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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

望まれた結末は、

作者: 嘉藤 静狗

 その場の思いつきで書き殴ったので、大分設定が粗いです。

 とても久しぶりの投稿になります。

 

「……何か、望みはあるか」


 それは、ただの慣習に過ぎなかった。

 厳しい地下牢の環境に耐えかねて、病を得て死ぬ者。または、翌日に処刑を控えた者。看守は、そういった者達に最後の慈悲の言葉を贈る。


 あの世に連れていく怨みを僅かでも減らし、次への生へと持ち込まれないように。

 この国に息づく古い宗教の名残だった。


 解放や延命に関すること、新たな罪に繋がることは叶わず、予算も多くはない。だが、範囲内のことならば大抵は許容される。


 死ぬ前に腹一杯になるまで食事をしたい、と言えば晩餐にご馳走が与えられた。

 髪に綺麗な花を飾りたい、と言えば髪を香油で整えた上でその日一番美しい花が贈られた。

 禁書を読んでみたい、と言えば魔封じと監視付きではあるが時間が許す限り閲覧が許された。


 そうして、最後の未練を解消した罪人達は、皆、穏やかな顔まま死んでいく。



 この日、看守が訪ねた相手は、一人の女囚人であった。


 女は、元は大層美しかったと見えるが、今は埃や汚物に塗れて、骨と筋が浮かんばかりに窶れて、まるでミイラのようだ。その上、ゼイゼイと荒い息を吐きながら、青白い肌を不健康に赤く染め、倒れ伏している。

 看守は憐れとは思いつつ、延命は許されていないので、答えを聞くために嗄れた喉を潤すだけの水を差した後は、その場に静かに佇んでいた。


 女は、数年前までは次期王妃と目されていた高貴な令嬢だった。

 絶世の美貌と巧みな話術で人々を虜にし、艶やかな牡丹のようにあまねく花々を抑えて、社交界の頂点に君臨していたと聞く。


 だが、婚約者である王子が菫のような幼気な令嬢に心を移したことで、栄華を誇った女は転落していった。


 女は、あらゆる手段を用いて少女を害した。噂で貶め、その身を辱しめようとし、事故に見せかけて殺そうとした。

 そして、罪を暴かれ、散ってしまった。


 今は王妃となった少女の嘆願により、処刑は免れたものの、この地下にただ一人、永久に閉ざされることとなった。


 嫉妬一つで全てを失った、女。その苦痛が漸く終わろうとしていた。




「何か、望みはあるか」


 看守は、再度問う。低く、落ち着いた声だった。

 すると、それまで宙を見つめるばかりだった女の目が、ゆっくりと看守の方へと移ろう。空虚な目をした女は、ひび割れた笑みを浮かべて答えた。


「願いは、一つ。私が死んだら、どうか遺体は燃やして欲しい」


 女の声は、真冬の澄みきった空気の中で明朗に響いた。病を得てから息するのもやっとだった様子が、まるで嘘であったかのように。

 看守は不思議に思いつつも、惹かれるように聞き入っていた。


「焼却炉でも、溶岩の中でも、竜の息吹に焼かれるでもいい。灰すらも残らないよう、この身を焼き尽くして、この世から消し去って」


 願いを全て言い切った女は、がふりと噎せたような咳ををすると、口端から赤黒い血を流す。……どうやら限界が近いらしい。

 ひゅうひゅうと、か細い息をする女は苦しさからか、生理的な涙を流していた。


 いつの間にか檻の中にいた看守は、懐から白いハンカチを引き出すと、目元を抑えてから、口から顎を伝った血を拭ってやる。


 死を前にした女の目には、すぐそこにある看守の顔すらも、ぼんやりとしか映らない。

 だが、そこには見慣れてしまった憎悪や嫌悪はなく、微笑んでいるようにすら見えた、気がした。


「──さぃ。……ぉ……さま」


 そっと髪を労るように撫でる気配。

 どこか懐かしい声に抱かれながら、女の生涯は閉じた。



 腕の中で命を終えた女。

 しばらく、ぼんやりと見つめていた看守は、その身体が冷えきる前に、そっと布でくるんで横抱きにした。誰もいない牢の前を通りすぎ、人気のない監獄の広場の中を、処女雪を踏み締めてまっすぐ歩いていく。


