08 抜き打ち山賊撃退テスト
学園へ向かう道中、10人の山賊が馬車の前に立ちはだかる。
ラムダが実戦経験を積むのにちょうど良い機会だと考えた俺は彼女に任せることにする。
「____【勅命:勇者変化】ッ!」
彼女の言葉に反応し、俺がラムダ専用にチューニングした腕輪型の専用の呪文処理装置が起動する。
これで彼女の【勅命】中の魔力消費を抑えることができるはずだ。
一瞬で全身が赤みを帯びた光に包まれたラムダの闘気が辺りの空気を震わせる。
ただの小娘と侮っていた山賊連中はそのただならぬオーラにひるまされる。
しかし、山賊の首領が「お前らッ!なぁにビビってんだ!かかれッ!」という号令をかけると、下っ端たちはそれに応じて一斉に彼女に襲いかかる。
「オラァ!」「喰らえェ!」
2人の山賊が使い古された鉈でラムダに斬りかかる。
それをスルリと流れる水のように最小限の身のこなしで避ける。
「師匠の動きと比べれば止まっているようなものですね、ハイッ!……ヤァッ!」
「「フゴハァッ!」」
2人の山賊の攻撃を回避すると同時にカウンターで鳩尾に重い拳の一撃を喰らわせる。
修行の成果が出ているようで、【勅命】中にかかる余計な負荷を抑える身のこなしでまずは二人を戦闘不能に追いやった。
「次は?……もう終わり?」
身体が温まってきたラムダは手をクイクイっと山賊にむけて挑発する。
「おぉし、俺たち3人で仕掛けるぞ!」
「おうよ!ガキがマグレで調子に乗んなよ!!!」
「二度と生意気な口利けねえようにしてやるぜ!!!ヒャッハー!!!」
ラムダの挑発に乗った3人が棍棒で、鎖鎌で、ハンマーで一斉に襲いかかる。
しかし、どれだけ畳みかけようと彼らの攻撃は彼女に擦りもしない。
「クソッ、すばしっこくて当たんねえ!」
「クッ、このガキ!舐めやがってッ!!!」
「鎖鎌は初めてかも……でも全然、対応できるッ!」
「は、速ぇ、速すぎる……!グァッ」
3人の攻撃の隙間を縫って、ラムダの鋭い蹴りが次々にクリーンヒットする。
彼女より遥かにガタイがいいはずの男たちが軽々と吹っ飛ばされる光景はこの場にいる多くの人間にとって予想外であっただろう。
「ケヒェヒェッ!貰ったァ!!!」
3人の連携攻撃の相手している隙にこっそり後ろに回り込んだ山賊の一人がラムダの背後から不意打ちを仕掛ける。
それを彼女は即座に【氷壁】で地面から氷の壁を生やし対応する。
急に現れた硬い壁に顔面を打ち付けた山賊はそのまま気絶し地べたに伏してしまう。
「はぁ……いいですか?!『不意打ちをするなら成功するまで気配を殺す』ですよ!」
余裕が出来たのか、不意打ちに失敗し気絶した山賊に説教をするラムダ。
もちろん気絶しているのでそのアドバイスは彼に届いてはいない。
残るは首領を含め4人、しかしこの状況でもまだヘラヘラと笑みを浮かべる山賊たち。
「ヘッヘッヘ、やるじゃあねえか嬢ちゃん……俺様がサシで直々に相手してやるとするか」
首をコキコキと慣らしながら、山賊の首領はラムダの元へ歩み寄る。
残りの3人は装備から察するに後衛職の魔術師だろう。
差し詰め、タイマンと見せかけて後ろから援護射撃の不意打ちが狙いのはずだ。
それはラムダも予想はついているはず。
「てっきり、ビビって尻尾巻いて逃げ出すかと思いました」
「ほ、ほぉ……デケェ口叩くじゃねえか……」
ラムダの不敵な挑発に首領はビキッと青筋を立てる。
鼻息はすでに荒く、なんとか冷静に言葉を返そうと必死な様子だ。
「私のような小娘に負けてもママに泣き付かないでくださいね」
「ッ〜〜〜〜!ママは関係ねえだろうがァ!!!!」
どうやら首領の逆鱗に触れたらしく、猪突猛進に突っ込んでくる。
