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七話 頑張るか

 

 ちょっと覚悟を決めたところで本質が変わるわけないし、いろいろと考えながら歩いていたため重い足取りだったが、さすがに不味いと思い急いで目的の場所を目指しているところだ。


 そろそろかなと思い始めたところで、ゴブリン達の断末魔が聞こえてきた。

 ……なんか、いきなり心臓がバクバクとしだしてきたな。なんか手とか足も、しびれているというか、感覚が薄い感じがするし。

 僕は体が異変を起こし始めているのを感じながら、崖に隠れるようにして気持ち片目だけが出るようにしてのぞいた。


 のぞいた先には、最初見た時より数の減っているゴブリン達、ルヴィエさんと肩で息をしているデリックさんがいた。

 そして、あちらこちらに胴が真っ二つになっているゴブリンや黒焦げのゴブリンの死体が大量に散らばっていた。

 

 ある程度は手遅れである可能性も覚悟していたけど、最初に見た時よりもゴブリン達の数が少なくとも半分以上減っているように見えるので、ゴブリン達に囲まれる形になっているけど僕が考えていたよりは善戦しているな。

 気休め程度の安堵を覚えながらも、今右手に持っている剣を複製する魔法を使って宙に武器を生成する。


 授業中に高位の魔物は単純に戦闘力が高いだけではなく、高い知性を持っている可能性があったり、魔法を使えたりすると言っていたことをふと思い出す。


 ぱっと戦場を見渡して見ると、普通のゴブリンと黒いゴブリン、体のでかいゴブリン、体格は普通だがシャーマンがかぶっていそうなお面と杖を持っているゴブリン、そして体のでかいゴブリンよりは小さいがガッチリとした体格のゴブリンの周りをでかいゴブリンが重鎮を守る護衛のような感じで囲んでいた。

 いかにもといったゴブリンの所に強そうなゴブリンが集まっているけど、シャーマンぼいゴブリンの所にも小隊みたいな感じでゴブリンが集結しているな。


 今の僕は誰にも認識されていないから意表を突ける。そうなると、この最初の一撃が一番の有効打になるだろう。


 はあ、はあ。怖い……。

 ゴブリン達と戦うことになることも怖いけど、それ以上にこのチャンスを不意にすることが怖い。

 ……とりあえず、この手足の震えを抑えなきゃ。

 僕は震えている左手と震えている両足を右手で、手足両方をひりひりとした痛みが感じてもなお叩き続ける。


 そして、痛みでいまいち震えているのかどうかさえ分かりづらくなった僕は、深呼吸をした後に浮いている剣をゴブリン達の軍勢がいる方へと飛ばす。

 その剣はシャーマンぽいゴブリンと偉そうなゴブリンへ向かって飛んでいく。


 五匹いたシャーマンぽい奴は三匹ほど剣が喉元へと突き刺さり、一匹は狙いがづれて腕を落とせただけで、一匹は防御魔法のようなもので防がれた。偉そうな奴は飛んでくる剣を右手に持っている剣ではじいた。


 ……魔法で防いだのはまだわかるけど、視認してから一秒経っているかどうかというレベルなはずなのに剣で弾き飛ばすとか、ホントにあれゴブリンなのか?

 僕はうまく三匹倒せたことの安堵と達成感を感じながらも、ミスったわけではなく攻撃を完全に防いだゴブリンが二匹いることで不安になる。


 少なくとも自分一人じゃあれは無理だなと思いながら、ルヴィエさん達がいる方に視線を向ける。

 突然指揮をしているゴブリンが倒れたことが原因なのか、ゴブリン達とルヴィエさん達の動きが止まり、辺りを見回していた。

 今は動きが止まっているゴブリン達だがこの後どういう行動を取るのか分からないので、僕は次に取るべき行動を考える。


 ある程度この世界で鍛えられたといっても元現代っ子である僕は、基本的に近接戦が不得手だ。だから、本来ならこの場で後方から剣を飛ばしているのが一番いいのは間違いない。

 けど、ルヴィエさんは長時間戦っているし、デリックさんは実力的にしんどいものがあるのか、それとも出会う前に負ったであろう傷の影響なのかわからないがルヴィエさんよりも疲弊しているように見えるので、一人前線に増えるだけでかなり変わるだろう。


 完全なる足手まといが前に出たところで負担にしかならないかも知れないが、一応魔法で剣を動かせばまあまあな動きにはなるので、多分前に出て戦った方がいいと思う。


 僕は前で戦う時に一番の難点になるであろう恐怖について考えないようにしながら、ルヴィエさん達に合流するため走り出す。


「グガァァァー!」


 一番やばそうなゴブリンが馬鹿でかい声を上げた。それによって、動きの止まっていたゴブリン達が慌ただしく動きだす。

 一部のゴブリン達は僕の方へと向かってくる。


 狙われた僕は、目はつぶらない目はつぶらないと唱えながら、近寄ってくる中でも一番近いものから順に剣を飛ばしていく。

 僕の元にたどりついたゴブリンには手に持っている剣を魔法で動かして、素人が振ったとは思えないブレのない一線でゴブリンを切り捨てる。

 もっと体が動かないと思っていたが、アドレナリンみたいのが出ているのか思ったよりも動ける!


