじゃないすか。付き合えるかも」


真太はそうとだけ言って席に戻る。


「てめぇ……舐めてんじゃねぇぞ!!」


高橋が拳を振りあげようとしたその刹那、教室内にチャイムの音が鳴り響く。


それと同時に入ってきた先生により、授業が開始。

高橋もしぶしぶと言った表情で席に戻った。


「宮本、全然ビビってなかったくね?」

「高橋に威圧かけられてビビんないとか、宮本すげー」


などなど。

授業中にもコソコソと聞こえるそんな言葉。

真太はノートを取りつつ、それを聞いて、


「いや、すごい怖かったんですけどぉぉ……?」


と、若干涙目で呟いた。









───────────────────









あの昼休みの後は、特に何事もなく、真太と朱音の話題ももう上がっているところは少なくなっていた。そのことに真太は軽く安堵すると同時に、


「……あ、部室行かなきゃ行けないのか」


すっかりと忘れていたことを思い出し、真太は急いで身支度を終える。


「部室は……5階の一番奥ねぇ……いや遠いな……」


ブツクサと文句を言いながら、階段を上って行く真太。


5階まで昇ったのち、5階にある職員室を通り過ぎて目当ての部室へと辿り着く。


堂々と教室のドアに貼り付けられた『総合文化部』の文字。


「……達筆だな」

ポスターを少し見てから、鍵は空いているだろうか? と、ドアノブに手をかけると、ドアはスっと開いた。

既に朱音が来ているのかもしれない、と部室内に入る。



そこに居たのは──




「だから、私にとっては重要なことなの!」

「そんなの知ったことか。その話、ぶっちゃけどうだっていいから早く活動をしてくれ」


怒って何かを訴えている黒髪の女子と、他でもない我がクラスの担任、橘美月(たちばなみつき)だった。


数秒のラグののち、二人は真太の存在に気付く。


「……誰?こいつ」


怪訝そうな顔で、真太を指差す女子。


「こら、指を指すんじゃない上茶谷(かみちゃたに)。彼は宮本真太。君と同じ2年生。うちのクラスの子だよ」

「先生のクラス?こんなヤツいたっけ」


素の表情で言っていることから、恐らく悪意は無いのだろうが、真太はおもわずその言葉に軽く眉をひそめる。


「というか宮本。いつまで無言で突っ立ってるつもりだ?早くこっちに来い」

「え……あ、はい」

言われるがまま、2人に近づく真太。

上茶谷と呼ばれた女子は、近くで見るとさらにその美貌がよく分かる。

ぱっちりとした目と、ささやかながらもある胸。そしてそのプロポーション。


誰が見ても美少女と……いや、まるで人形のようだと言うであろうその少女は、ジロジロと眺めてくる真太に対し敵意の目を向ける。


「先生。この変態どうにかして」

「宮本は確かに変態だが、犯罪者ではないし悪いやつでもない。最近じゃ稀な心優しい少年さ」

「ちょ……先生?優しいって言われるのは嬉しいけど、俺、変態でもないんですけど?」

「これからはこの部活の部員になる。仲良くしてやってくれ」

橘のその発言から、「この事ってホントに決定事項なんだ……」と改めて感じる真太。

「ふぅん……あなたが優しい……ねぇ」


そんな真太は気にせず、純粋な目を真太に向け、凝視する上茶谷。



すると、突然真太の胸元に指を当てて、


「……あなたは、私を悪く言わない?」


数秒凝視してから、真面目な顔でそう言った。



「……質問の意図がよくわからないんだが」

突然の質問に、本気で困惑する真太。

「悪く言わないかって聞いてるの」

「それは、時と場合によるんじゃないか?」

「なにそれ。適当に答えないで」


徐々に怒りを孕んだ言い方をし始める上茶谷。

真太は軽くため息をついてから、


「本当に悪いことをしていなければ、悪く言うも何も無いだろ。言う理由もないし……これでいいか?」


「……それは、あなたの本心?」

「そりゃそうだ」


真太がそう言い切ると、上茶谷はふっと離れる。


「上茶谷恵」

「え?」

「私の名前よ。覚えておきなさい」

「めぐみんって呼べばいい?」

「殴るわよ」


マジの目に若干キョドりながら、いそいそと近くにあった椅子に座る真太。


と、何故かニヤニヤしている橘と真太は目が会う。


「なんですか」

「いや?なんでもない。……強いて言うなら、上茶谷が仲良くなれそうな人がお前だったことに驚いてるくらいだ」

「え?なんすかそれ。それってどう言う……」

では、部活に勤しむように。と言葉を残して、部室から出る橘。

またシカトかよ……と呟きつつ、それを見送ってから、真太は口を開く、


「上茶谷さんは……」

「恵でいいわ」


上茶谷に遮られるが、真太は軽く失笑してから、


「んじゃ……上茶谷は、ここの部活で何してんの?」

