表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最高の魔法使い  作者: 高山 由宇
5/8

「なあ、マリアお姉ちゃんのお母さんって、どういう意味だ?」

 しばらく沈黙が続いたのち、ついさっき疑問に思ったことを尋ねた。空に浮かぶふわふわの雲を見つめていたマヤは、その視線をゆっくりと俺に向ける。

「その言い方だと、マヤのお母さんじゃないみたいに聞こえるけど……」

「そうね」

 俺の考えを、マヤがあっけなく肯定する。

「マヤは……もしかして、マリアお姉ちゃんとは腹違いの姉妹、なのか?」

「え、そうなの?」

 尋ねたのは俺のはずだが、逆に聞き返されてしまった。

「そうなのって……俺が聞いているんだよ」

「私、わからないわ」

「いや、だから……マリアお姉ちゃんのお母さんは、マヤのお母さんじゃないんだろ?」

「そうね」

「マリアお姉ちゃんのお父さんは、マヤのお父さん?」

「違うわ」

 俺は驚いた。なら、マヤは、一体どういう繋がりでマリアお姉ちゃんの妹になったんだろう。

「マヤは、養子なのか?」

「養子?」

「マリアお姉ちゃんの家に、引き取られたんだろ?」

「それも、たぶん、違う」

「何だよ、たぶんって……。わからないとか、たぶんとか、自分のことだろ!」

 俺は、つい、大声を上げて怒鳴ってしまった。

「タケル」

 マヤが、俺をまっすぐに見つめている。

「マリアお姉ちゃんのお母さん、それからマリアお姉ちゃんのお父さんは、私とは何の関係もないの。私に、お父さんもお母さんもいない。私には、マリアお姉ちゃんだけだったの」

「……どういうことだよ」

「……」

「それに、もしもマヤが養子だったなら、おかしいよな。どうしてマヤじゃなくて、マリアお姉ちゃんが虐待されるんだよ? マリアお姉ちゃんは実の娘だったわけだろ?」

「……」

「マヤは、何で虐待されなかったんだ? いくらマリアお姉ちゃんが守ってくれていたって言ってもさ、子供なんだし……限度はあるだろ?」

「……わからない……」

「……何でだよ」

「わからないのよ、私には……何も。気がついたら、私はそこにいて、そして、マリアお姉ちゃんが笑いかけてくれていたの」

 そう語るマヤの言葉に嘘は感じられなかった。けれども、俺にはその意味がまるでわからない。俺はただ、マヤの次の言葉を待った。

 その時だった。

 頭上に光を感じた。見上げると、空一面に白い光が満ちている。

 俺は、驚きのあまり、何をするでもなく茫然とその光を見つめていた。

 ほどなくして、空が割れた。

 その割れ間から、何かが降りてくる。

 階段だ。

 白い、幅の広い階段が、天から伸びるように降りてきた。

 また、他にも何か、降りてくる。

 それは、一歩一歩、まるで弾むように、軽やかな足取りで階段を下りてきているようだった。

「マヤ!」

 俺は、はっとして辺りを見回す。……誰もいない。

「マヤ!」

 また、聞こえた。まるで、降ってくるかのようなその声……。俺の視線が、階段を駆け下りてくるものを捕らえた。

「……女……の子?」

 半分ぐらい階段を下りてきて、ようやく姿がはっきりとした。

 それは、女の子だった。

 十歳にも満たないような女の子が、羽でも生えているかのような軽やかさで、長い長い階段を下りてきている。そして、しきりにマヤの名を呼んでいるのだ。

「……知り合いか?」

 返答がない。俺は、女の子から目を離すと、マヤの方へ顔を向けた。

「……マヤ?」

 息を呑んだ。

 こんな表情、俺は知らない。

 この十四年の人生で、初めて見たような気がする。

 その時のマヤは、これまでの無表情からは考えられないような表情をしていた。

 悲しいような、喜んでいるような、泣きたそうな、安心したような、それでいて、長年の願いがようやく叶った時のような……そんな、一言ではとても言い表せないような複雑な表情を浮かべていた。

 そして、次の瞬間、マヤの口をついて出た言葉に、俺は驚愕した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