「どうしてここに来たの?」


 ルヴィエさんは襲いかかってくるゴブリン達を相手にしながら、自分達が戦っている場所までにたどりついた僕に声を掛ける。


「なんか悪いかなと思いまして!」


「……そう。なら、もっと早く来て欲しかったわ」


「出来ればそうしたかったんですけどっ!」


 余裕がないために力んだ声が出る。


「まあ、いいわ。……とりあえず、これからどうするかを決めないといけないわ」

 

「で、どうするんだ?」


 今まで一言も喋らなかったデリックさんが口を開く。


「福崎君の不意打ちで厄介なシャーマンゴブリンがあと一匹になったことで、指揮もうまく機能しなくなってかなり動きやすくなるはず。一番遠い所にいるゴブリンキングを潰せば終わりのようなものだけれども、位置的にもゴブリンキングの厄介さ的にもそう簡単にはいかない。だから、一匹一匹のゴブリンを潰しつつも最後のシャーマンゴブリンを狙うのがいいと思うわ」


 一匹?と思って、二匹のシャーマンに顔を向けると、一匹しか見当たらなかった。

 もしかしたら、腕を飛ばされた方は死んだのだろうか?


「そうか……。なら俺がシャーマンゴブリンを狙いに行くから、後ろから援護してくれ」


 デリックさんはルヴィエさんの返答を待たずに敵の元へと向かっていった。


「……私はまだ何も言ってないのだけれど」


 ルヴィエさんは無表情で僕の方を向いた。


「私も彼を追うわ。だから、ここらにいるゴブリンを相手にしながら私たちの援護をお願い。特に彼の援護をしてあげて」


 ルヴィエさんは僕の解答を待たずに向かっていく。

 僕はいやいや、あなたも同じことしてますよなんて言葉が思い浮かんだあと、周りの奴らを一人で相手しながらの援護って難易度かなり高くないかとかなりきつい役回りをさせられることになったのに気づく。


「あーもう!」


 少し慣れてきたからか、確実に近づいてくるゴブリンたちの頭を浮いている剣を操作して切り飛ばしていくことが出来ている。

 僕が到達するまでにかなりのゴブリンを倒してくれたおかげで周りには五十匹ほどいるが、僕の魔法は雑魚狩りにかなり向いているので、援護するためにルヴィエさん達が向かった先へと視線を向ける余裕があった。


「やっぱ、あの人桁違いなんだな」


 デリックさんは先陣をきってゴブリンをたたき切り、ルヴィエさんはデリックさんに飛んでくるシャーマンゴブリンの魔法を防ぎながら普通のゴブリンを魔法と剣で屠っていた。

 デリックさんはともかくルヴィエさんの戦いぶりを見て、これ本当に援護必要なのかなんて思いながらも宙に浮かせている剣を援護のために飛ばす。


 シャーマンゴブリンはルヴィエさんたちに任せればどうにでもなりそうだし、危なげなく自分の周りにいたゴブリンたちもつつがなく片付けられそうだから、あとは後ろから動かない厄介そうなゴブリンを一緒にたたけば終わりかな。


 最初見たとき絶望を覚えたゴブリンの軍勢をどうにかできる算段がつき、心に余裕が出てきた僕の視界にあのやばそうなゴブリンが槍のようなものを投げるフォームに入っているのが見えた。


おいおいおい、まじかあれ!?

 なんとなくやろうとしていることが分かったので、宙に浮いている剣をあのゴブリンがいる方向へと集める。

 それでも、ものすごく嫌な予感がした僕はゴブリンの死体が転がっている地面に転がり込む。すると、後方からズドーンという音をたてた。


 後ろを向くと砂ぼこりが舞って目に入った。目をごしごしとぬぐいながら、涙を流しながらも薄―く目を開くと槍に剣が団子みたいに何本も刺さっていた。

 しかも、その槍は地面に突き刺さっている。


「これ、よけてなかったら終わってたよな……」


 僕は地面に転がり込んだことによってついた土とかゴブリンの血が気にならず、冷や汗をかきながらゴブリンが投げた槍を見つめる。


 僕は呆けていたが、この光景を作り出した奴が何をしているのか確認しないとまずいと思い、あのゴブリンがいた場所を見た。

 しかし、あのゴブリンがいた場所にはゴブリンはおらず、さらに離れたところにゴブリンの集団が見えた。


 ……あのゴブリンなら、この戦況をひっくり返せたような気はするけど……。

 僕はそんな疑問を持ちつつも、おそらく撤退したのだろうと胸をなでおろす。


「大丈夫?」


 僕よりも長い時間戦っていたのにもかかわらず、ちょっとした汚れ程度しかついてない服装のルヴィエさんは座り込んでいる自分に声をかけた。

 離れていたはずのルヴィエさんがなぜここにいるのだろうと思ったが、僕が思った以上に呆けていたのだなとルヴィエさんの後ろにいるデリックさんも確認してそう納得した。


「……まあ、なんとか」


 気が抜けてどっと疲れが押し寄せてきた。

 全身が地面に転がったせいで、ゴブリンの血とかがべったりと体中に着いちゃってるし、犬が何ヶ月も体を洗ってないような臭いがして、気分が悪くなり風呂にとにかく入りたいな。


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