「恵でいいって言ってるでしょ。……絵を描いてるわ」

「プロ志望?」

「いえ、もうなってる」


そう言うと、こっちに来なさい、と手招きする上茶谷。

椅子から腰を上げて、上茶谷のデスクのようなものに行く。


そこにあったのは、PCと液晶ペンタブ。その他にも小物がいくつか……。


「おぉ……すげぇ」

「でしょう?」


褒められてなのか嬉しそうな笑みを浮かべる上茶谷。


「これを使って仕事をしているのよ。……家だと、描けないから」


しかし、打って変わって、今度は複雑そうな笑みを浮かべる。


「家庭の事情ってやつか?」

「まぁ、間違いではないわ」

「絵を描くのは趣味なのか?」

「趣味というか……仕事でもあるけれど、好きであることは確かね」

「じゃあ、家で出来ないのは辛いんだろうな」


あくまで他人行儀で語る真太。


「……そうね、辛いわ」


上茶谷は、ギリっと歯を食いしばり、方をふるわせている。


「じゃあ家では何をしてるんだ?」

「そんなこと言って……何になるの」

「上茶谷の日常を知ることで、お前をもっと知ろうという寸法だ」

「何言ってるの」

「俺、友達少ないから。せっかく出来た友達とは仲良くなりたいんだよね」


ヘラヘラとした口調でそう言う真太。


「……ぷっ」

「おい。何故笑った」


すると、上茶谷は、耐えきれなかったように吹き出す。

「だ……だって、友達がいないなんて、そんな簡単に言えることじゃないでしょう?」

「いないとは言っていない。少ない、だ」

「はいはい。そうね」


なおも笑い続ける上茶谷。


「そんなに面白かったか?」

「えぇ。最高よ」

「さっきの肩の震えはその笑いのせいか?」


真太がそう聞くと、笑って出てきた涙をふき取って、 そうかもしれないわね、とだけ話す上茶谷。


「なぁ……上茶谷」

「ん?何かしら」

「俺……お前と昔会ったことある?」

「ないけれど……なぜ?」

「いくらなんでも……初対面の人とこんな仲良くできないだろ」


真太は思ったことをスラスラと口にする。

すると上茶谷は寂しそうな顔で、


「私も、友達が少ないから。同世代の人と話せるってだけで楽しいの」

「なんだそりゃ……」

「貴方にとっての当たり前は、私にとっての当たり前ではないわ」

「そりゃな」


と言いつつ、誰かとこんなふうに親しく話すのは当たり前ではないのかもしれない……と、上茶谷の言葉をくむ。


「私は人を信じやすいらしいわ」

「いい意味でか?」

「悪い意味の方が強いかも」

窓の外を眺める上茶谷。


「でもあなたは、私のことを裏切らない……そう感じたから。初対面だったら……その人と仲良くするのは、何かおかしい?」

「……そんなことは無いな」


そう言った真太は、自然な笑みを浮かべていた。







──────────────────








「後輩くん!ごめん、遅れちゃっ……た?」


勢いよく扉を開き入ってきたのは、他でもない。朱音だ。


「先輩。遅かったですね」



「遅かったですね。じゃないよ。なんで『なめこ』ちゃんと仲良さそうに笑ってるわけ?」




むー……と顔を膨らませる朱音。


「……先輩?なめこちゃんって誰のことです?」

「え?そこにいるじゃん。上茶谷恵ちゃんだよ」

「えぇ?どこがなめこ?」

「恵ちゃんの好きな食べ物がなめこ。だからなめこちゃんだよ」


可愛いよね……と、そう言う朱音。


だが真太は1人、まさか……と頭を抱える。


「上茶谷がなめこ……んで、上茶谷はイラストレーター……ね」


イラストレーターのなめこと言えば……他でもない。

朱音が執筆している小説のイラストレーター、


「ばかなめこ先生……」

「っ!?」


そのペンネームを口にした瞬間、上茶谷の頬がボッと赤くなる。


「……上茶谷?お前、ばかなめこ先生なのか?」

「ち……違うわよ!」

「あぁ、そっか、言うの忘れてた。この子、私のイラストレーターのばかなめこ先生」

「あ……アカネぇ……」


ガタリと崩れ落ちる上茶谷。


何故ここまで上茶谷が羞恥に顔をそめているのかは、真太にでもわかる──



「お前が……あの伝説の触手シーンを描いたんだな……」



上茶谷の甲高い声が、学校に響く。



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― 新着の感想 ―
[一言] ばかなめこ先生、めっちゃ可愛いですね! 隠れイラストレイターのなめこ先生が触手イラストについて言われて、恥ずかしそうにする様子にニヤけました。更新お疲れ様です。
2022/02/06 22:43 退会済み
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