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セクハラ先輩は、俺の人生を終わらせる人なのかもしれない


突然だが、これまでの人生。





朝起きたら隣に痴女が寝ていたという経験はあるだろうか。




「……んふぅ」




心地よさそうに寝返りうった痴女──静華朱音先輩。




ブランケットからはみ出た白い肌が、カーテンから僅かに盛れる光を反射して、綺麗に輝いている。




……何やってんだこの人。




「あ、後輩くん。おはよう」




すっかり寝ていると思い込んでいたが、どうやら既に起きていたらしい。


ブランケットが落ちないように細心の注意を払いながら、俺はむくりと起き上がる。




「……朱音先輩。いくらなんでも体を売りすぎでは?」


「私、君以外にこんなことしないよ?」


「してたら通報もんですからねぇ!……ほんと、朝っぱらから目に悪い……」


「思春期男子には少々刺激が強かったか……その証拠に……ほら。体は正直だよ」


「どこを見てそうほざいているのか知りませんが、全く反応してませんからね」


「え?でもさっきまで……」


「……それは生理現象です。生々しいこと言わないでください」




痴女こと朱音先輩は、俺をからかった後満足そうに微笑んで、再び布団の中に戻っていく。




「風邪引きますよ」


「下着は着てるからー」


「いやあんまし関係ないだろ……」




本当に……この人にはついていけない。




苦笑しながら、ため息をついて顔を上げると、カレンダーが目に入る。




6月──あぁ、そうか。意外と日は経ってるんだな……と、再びうつむく俺。




思い出してみれば、長くも短くもちょうど1か月前。




あの日の俺の不注意が、今こんな日々を過ごす事になった原因であって……。




あの日、静華朱音にさえ合わなければ、今日も今日とて快適な朝を過ごしていたはずなのに……。




なんで……なんで……






「なんで俺は、朝から痴女と過ごす日々を送ってるんだろう……」






いわく……このセクハラ先輩は、ネカフェ男子と同居したい……らしい。










─────────────────────











 

 子供が立ち入れない雰囲気を帯びた、深夜の街。

街を照らすのは太陽ではなく、ギラギラと輝くLEDや街灯だ。


 そんな街を1人。慣れた足どりで歩く男が1人。


 男の割に伸びた髪が目にかかり、服装も真っ黒で、ハッキリ言えばダサい服装。持っているものはバックのみだが、そのバックにはアニメのキャラクターが書いていて、見るからに典型的なオタク……。


 宮本真太(みやもとしんた)。17歳。高校2年生。

 真太は、とある場所を目指し、淡々と歩みを進める。


「どこ行くんだよぉ〜! もう一軒どうよ???」

「だから、明日の仕事に間に合わなく……」

「つまんないこと言わないでさぁ……」


 時刻は午後11時30分。

 居酒屋があるここ周辺は、夜になるとこういう大人たちで溢れかえる


 真太は、それらを軽く見てから、ほぅ……と息を吐いた。

「……気持ち悪い」


 なんなのだ……あの禿げたおじさんは……。若い女の社員にダル絡みして、イチャイチャ出来るとでも思っているのだろうか……。と、モヤモヤした感情を抑え、1歩1歩と前に進み、目的地に辿り着く。



 ネットカフェ──通称ネカフェ。



 ネット自由の、24時間空いている店で、大体の部屋は薄い壁で区切られており、1部の部屋は完全個室となっている。日帰りが基本ではあるが、宿泊として使うことも出来る店だ。


