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最高の魔法使い  作者: 高山 由宇
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 端的に言うなら、マヤは消えた。

 まるで、人魚姫みたいに。

 泡になって消えてしまった。

 けれども、代わりに残していったものがある。

 それは、人形……。

 大きな瞳と栗色の髪が印象的な、可愛らしい人形だった。

「マヤ」

 マリアが、人形を抱え上げる。

「ありがとう、マヤ」

 そう言って、マリアは人形の頭を撫でている。

「……それが、マヤ?」

「それ、なんて言わないで!」

「あ……うん、ごめん」

 マリアがマヤをぎゅっと抱きしめている。

「マヤは、もともとお人形さんなの。話しかけるうちに、力を持ってしまったのね。動き出すようになっちゃったの」

「……本当だったのか」

「何が?」

「ぬいぐるみに命を吹き込むことができるってマヤが言っていたから。じゃあ、綿飴やビスケットの話も本当なのか?」

「本当だよ」

「……マジかよ」

「何でそんなに驚くの? 簡単なことなのに」

「どこが……」

「信じればいいんだよ」

「……信じられるわけが……」

「だから、できないんでしょ」

 ふと、マヤの言葉が耳元で聞こえた気がした。

 ――信じることができないから、タケルには魔法が見えないし、使えないのよ――

「マヤは、きっとあなたを助けたかったのね」

 その言葉に、マリアの腕の中にいるマヤを見つめた。心なしか微笑んでいるように見える。

「みんなが幸せになったらいいねって、いつも話していたから。不幸せそうにしているあなたのこと、放っておけなかったのね、きっと」

「……なあ」

「なあに?」

「もしかしてだけど……何て言うか……」

「……言いたいことはわかるわ。そう、死んだの、あたし」

「やっぱり、虐待で……? 殺されたのか……?」

 だが、意外にも、マリアは首を横に振った。

「違うよ。あれは、事故だったの。あたしね、家を飛び出したの。……逃げたの。その先で、車にはねられちゃったの」

「……」

「マヤを置き去りにしたから、そのバツなのかなって思ってた」

「そんなこと……。でもさ、マヤは、あんたのことを恨んでなかったと思う」

「……うん。ありがとう、タケル」

「それは、俺の台詞だよ」

 マリアが、下りてきた階段に再び足をかけた。

「行くのか?」

 尋ねると、

「うん。マヤを迎えにきただけだから」

 振り向いたマリアが言った。

「タケル」

 マリアがにこりと笑う。桃色の頬とその下のえくぼが愛らしい。

「一生懸命に生きるんだよ。そして、一生懸命に幸せになるんだよ」

 そう言うと、マリアは背を向け、長い長い階段を軽やかな足取りで上っていく。

 ……マヤと一緒に。

 割れた空の向こう、マリアとマヤの姿が見えなくなると、長い階段も、降り注いでいた白い光も、あっと言う間に消えてしまった。

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