美少女先輩は、ネカフェ後輩とイチャついてくれるのかもしれない
「先輩。なんで俺を置いていったんですか」
「後輩くんが遅すぎるのが悪いんだよ」
「そんな事言われても……モロダッシュしてたでしょ先輩」
「えー?そうだっけー?」
すっとぼける朱音に、真太はため息をついて駅のホームにある椅子に座る。
「三分後です。待ちますよ」
「誰もいないし、キスとかしちゃう?」
「さっき間接でしたので、もう一生やらなくていいです」
「そんなー」
椅子に座りながら足をプラプラさせる朱音。
「先輩は……普段学校では何してるんですか?」
真太が聞くと、朱音は唇に指先を当てて、少し考えた後、
「うーん……別に友達が多い訳でもないし……ただボーッとすごしてるかな」
「へぇ。以外です。てっきり同級生にもセクハラしてるもんだと」
「後輩くんにしかしないって言ってるでしょ」
朱音がニヤニヤと真太の方に顔を向けるが、真太は逆に顔を背ける。
「あの日、ネカフェで先輩に出会わなければ、俺はこんなことになってないんだもんなぁ」
「それは良い意味だよね?」
「悪い意味の方が強いです」
良い意味でもあるんだ、と上機嫌に笑う朱音。
「朱音先輩は、俺にセクハラ出来て幸せでしょうけどね」
「そりゃあね。後輩くんとの初夜を迎えるまで、君を掴んで離さないよ」
「ちょっと怖いし初夜は来ません。安心してください」
「って言ってる人ほど性欲強いんだよ?むっつりスケベ?」
「それは上茶谷で十分です」
「今私と話してるのに、ばかなめこちゃんの話しないで」
「なんでですか……」
「私と話してるんだから、ほかの女の名前出さないで!」
「ヤンデレですか?」
冗談冗談、と笑いながら言った朱音。
突然鳴り響いた駅のアナウンスの声に二人揃ってビクッとしてから、2人は電車に乗って、朱音の家に近い仙台駅へと向かうのだった。
「仙台駅といえば、ずんだシェイクだよねぇ……」
「いえばって程ではないですが……まぁ美味しいですね」
仙台駅に到着し、駅の購買でずんだシェイクを買って歩く2人。
「このつぶつぶ感というか……舌触りが絶妙なんですよね……」
「だね。味もいいし、パッケージ可愛いし……って後輩くん」
「はい?」
んっ、んっと、自らの口元を指さし、真太に何かを伝えようとする朱音。
「……あぁ、口についてるってことですか」
「そうそう。舐めてとってあげる?」
「やって欲しいところは山々ですが、ティッシュがあるのでそれで拭きます」
「なんだ。こっそり口の中に舌を入れるつもりだったのに」
「ほんとに恐ろしいこと考えますねあなた……」
「俺の家……まぁネカフェに住んでた頃はもうちょっと駅から遠くて大変だったんですが……」
「駅から徒歩5分だから、楽になったね」
「本当にその通りです」
仙台駅東口から外に出て、そこからしばらく歩けば、直ぐに朱音の家はある。
真太が行っていたネカフェが仙台駅から少し離れていたこともあり、真太的には楽になったのだ。
「寒い冬の夜も、早く帰って来れるね」
「まだ7月だし、どころか冬まで居座れません」
「なんでうちに泊まってるのか忘れたの?」
「……分かってますよ」
「凍えて帰ってきた後輩くんを、体温で温めてあげるから」
「人類史上最凶のトラップであるこたつに温めてもらいます」
「私はご所望じゃない?」
「セクハラ先輩は、まず自分のことを気にしてみては?」
先程の朱音を真似するように、自分の口元を指さす真太。
朱音は、「あ、ついてる?」と言ってから、唇を指でなぞる。
「先輩?ティッシュだったら……」
「えいっ」
「むごっ!?」
そして、その指を真太の口の中におもむろに突っ込んだ。
「間接キスだ」
「違います!というか、衛生面的にNG!手洗ってないでしょ!」
「ウエットティッシュで吹いてあるから」
さっきの購買で貰ったウエットティッシュの袋をぴらぴらさせる朱音。
その顔には一切の動揺はなく平然としている。
「あ……あと、俺は人の口についた食べ物を食べるような事はしたくないですから」
「美少女先輩が相手でも?」
「誰だろうと変わりません」
「ま、赤面した後輩くんが見れただけで満足かな」
「やっぱり悪魔だよこの人……」
そんな言葉を言い捨てて、真太はがっくりと項垂れた。