1日目:変わらぬ日々
今日と鏡のスキマ
〜1日目:変わらぬ日々〜
目を覚ます。見慣れた天井、変わらぬ風景、カーテンの隙間から挿す陽光、響き渡るアラーム。そこまで認識した私は遅いくる眠気を跳ね除けて体を起こす。カーテンを開けて洗面所で顔を洗う。一階へ降りると母親が朝食の準備をしている。
「おはよう、ママ」
「あら、おはようナタリー」
「おはようナタリー」
「おはようパパ」
いつも通りの会話を交わす。用意してくれたコップ一杯のスムージーを飲み干して歯を磨き、制服に着替えて家を出る。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
半年前は重い気持ちになるその道は今では足取りが軽く感じるほどだ。しばらく歩いていると、前に見慣れた女の子がいる。私は足早に彼女に近づくと話しかけた。
「おはよう、恭香。珍しいね、こんな早くに」
「ん?あぁおはようナタリー。最近、高性能な目覚まし時計拾っちまったみたいなんだよ」
「アハハ」
彼女の名前は秋 恭香。
拾った目覚まし時計というのは彼女が最近保護した子猫のことだ。その子が朝お腹を空かせて彼女を起こしてるんだろう。
私たちは談笑しながら校門を通り教室へ入る。すると少し暗めの茶髪を靡かせた1人の少女が私たちの方へとやってきた。この半年でできた2人目の友達、心音だ。
「おはようナタリー、恭香。珍しいね恭香がこんな早くに来るなんて」
「あぁ、あの猫が毎朝私のことを叩き起こすんだよ」
「それはいい拾い物したね。これで毎朝遅刻しなくて済むね」
そんな会話をしていつも通りの時間が過ぎていく。授業を受け、お昼を食べ、午後の時間を過ごす。帰りのホームルームが終わると2人と一緒に帰る支度を始めた。
「はぁ〜疲れた〜」
「でも恭香、もうすぐテストだよ?」
「うげっ、ナタリー教えてくれ……」
「もちろんいいよ。心音はどうする?」
「ん〜やる〜。いつやる?いや、今日行こう」
「そうだな。じゃあ、サイゼ行くか」
恭香と心音と共にサイゼへと向かう。テストに向けて勉強が苦手な恭香に教えながら自分たちも勉強をすると気づいた時には2時間も経っていた。
「うぇ〜疲れたよ」
「普段からちゃんと授業を聞こうよ」
「だって眠いんだから仕方なくない?」
しばらく話した後サイゼを出る。少し落ちるのが早くなってきた夕日が私たちを赤く照らす。
「まったくあの猫、変な拾い物しちまったな」
「あはは、でも可愛いからいいじゃん」
「まぁな、でもあいつのせいで夜も遊ばされ、朝も起こされ大変だよ」
他愛もない会話だ。半年前では考えられない普通の日常。私はそんな今が楽しくてしょうがない。しかし、次の瞬間そんな日常は割れ物のようにあっさりと壊れ果てる。
「ッ!?ナタリー!危ない!」
交差点、突如として歩道へと突っ込んでくる車。私は体が固まって動けない。そんな体を恭香が突き飛ばす。荒ぶる視界の中、恭香が車に轢かれるのが映った。
「いや……イヤァァァ!」
車はそのまま壁にぶつかって止まる。いきなり壊された現実に私は動揺で意識が混濁していく。黒く染まる視界が最後に捉えたのはのは地面に散らばるガラスや鏡の破片に映る私の顔だった。その顔はどこか笑ってるような気がした。