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最高の魔法使い  作者: 高山 由宇
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「マリアお姉ちゃん!」

 マヤが、下りてくる女の子を迎えようと駆け出す。

「マヤ!」

 最後の階段を下りながら、女の子がマヤに抱きついた。

「マヤ、ごめんね。一人にして、ごめんね」

 しきりに謝る女の子を抱き止めながら、マヤはにこりと微笑む。

「マリアお姉ちゃん、会いたかった」

 俺は、一人取り残されたような心持ちでその光景を眺めていたが、ふと我に返って言った。

「……どういうことだよっ?」

 俺のツッコミは、至極当然のことだったと思う。けれども、マヤも女の子も、二人して首を傾げて俺を見ている。

『……なんだよ。おかしいのは俺か……?』

 俺は首を横に振り、おかしいのは俺じゃないはずだと自分に言い聞かせる。

「マリアお姉ちゃんって……本当に? この子が? マヤの言っていたマリアお姉ちゃんなのか?」

「ええ、そうよ」

「うん、そうだよ」

 マヤと女の子が同時にうなずく。

「いや……おかしいだろ」

「おかしい、かしら?」

「何がおかしいの?」

 これまた、二人同時に尋ねてくる。首を傾げるタイミングまで一緒だ。

『確かに、姉妹っぽいけど……』

と思いながら、

「歳だよ。マリアお姉ちゃんとマヤの年齢がさ、どう考えたっておかしいだろ?」

 そう告げる。

「歳? あたし、九歳だよ」

 女の子が言う。

「私は、マリアお姉ちゃんのふたつ下の妹なの」

 マヤが、またあの台詞を言った。

「マリアお姉ちゃんのふたつ下ってことは、七歳か? どう見たって無理があるだろ」

 マヤが首を傾げて俺を見てくる。

『……首を傾げたいのは俺の方だ』

 俺は、おかしなことは言っていないはずだ。だが、マヤは本当に何がおかしいのかわかっていない様子だ。

「マヤは、どう見たって二十歳前後だろ。なんで、九歳のマリアお姉ちゃんの妹なんだよ?」

「私、二十歳前後……なの?」

「違うのか? でも、少なくとも七歳には見えないよ」

「……」

「あ……もしかして、病気……とか? 体が急成長する病気、なのか?」

「……そうなの?」

「いや、俺が聞いているんだけど……」

「マヤは、あたしのふたつ下の妹なの」

 俺とマヤのやり取りを見ていた女の子が、口を挟んだ。

「あたしが、マヤにそう教えたの。あたし、ずっと妹が欲しかったの」

「……欲しかったって……? それも意味がわからないんだけど……」

「マヤが本当は何歳なのか、あたしにもわからないの。だって、マヤがいつ作られたのか、わからないんだもの」

「……作られた……? 何を言って……」

「あたしがもっともっと小さかった頃は、お母さんがまだ優しかった。その頃は、あたしの本当のお父さんもいてね、楽しかった」

「……本当の、お父さん?」

「あたしのお父さんはね、病気で死んじゃったの」

「なら、虐待していたお父さんって、お母さんの再婚相手か……?」

 女の子はそれには答えず、続けた。

「昔、お父さんとお母さんとあたしで、お祭りに行ったの。赤い明かりの灯るお店で、栗色の髪の可愛いお人形さんを見かけたんだよ。あたし、そのお人形さんがすごく欲しくて、お父さんとお母さんに強請って買ってもらっちゃった」

 一体何の話をしているのか……。俺は、とりあえず続きを聞いてみることにした。

「それからすぐにお父さんが死んじゃって、しばらくして、お母さんが新しいお父さんを連れてきたの。新しいお父さん、あたしをよく殴った。お母さんも……。お母さんは、お父さんの機嫌をいつも気にしていたから」

「……」

「あたしは、いつも家に一人……。一緒にいてくれる人が欲しかったの」

「一人って……マヤがいただろ?」

「……あたし、マヤにいっぱい話しかけた。マヤはあたしのふたつ下の妹なんだよ、マヤのことはお姉ちゃんが絶対に守ってあげるんだからねって」

「……」

「そしたらね、マヤが本当に動き出したの」

「……は?」

「マリアお姉ちゃん」

 マヤの声にそちらを見る。俺は、ぎょっとした。

 ……マヤの体が、光っている。

「……何だよ、これ」

 俺は、まばたきも忘れて見入っていた。光が、しだいに白い泡のようなものに変わっていく。

『……人魚姫みたいだ……』

 そう思った刹那、ひときわ大きな泡が弾けた。

「……マ、ヤ……?」

 ……言葉にできなかった。

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