 いま真太が来たネカフェは、漫画やドリンクバーは基本無料、別料金でご飯を食べることも出来るなど充実しており、まさにここで一日を過ごすことが出来る。


 店に入店するや否や、だるそうにスマホをいじるカウンター店員の前に行く。


「いらっしゃせ〜」

「予約してた宮本です」

「あ〜い。少々お待ちくださ〜い」


 頭をポリポリ書きながら、パソコンで何かを確認するカウンター店員。ぶっちゃけ態度はあまり宜しくないが、笑顔で接待してくれているため、悪い印象は持たない。


「あ、完全個室で予約されてた方っすか? ウチ、個室は18歳未満は使えないんすけど……」


 そう言われてから、学生証を取り出し、カウンター店員に渡す。


「……あ、18歳ですね。了解っす。失礼しやした〜」


高校三年、18歳と書かれた学生証を見てから、その学生証を真太に返し、そそくさと鍵を取りに行くカウンター定員。


 もちろん、真太が出した生徒手帳は偽装のものだ。

 ここの店の店員は、そこまで深堀して来ない事は既に分かっていた。


 鍵……カードキーを受け取って、真太は部屋へと向かう。


 家を追い出されてから早くも半年。


 毎月貰えるのは金だけで、家にはもう戻れないし、もちろんご飯なんてのも食えない。

 とはいえ、毎月貰える額が月に20万前後なので、特に生活に不自由はなかった。


 泊まり場所はネカフェ、ご飯もネカフェ、スーパーで野菜を買えば、栄養バランスの問題も解決される。


 強いて言えば家がないため、学校に行くための荷物など、生活必需品を常に持ち歩かなければ行けないところが悩み所だが、それ以外は特にない。


 小説は、紙のものは全て売り払い、電子書籍で購入している。


 部屋の前に着き、カードキーをドアノブにある機械にかざし、ドアを開く。


 部屋はかなり狭いが、床にマットレスが敷かれていて、正面にはモニターがあり、自由に使うことも出来るなど、狭いなりにも設備は充実しているように思える。


 とりあえず部屋の端にバックを置いて、マットレスの上に倒れ込んだ。


「ふい〜……」


 自然と出た溜息に、「疲れてんだな」と、自嘲気味に笑う真太。


 寝転びながら、バックからスマホを取りだし、来ていたLINEの返信を始める。ほとんどがネットの友達からだが。


 一通り返信を終えて再び立ち上がり、部屋の外に出る真太。


「今日は何を食おうかな……」


 このネカフェのサイトを見つつ、メニューを決めながらフードコートに行き、「ハンバーグステーキで」と注文してから、ドリンクバーにてメロンソーダを注ぐ。


 真太にとって、食事は至高のひとときである。


 席に座り、メロンソーダをストローで飲む。


「……ぷはぁ〜」


 酒を飲んだおっさんみたいな声が出るが、どうせこんな時間に誰もいないので、周りを気にせずどんどん飲み進める。


「はぁ……課題終わってねぇな……。あ、ラノベ新刊今日か……買って読まなきゃなぁ。つかメイトの限定アイテム明日からか!買いに行かなければ……」


 次から次へと漏れ出す独り言。


 それのせいだろうか。


「あれれ。なぜ後輩くんがこんな時間にネカフェにいるのかな?」


 背後の気配に、全く気付けなかったのは。



「……こぽふぅ!?」


 キョドって意味不明な声を出す真太を、「いいおもちゃを見つけた」と言わんばかりに舌なめずりするのは……


「な……なぜ朱音先輩がここに……」

「そりゃあ、ネカフェを使うからだよ」


 成績優秀容姿端麗の完璧(パーフェクト)超人。

真太が通う学校──新島高校に置いて、学年トップクラスの顔面偏差値を持つ、静華朱音(しずかあかね)


 しかも、成績優秀容姿端麗なだけでなく、『ラノベ作家』として活躍しているのだから、うちの学校では、それはそれは神々しい存在。


 実際、真太自身も彼女の書く作品のファンで、いくつも購読している。


 そんな彼女が、なぜこんな所にいるのか、真太には疑問で仕方ない。


「し……使用用途は?」

「援交かな」

「!?」

「嘘だよ嘘。小説書くために来てるの。簡単に信じちゃって、セールスに騙されないでね?」

「な……」


 馬鹿にされ、耳まで真っ赤に染まる真太。


 それを見えているのか見えていないのか。彼女は止めることなく続ける。


「それで、こっちが聞きたいんだけどさ、なんでこんな時間にネカフェにいるの? 18歳未満の子はいちゃダメな時間だよ?」

「そ……それは……」


 言葉に詰まる真太。


 すると、朱音は、顔をぐっと近づける。


「……近っ」

「ねぇ、なんでなの?」


 吐息がかかる程に近付いてきた朱音。

 髪から漂う、やけにいい匂いが真太の鼻孔をくすぐる。


「……親に家を追い出されて、住む所がないので、年齢を偽って泊まってます」


 実際に使っているところを見られているのだから、隠したところで……と思いそう言うと、朱音はしばらく真太をじっと眺めてから……


「そっか。大変なんだね」


 とだけ呟き、ふっと離れる。


 どこか残念な気分が湧いてきた真太だったが、その雑念を潰し、直ぐに懇願する。


「あのー……出来れば言わないでいただけるとですね……」

「それは嫌かなぁ」


 ま……ですよねー……。と、真太は軽く心の中で納得する。


 人の弱みを握っておいて、それを手放す人間なんて、恐らくほとんど居ないだろう。そんなことは真太自身もよく分かっている。バレた時点で、腹は括っていた。


「……死ぬとか以外なら何でもするので。お願いします……バラすのだけは……退学だけは……」


 とはいえ、さすがに死にたくは無いので、そこだけを覗いてそう言うと、朱音はニヤリと口角を上げる。


「そういう事、簡単に言っていいのかな?」

「女性だったらダメだと思いますが、俺は男なので」

「へぇ……肝が据わってるね」

「そんなことは。覚悟を決めただけです」


 「面白いね君」とだけ言って、手を顎に当てて考えるジェスチャーをする朱音。だが、考えている様子は微塵もなく、言うことは既に決まっているようだった。


「うーん……よし。決めた」


 刹那、心臓がドクリと跳ねる。


 もしかすると、彼女の奴隷として今後の人生を暮らしていくのかもしれない……。


 そう考えただけで、身震いがする……。


 真太は、生唾を飲み込んで、彼女が発する言葉を待つ。


 抵抗できない中で、彼女が発した条件。

 それは────

















「私のお家に泊まることにしようか」

「……は?」

 





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