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07 超短期集中レッスン修了

「ええっと、【勅命(オーダー)】!……メルクこれでいい?」


ラムダは困惑気味ながらも自分自身に【勅命】を発動する。

彼女の全身が赤みを帯びた光に包まれる。


「それで例えば、そうだな……『勇者みたいに戦え』って命令してみたらどうなるかな?」

「『勇者みたいに戦え』……ですか?」


彼女がそう発した瞬間、全身を覆う赤い光が呼応するように輝きを強める。


「え、えぇ!すごい!……なんかとてつもない力を感じます!!!」

「よし、じゃあそのまま試運転をかねて俺と組み手してみるか」

「は、はい!」


実際に手合わせしてみると、身体能力はこれまでの彼女のそれとは比べ物にならないくらい向上していた。

彼女の拳を避けるために転移術を使わざるを得ないタイミングもあった。

つまりラムダは彼女自身の命令通り、勇者に負けず劣らずの体術を見せた。


手合わせしてからの1分間限定ではあるが。


「うげっ、速すぎだろッ!」

「えいッ!」


ブォン、と空を切る彼女の正拳突きをギリギリのところで身を捩って避ける。


「フッフッフ……ついにメルクから一本取る日がきたようですね……」


ラムダは勝ちを掴み取れそうな手応えを感じ、不敵な笑みを浮かべる。

と同時に、彼女が纏う赤い光がプスプスッ、と不規則に点滅を始め、やがて完全にその輝きは失われてしまった。


「あれ、力が急に抜けて……」

「……やっぱり魔力燃費が悪いか」


術の反動からかバタン、とラムダは倒れ込む。

俺は彼女の近くに転移し、地面に衝突する前にキャッチする。


「うぅ……身体がどこも動かないです……」

「魔術で自分自身を操り人形にして無理やり理想的な動きを再現していたんだ、そりゃ魔力も使うし筋肉も対応しきれないだろうな」


ともかく、体力も魔力も尽き果てたラムダをおんぶして、組合のラウンジに連れて行く。

ラウンジの一角、フカフカのソファをお借りして、疲弊した彼女に横になるよう促す。

精根尽き果てた彼女はバタンと倒れ、すぐにスヤスヤと寝息を立てる。


俺もソファに腰掛け、一息つく。


おそらく、ラムダの【勅命】の効果は()()()()といったところだろうか。

今回、彼女は自分のイメージする「勇者」の動きを自分の身体で再現するよう魔術で膂力や瞬発力を向上させていたのだろう。身体強化系の固有魔術としてもかなり強い部類だし、自分に何を命令するかによって効果が変わるのであればかなり応用も効きそうだ。