 ふと、その時、看守の頭上を二羽の鳥が飛び去っていった。じゃれ合うように、絡まり合って飛んでいく番いは、やがて青空に溶けていった。


 そして、そのまま二度と戻ることはなかった。




 *




『ねぇ、にぃさま。どうして、おひめさまは、たべられなければならなかったの?』


 甲高い声が歌うように響き渡る、暖かい部屋の中。

 絵本を抱えた青年の膝の上には、子猫のような目をした愛らしい少女が座っていた。


 青年が読み聞かせていたのは、この国に伝わる童話。

 むかしむかしのフレーズで始まる物語は、建国神話を基にしたものだ。



 山の麓で幸せに暮らしていた人々に、突如として降りかかった災厄──凶悪な魔物が現れて、集落を呑み込もうとしたのだ。

 人々は抵抗したが、魔物に傷一つつけることも出来ず、毎日のように喰われ、殺され、人が命を落とした。


 そんな時、山の向こうから現れた旅の一行。集落の人々は、貧しい中でも精一杯一行を歓待した。

 不幸にも国を追われ、疲れて切っていた一行はそれに感謝し、恩返しに魔物討伐に繰り出したが、やはり退けることは叶わなかった。


 ある日、一行の中にいた一人の姫巫女が、生け贄に立候補した。

 一行の中で一番若く、美しかったその乙女は、人々に癒しと安らぎを与える不思議な歌声を持っていた。


 巫女に助けられた人々は、別れを惜しんだ。が、これ以上の被害を抑えられるならと、魔物の下へと向かう巫女を止めることはなかった。


 巫女が魔物の口へと飛び込むと、魔物は一息で呑み込んだ。すると、魔物は苦しみ始め、やがて眠るように倒れ、消えていった。


 そうして、集落には平和が訪れた。



 一人の犠牲で、大勢が救われる。そんな、ありふれた展開のおとぎ話。

 ……だが、これは史実に基づいた話である、と言うことは国の上層部しか知らない。


『さぁ、僕にはとんと分かりません。姫巫女が犠牲を選んだ理由も……本当に、姫巫女が望んで犠牲になったのかも、ね』


 青年は、膝に乗った少女の髪をするりと撫でる。

 擽ったそうにきゃらきゃらと笑う少女は、無邪気そのもので、さっきの悲しい絵本のことなど、すっかり忘れてしまったようだった。


『お嬢様、きっと覚えていてくださいね。一人の犠牲で作られる平和は酷く脆いものです。だから、本当の危機に陥ったら、まずは自分一人でも生き延びてください。

 でも、どうしても駄目な時は僕を呼んでください。……絶対に、お傍に行きますから』


 青年は低く穏やかな声で、少女に語りかける。

 優しく、温かなこの少女に課せられた、酷薄な運命。それを知った時、どうか絶望に溺れてしまわないように。

 青年は、そう願うことしかできなかった。




 *




「嘘、何で……?あの女の死体はどこに行ったのよ!?」


 王城のある一角で、一人の女がヒステリックに叫んでいた。この国の王妃である。

 つい先日、城にもたらされた【古の災厄】復活の知らせを受けてから、王妃は私室に引き込もって出てこない。


 王妃は、全て知っていた。

 自分が生きている間に、【古の災厄】──深い眠りについていた凶悪な魔物が復活すること。そして、それを再度眠りにつかせることが出来る巫女が、自分であることを。


 ただ、巫女の役目は、かつて王子の婚約者であった令嬢でも出来る。だからこそ、令嬢を嵌めて罪人に落とし、それでいて処刑はさせず、地下牢に留めておいた。

 人殺しは嫌だが背に腹は変えられない──そう思っていたところに、女が死んだと聞き、これで罪悪感なく死体を魔物に与えられるとほくそ笑んでいた。