慌てて後ろにいる手下の魔術師たちは彼に大量の身体強化の魔術をかける。
「【増強】!」「【鉄肌】!」「【追風】!」
「へッ!どんな手品か知らんがこれで嬢ちゃん以上に速くて硬くて強くなったぜ!!!オラァ!!!!」
身体強化盛り盛りの首領の右ストレートがラムダめがけ飛んでいく。
風を切るその拳は周囲の木々を揺らし、木の葉が舞い落ちる。
「うわぁ、すごいですね……確かに下っ端の方々よりも、ちょっと速いです!すごい!これならママにも褒めてもらえますね!」
「ッ〜〜〜〜〜〜!!!!」
身体を傾けて避けたラムダが小さな拍手をしながら首領の拳を褒めたたえる。
彼女がカウンターで入れた口撃に首領の血管はブチ切れ、顔は赤い闘気に包まれたラムダ以上に真っ赤になっている。
「……はは、確かに『盤外戦術も有効だよ』とは教えたけどさ」
ラムダの容赦ない挑発を見て思わず俺も苦笑いする。
それだけ、彼女も山賊らが俺のことを侮っていたことが許せなかったのだろう。
「さてと……」
ラムダは首領に背を向け、彼の伸びきった腕を肩の上に担ぐように持つ。
首領はそれをなんとか振り解こうとするものの、彼女の肩の上に固定されてしまったのかと感じさせるほどにビクともしない。
「私の固有魔術【勅命:勇者変化】は一時的にだけどその身体能力を『勇者』と同等のレベルに引き上げます」
そのまま彼女は肩に担いだ彼の腕を前へと振りかぶる。
圧倒的な体格差をものともせずに背負い投げに成功し、首領はそのまま地面に叩きつけられ、気絶する。
「つまり、貴方がどれだけ身体強化をしたところで『勇者』に勝てないように、私にも勝てませんよ……ということです」
首領を投げた手を軽くパンパンと叩き、一仕事終えたラムダは残りの3人の手下たちに視線を向ける。
「どうします、まだやりますか?」
その言葉を聞いた手下たちは一目散に逃走を始める。
効果時間の限界を悟った彼女は「まだ戦える」というブラフで残りの3人を対処することにしたのだろう。
ちょうど視界から見えなくなったと同時に糸がぷつりと切れたように彼女が倒れる
いつものようにそのまま地面に衝突する前に俺が転移してキャッチする。
「ありがとうメルク……その、どうでしたか……?」
「うん!修行の成果が出てたね、固有魔術の発動時間も3分は使えるようになってたし!」
「なら、よかった……」
俺の評価を聞いたラムダは安心したのか、そのままスースーと寝息を立てはじめた。
そんな彼女をゆっくり静かに馬車の座席まで運び、しばらく休憩してもらう。
その後、辺りで気絶している山賊共は俺と御者でまとめて縛り上げ、近くの王国兵士の詰所に転送しておいた。
気を取り直して馬車を進めること2時間後。
「あれが学園都市ルーツポリス、か」
海にぐるりと囲まれた離小島、年に一度この時期だけ潮が引き現れる陸続きの道には同じく新入生を乗せた馬車が何台も走っている。
島からニョキニョキと生える4つのダンジョンが異様な存在感を放っていた。
聞くところによると、授業や研究に使用されるのは低い階層のみで、未だ攻略されていないらしい。
やはりダンジョンを見ると、それも未だ踏破されていないと聞くとワクワクしてしまうのは冒険者の性なのだろう。
いよいよ、学園都市での生活が幕を開ける。
略して「しかくまる」です
異世界学園バトルもの書こうとしたら学園にたどり着くのにかなりの話数を使ってしまいました……
次の話からようやく学園編です!!!(生徒会に入るのはまだまだ先になりそうです……)
ちょっとでも「面白そう」「続きが気になる」と思ってくれればありがたいです!
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