そんなことを考えていると、入り口から3人組の冒険者が真っ直ぐ俺に向かってくる。

先頭に立つ大柄な冒険者はその顔にニタニタとした笑みを貼り付けている。


「おぅおぅ、いつからここは冒険者じゃねえガキも使えるようになったんだぁ?元冒険者のメルクリウス・クロンダイクさんよぉ……」

「そこの席は俺たち『ケルベロス』の指定席なんだな!親分に席を譲るんだなーっ!」

「そこでオネンネしてるガキも冒険者じゃないようねぇ……とっとと失せなッ!」


戦士の男2人と女魔術師の3人がラウンジで休憩している俺たちに因縁をつけて絡んできた。

たしかに、彼らの言うことも一理あり、本来冒険者組合内のラウンジは基本的に関係者以外は使用できない。

今回は事前に組合長から許可を取っているので問題ないはずなのだが、どうやら周知されているわけではないようだ。


「一応、組合長に許可は取ってんだけどね……ま、お気に入りの場所ならどっか避けるよ」

「ケッ!ちょっと組合長に気に入られているからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」


ドンッ!と壁に拳を叩きつけ、パーティのリーダーと思しき大男は怒りをあらわにし、俺にメンチを切る。

俺に対して「自分よりも弱そうなガキなのに自分より高ランクの冒険者なのはおかしい」と不満を持ち、このような行動に移る冒険者は現役時代でもごく稀にいた。

俺一人なら売られた喧嘩は買っていたところだったが、師匠として、紳士として、疲弊し寝ているラムダを巻き込みたいとは思わない。

ここはなんとかして穏便に済ませたいところだ。


「まあまあ、落ち着いて……ね?ほら組合内での冒険者同士の争いごとは御法度のはずですよね?……」

「あぁ、そうだな……でもお前は冒険者じゃねえッ!」


そう言うと同時に彼は胸ぐらに掴みかかろうと腕を伸ばす。

しかし、彼の腕は俺まで届かず何者かによって遮られる。


「ってイテテテテテッ!!!な、なんだこの女ァ!」

「……師匠に気安く触れるな」


先ほどの壁を殴った音で目が覚めたのだろうか、ラムダが【勅命】の赤い光を身にまとって俺と大男の間に割り込む。

そして、自分よりも遥かに体格がいい彼の腕を、赤子の手をひねるように片手で持ち上げている。

さっきの訓練で体力も魔力も使い切ったはずの彼女のその目には冷たい炎のような、冷静な怒りが宿っていた。


ラムダに掴まれた大男の腕がミシミシと音を立てる。

振り解こうにもラムダの力が強すぎてびくともしない様子だ。


「お、親分!この女!親分から手を離しやがれ!」

「何すんだいこのガキ!大人しく寝てなッ!」


この状況を見かねて、もう一人の戦士が彼女の顔を殴ろうと手に持ったメイスを振りかぶる。

さらに女魔術師はラムダを狙って【火球(ファイヤボール)】の発動準備をする。


「【座標掌握:再配置(シャッフル)】っと……危ないな、お前ら」


俺はとっさにラムダと3人の冒険者の位置を変更する。


戦士の振りかぶったメイスはラムダと場所が入れ替わった女魔術師の顔面に直撃し、

女魔術師の放った【火球】はリーダーらしき戦士の顔にクリーンヒット、

そしてリーダーらしき戦士はラムダの腕を振り解こうとした勢いでメイスを持った戦士の顔面に裏拳を叩き込んでいた。


3人組は不意に起きた同士討ちでノックアウトとなり、そのままダウンしている。


「……はぁ、全くなんでお前らみたいなルールも守れないヤツらが資格を持ってて、俺の資格が剥奪されちゃうのかなぁ」

「全くもってその通りです、ね……」


俺の呟きにラムダは最後の力を振り絞り賛同の声を上げる。

そしてそのままパタンと力つき、倒れる。

それを俺は再びキャッチし、次はゆっくり休めるよう組合長室を借りて寝かせてもらった。

一連の騒動を組合長に報告すると申し訳なさそうに頭を下げていた。彼らの処分も考えておくとのことだ。


翌日、ラムダはすっかり体力も魔力も回復していた。

なので強力な【勅命】状態での戦闘時間を伸ばせるようにと筋トレやランニング、瞑想などをその日から毎日毎日欠かさず、そして定期的な組み手で成長度合いを確かめること3週間。


人間がたったの1ヶ月で到達できる極地までラムダを鍛え上げることに俺は成功した。と思っている。


根拠はない。


だけど、俺が今まで相手にしてきた冒険者や無法者、モンスターなどと比較した手応え的には、同年代の冒険者の卵の中で五本の指に入る強さを持っているだろう。


ちなみに後日、聞いた話によると俺とラムダに突っかかってきた冒険者ご一行は更生を兼ねて、しばらく監督官付きで辺境の村の警備を言い渡されたらしい。


略して「しかくまる」です


ちょっとでも「面白そう」「続きが気になる」と思ってくれればありがたいです!


さらにブックマークとか評価、コメントなんかしてくれると泣いて喜びます!

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