【古の災厄】に与える姫巫女は、必ずしも生きている必要はない。

 姫巫女の血肉に宿る聖なる力が、魔物を眠らせる毒であるからだ。

 新鮮であれば、より効果が高い。だが、死んでいても最低数十年──少なくとも、王妃が生きている間は眠らせることはできる。


 ところが、身代わりにしようとしていた死体は、どこかに持ち出されてしまったと言う。

 それ以来、王妃は狂ったように女への呪詛を吐き続けている。


 すでに、少なくない犠牲が出ていると言うのに、立ち向かうどころか、王族の義務すら放棄している王妃。


 その姿を目の当たりにした使用人達の間で、不満が高まりつつあった。

 使用人の噂話は、出入りの業者などから市井にも広がりやすい。次第に、王妃がこの事態に怯えて何もしないと言う事実は民衆の間に広まっていった。

 庶民から貴族、貴族から王族へと不穏な空気は伝播していく。王は恋女房の情けない様子に、愛想を尽かし、疎ましく思いつつあった。


 そんな中、国一番の占い師が【古の災厄】を眠らせる姫巫女が王妃であると言った。


 すでに王子王女は産まれており、日々の公務もろくに出来ていない。おまけに浪費も激しいことから、王は王妃が用済みであると判断した。

 そして、噂を払拭し、王族としての矜持を保つため、王妃を生け贄にすることを決める。


 王は気晴らしに、と嘯いて夜会を開いて王妃を誘い出した。

 まんまと現れた王妃は最後に盛大な夜会で、豪奢なドレスと贅沢な食事を楽しんだ。そこに、かつての清楚で可憐な少女の面影はない。


 王や王子王女は、どこまでも自分本意な王妃の姿を張りついた笑みで見送り、内心で罵詈雑言を浴びせかける。幸いにも王妃に放置され、代わりに側妃に育てられた王子達は賢く育っていた。


 そして、王妃は寝酒に含まれた睡眠薬で眠らされ、何も知らないうちに魔物に喰われた。

 呆気ない最期だった。


 そうして、王国には平和がもたらされた。




 *





 遠く、山向こうでは、いくつもの黒い煙が、ゆらりゆらりと空と地とを結んでいる。日に日に薄く、細くなっていくそれらは、いずれは影も形も残さず消えていくことだろう。

 ……それも、もう全て、遠い日々のこと。


「お嬢様、これで全てが終わりましたよ」


 山深い地で、看守の青年は静かに微笑む。

 膝の上では愛らしい子猫が、にゃあと答えた。


⚠️注意⚠️

 この先、ネタバレと裏事情になります!

 余韻が損なわれる可能性がありますので、ご注意ください。あと、嫌いなキャラには割りと辛辣です。


女囚人(悪役令嬢)

 建国神話にあった姫巫女の親族の子孫の直系。集落が国へとなった際に、公爵家となったので公爵令嬢。

 王子の婚約者であったが、幼くして初恋を経験した為、王子への想いはなかった。だが、王妃になるのは規定路線だった為、王子が浮気した際に王子と浮気相手双方に注意を促したら、冤罪かけられて罪人にされてしまった。公爵家は両親および祖父母が死んだ後、前当主の父にコンプレックスを覚えていた伯父(小物)が継いだので、助けてくれなかった。

 自分の身体が魔物の毒であることは知っていたが、自分を蔑ろにした国のために使われたくないからと火葬を希望した。


看守の青年(モブ)

 元々は姫巫女の一族に仕える一族の青年。↑のお嬢様の専属の使用人だった。しかし、お嬢様が両親を早くに亡くし、田舎暮らしの祖母の元で兄妹のように育った。

 が、お嬢様が王子と婚約した頃からモヤモヤし始め、それを察知した公爵(小物)に専属を外された。お嬢様が蔑ろにされている間は、領地に飛ばされていて助けられず、収監されたと知って使用人を辞め、看守になった。

