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五話 どうしたら


「お世話になりました」


「いえいえ、こちらこそお世話になりました。これをご縁に、また何かありましたらよろしくお願いします」


 村長は自分達に頭を下げた。

 村からもらったおみあげを見ながら、内心自分より年上があからさまに媚びを売ってくることに居心地が悪いというか、気持ち悪さを感じていた。

 そして、なんとなく貴族とかみたいな偉い人との世界に関わり合いになりたくないなと思った。

 僕はそんなことを感じつつも、ようやっと帰れると思っていたところにガッチリとした体格の武装した男の人がこちらへと走ってきた。


「村長、黒いゴブリンどもがもうすぐここに来るぞ!」


 その男は左肩を抑えながら、必死の形相でそういった。

ここまで走ってきたからか、それとも村に脅威が迫ってきているためか、はたまたゴブリンと戦闘したときの影響からか、男の人の顔は汗でいっぱいだった。


 僕はどんな反応をするのか気になって村長の方を見ると、額に汗をながしていた。

 言っちゃ悪いけど、こんな村にいる村人程度が返り討ちになる程度だったら大したことはないと思う。

 でも、今走ってきた男の人は村長が冷や汗を流しているということはこの村ではかなりの腕利きなのだろう。見た目もいかついし。


 村長はこっちを見てなんだか浮かない顔をしていたが、少し時間がたつと名案が浮かんだとばかりの顔をした。


「ルヴィエ様と福崎様。どうか、依頼ではありませんがそのゴブリン達を討伐していただけませんか?」


 なんか閃いたみたいな顔をしたときに嫌な予感がしたけど、そういうことか……。

 大方、依頼料金を払いたくないとかそんなことだろう。


「待て村長。そんな足手まといにしかならなそうな奴らにゴブリン達の相手をさせるのか!」


 男の人の声は子供が見たらそそをしてしまうような威圧があった。

 もともと、そこら辺にいるゴブリンなど正直言って村の脅威にはなり得ないものらしい。

確かに、そんなんでいちいち村が危機に陥っていたら、すぐに村は崩壊するだろうし。

 

 これは僕の予想だけど、どうして依頼を出すのかというと将来性のある優秀な魔法師とのつながりを作るためと、名門校であるエスクウェスとつながりを作るためとかそんな理由だろう。

 そのため、学園から送られてくる生徒達が使える人材として考えられてないと思う。

 つまり、この村長は使い物になるかどうかも分からない僕たちに危険なことを、依頼を通さないでお願いしているということになる。


「こら黙らんか、デリック!ルヴィエ様と福崎様に失礼だろう!」


 村長は男の人――デリックさんに向かって怒鳴り、その後自分達がいる方へと向いた。


「すみません。デリックのことは気になさらないでください。それで、先ほどの話を受けてくれませんか?」


 デリックさんを相手するときの態度を見たことで村長の媚びを売っているのが明確に伝わり、自分のことをダメ人間だとは自覚しているけど目の前の腰が低い人物みたいになりたくないなと思った。


「お引き受けします」


 ルヴィエさんの言葉の後、村長はほんの少しだけ口角を上げた。

 僕はまじかよ!と思いながらもルヴィエさんがいれば何とかなるだろうからと思い、とりあえず何も言わずに受け入れることにした。





「えっと、何してるんですか?」


 ルヴィエさんは四匹ほどいた黒いゴブリン達を得意としている水魔法で一瞬にして蹴散らした後、何かを探すように行動していた。

 僕は昨日苛立ってしまったことを反省して黙ってついて行っていたけど、そこそこな時間辺りを散策して飽きてきたというのとさすがに疲れてきたので、早く帰りたいという気持ちがありながらルヴィエさんに質問した。


「……」


「どれくらいまで掛かりますか?」


「……日が暮れるまで」


 えっ!?いやいや、今まだ昼なんだけど!

 何時間このなんの意味があるか分からないことを続けるの!?

 僕はものすごく帰りたくなってきたけど、ここで先に帰れるような度胸はないのでルヴィエさんについて行く。


「見つけた」


 ぼけ~としながらルヴィエさんについて行っていた僕は、ようやく目的のものを見つけたのかと崖に隠れるようにしているルヴィエさんと同じものを見るため、顔を出してみた。

 ……何だこれ?

 僕の視線の先には、数えることなんてできないぐらいのゴブリンの軍勢があった。

 目の前に広がっている光景があまりにも現実味を感じられないものだったので、ボーとみていたら何かに服の襟の後ろを引っ張られ尻餅をついた。


「危ない!」


 襟を引っ張ったのはルヴィエさんだった。

 僕はえっ!なに!と思ったけど、相手に見つかったら不味いからかとルヴィエさんがしたことの意図を理解した。


「すみません」


 僕はルヴィエさんに転ばされたが、それを加味しても明らかに不味いことをしたのは自分だと分かっているので、尻が痛いなーと思いつつ謝罪をした。


「それでどうするんですか?」


 僕としてはここをいったん引くしかないなと思っているし、ルヴィエさんもそう考えだろうと思っているため、確認の意味も込めて質問する。


「行ってくるわ」


 えっ?

 僕が頭の中で疑問符が浮かんでいる間に、ルヴィエさんは崖から身を出そうとした。

 僕は驚きながらもレインがゴブリンの軍勢に突っ込んでいきそうだったので、とっさにルヴィエさんの服の袖をつかむ。


「いやいやいや、待ってください!あれ、絶対二人じゃむりですよ!?」


 ルヴィエさんは少し目を見開いたように見えた。


「……別にあなたはついてこなくていいわよ」


 僕はその言葉にそれなら、と少しだけ思ったが、なんとなくルヴィエさんの服の袖をつかむ力を緩める気にならなかった。


「あなたがもしこのまま私を足止めしようとも、私の決意は変わらないわ。だって、村の安全を考えたらゴブリンの足止めをしたほうがいいもの。でも、いくら足止めをしても村の人への避難の呼びかけや応援を呼びに行く人間がいなければ意味がない。だから、あなたはここで私と一緒に戦うのではなく、その役割を果たして」


 いつもルヴィエさんから感じる冷たさはなく、真剣な表情で僕の顔を見つめていた。

 ルヴィエさんが言ったことの理屈は通ってはいるから、ルヴィエさんの提案通りにした方でいいよなと感じつつも、この場から離れる気になれなかった。


「あっ」


 迷いが生じてどうすればいいんだろうと考えていたら、袖をつかむ力が緩んでしまい、ルヴィエさんは袖をつかんでいる僕の手を振り払ってゴブリンの方へと向かっていった。


 僕はゴブリンの軍団に突っ込んでいくルヴィエさんを今からでも止めに行くべきじゃないかとか、加勢に行った方がいいんじゃないかとか、冷静に考えて助けを呼びに行くべきじゃないかいやでもなどと、頭の中がごちゃごちゃになりながらしばらくの間ずっと考え込んでいた。


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