表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最高の魔法使い  作者: 高山 由宇
8/8

 俺は、全身を打つ痛みに我に返った。

 寒さと、ぐっしょりと濡れた服の重みとで見動きが取れない。

 さっきまで差していたビニール傘が、ぼやける視界の端に入り込んだ。

 傘はひっくり返り、水溜りができている。

 俺は、かじかむ腕をなんとか伸ばし、屋上の手すりをつかんだ。

「何で……」

 震える声が耳に届く。

 俺は、貯水タンクの梯子に座っていたはずだ。

 雨だって、さっきまでやんでいたのに……。

『まさか……白昼夢……?』

「……それとも、魔法……なのか?」

 マヤが、あるいはマリアが見せた、魔法だったのだろうか。

 俺は、傘の柄をつかんで持ち上げると、開いたままだった傘を閉じた。傘の中から溜まった水が迸るように流れ落ちてくる。そして、手すりから離れ、校舎の方へと向かった。

『……俺は、今までどこにいたんだ……?』

 冷え切った体を摩りながら考える。

「……あの話……本当だったのかな……」


 ――雨の日には、異世界への扉が開かれるのだと言う――


 しかし、それは、ただの雨じゃない。

 周りが見えなくなるほどの大雨。

 手を伸ばした先には、大粒の雨が濁った壁を作っている。

 普通は、冷たさと、雨の当たる嫌な感触にすぐに手を引っ込めたくなる。

 けれども、引っ込めずにさらに伸ばし続けると、異世界への扉を開いてしまう。

 ……と、そう言うのだ。


「……開いてしまったのかな……」

 ――信じることができないから……――

 まただ。

 また、マヤの声が耳元で聞こえる。

「わかったよ、マヤ……」

 震える声でつぶやく。

「わかったよ、マリアお姉ちゃん」

 俺は、頭から滝のように滴る水を払い、顔を上げた。

「俺……もっと、一生懸命に生きるよ。一生懸命に、みんなが幸せになれる道を探すよ。そして、必ず、明るい未来が待っているんだって……そう、信じるよ」

 ふと、雨音が遠退いたような気がした。

 雨が、確かに弱まっている。

 雲の切れ間から、一筋の太陽の光が射し込んできた。

「あ……」

 思わず声が漏れた。

 太陽の光が雨に反射して、大きな虹の橋を空にかけている。

 そして、その橋の頂には、にこにこと笑い合う、マリアとマヤの姿が見えたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)今まで僕が出会ってきた作品、あるいは書いてきた作品をまとめて1つの物語にして放出したような作品でしたね。それでいて高山由宇さまの良さが良くでてました。サクサク読める感じがまず好印象で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