 脱獄させなかったのは、生きている限り魔物の生け贄にされるから。(【古の災厄】復活は、領地にいる間に察していた。)


王妃(ヒロイン)

 この世界がとある乙女ゲームの世界だと知っていた。自分がヒロインだからと自分本意に動きまくった。ざまぁと略奪に成功したのは、強制力のせいに違いない。

 姫巫女の一族の傍系の庶子。だけど先祖返りで聖なる力も強い。乙女ゲームの本編でバッドエンドだと、魔物の生け贄になる。

 結婚するまで清楚な猫を被っていた。結婚後すぐに本性を表し、周囲はドン引き。気付かないのは本人ばかり。浮気はしないが、浪費が酷いし、子どもは愛さないし、夫を助けないし、民は省みないし、仕事はしない。王妃の器ではない、ただのクズ。


王子→王(メインヒーロー)

 コイツが一番の要らんことしい。コイツがしっかりしていれば、お嬢様は死ななかったし、とんでもない女を王妃にすることもなかった。あと、【古の災厄】も倒せたかもしれない。

 自分を愛してくれないからと婚約者を見捨てて、浮気相手と「真実の愛w」をやらかしちゃったヤツ。周りからも、「え、バカなの?」と思われつつも、強制力の後押しもあり貫いてしまった。結果、結婚後に大後悔することに。なお、とんでも女と結婚できたのは、金色の目=強い聖なる力を持っていたから。お嬢様も金眼。

 それでもお嬢様の冤罪を晴らさなかったのは、王族は間違いを認めてはならないという習慣と、愛してくれない婚約者への意趣返し。まずはお前が愛してみせろよ、ダサッ。


【古の災厄】(ラスボス)

 人食いの凶悪な魔物。弱点は聖なる力。一人食べれば数十~数百年は眠り続ける。

 誰も死なずに倒すには、二人以上の姫巫女の聖なる力(身体に宿るものなので、血液などの体液)を浴びせて、眠らせたところを攻撃する。眠っているときは無防備(剣でも刺せる状態)なので、隠れていき延びようとする。消えると言うのは、擬態して隠れている状態。故に、眠っているときに見つけ出せれば、容易ではないが倒すことはできる。

 その手間を惜しんで、延々と生け贄を捧げ続けるこの国は、近く崩壊するだろう。


占い師(助っ人)

 乙女ゲームの本編では、恩人であるヒロインを導いたり、攻略対象の好感度を調べたりと、大活躍のキャラ。エンディングで生け贄になる姫巫女を見つけ出す役割もしてる。

 ……が、この世界では死んでいる。


地下牢

 死刑または終身刑が確定している囚人のみが収監されている。死ぬ時だけ出られる仕様。魔法的な何かで対象を閉じ込める。あと、管理する看守の感情を抑制する秘密機能も搭載されている。


聖なる力

 天使とその子孫が持つ力。翼がなければ操ることはできない。身体には宿っているので、体液を通して引き出すことは可能。女性に受け継がれやすいが、男性もないわけではない。姫巫女や聖女と呼ばれるのは、目が金色になるレベルで聖なる力を持っている人のみ。

 上記で「二人以上の~」と記したのは、仮に献血の要領で血液のストックを作ったとしても時間経過で聖なる力は抜けていってしまうため。だから、一人分だと足りない。二人の姫巫女が貧血になるぐらいでギリギリ。

 ただ、血族は大なり小なりの聖なる力を受け継いでいるので、そこらからも集めれば、普通の成人の献血ぐらいの量でも足りる。

 なお、聖なる力は生まれつきの強さもあるが、保持者の生き方によって増減する。無私で博愛の精神を持つ者ほど強い。……ということは?




 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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