04 勇者になりたい姫
資格剥奪が言い渡されてから一週間後。
組合長のジンからの呼び出しに応じて、俺は再び組合長室に足を運んだ。
「さてメルク、良い知らせと悪い知らせがあるんじゃが……どっちから聞きたいかの?」
「えーっと、じゃあ良い方からで」
「……話の順番的に悪い知らせからの方が良さそうじゃから、先に悪い方を話すとするかのぉ」
「じゃあ聞かないでくださいよ!」
良いニュース悪いニュースの二択を提示したかっただけの組合長に思わずツッコミを入れる。
「悪い知らせは『冒険者学園はメルクリウス・クロンダイクの入学を許可できない』と学園側から断られたということじゃ」
「さ、最悪じゃないですか……」
頼みの綱であった「学園での資格再取得計画」がプツンと切れる音がして、俺はガックリ肩を落とす。
その様子を見た組合長は「まあ待て待て」と落ち込むのはまだ早いと制す。
「良い知らせもあると言ったじゃろうに……」
「そうでした、それで良い知らせっていうのは?」
「……コホン、姫様、どうぞお入りください」
組合長の言葉に応じ、一人の少女がドアを開けて部屋に入ってくる。
上品ながらも派手すぎないドレス、そのドレス越しからでもわかるほどの大きな胸、美しい栗色のセミロング。それはあの日の護衛対象であった姫様、ラムダ・キュリー・イクシーズの姿だった。
「え、姫様……がどうしてこんな場所に?」
「勇者メルクリウス様、先日は私の命を救ってくださいまして誠にありがとうございます」
「あ、いやまあ仕事ですから……それに今の俺はもう勇者じゃないので……ただのメルクとお呼びください」
「その件につきましても私の叔父上がご迷惑をおかけいたしました……それと私のこともただのラムダとお呼びください」
「いやいや、そういうわけには……」
「いえいえ、貴方は私の命の恩人でして……」
「とはいえ、この国のお姫様にそのような口は……」
無限ループになりかけたやりとりを組合長が断ち切る。
「ンンッ、それでじゃメルクよ……良いニュースというのはじゃ、ズバリ『姫の護衛兼学友としてなら入学できる』ということじゃ!」
「コホン、その通りです!実は私、かねてより冒険者に憧れを抱いておりまして……この春からルーツポリスの冒険者学園の生徒になるのです!」
ジャジャーン、という効果音がつきそうなほどに姫は両腕を広げて喜びをアピールする。
その後、すぐに恥ずかしさの波が押し寄せたのか広げた両手はスッと閉じ、モジモジしながら言葉を続ける。
「一週間前、メルクリウス様が私の護衛の一件で冒険者の資格を失った、と聞きました」
どうやら、資格剥奪の一件は姫の元にも届いていたらしい。
「そこでなんとかお力になれないかとこちらのリッキーバック組合長にお話を伺ったところ、メルクリウス様も冒険者学園の入学を考えているとお聞きしまして……」
組合長が「どうじゃ」と言わんばかりのウインク(できていない)をしてくる。
「あやつの根回しで『メルクリウス・クロンダイク』の名では入学できないようになっていたんだがのぉ……学園側も一枚岩ではないようでな、ワシが学園長から姫様の護衛の一人として別名義で変装して身バレしなけりゃ大丈夫とお墨付きを貰っといたんじゃ」
どうやら組合長は俺のために学園長に直接かけあったりと色々と奔走してくれたようだ。
少し抜けてる、というかお茶目なおじいちゃんのように見えるが、冒険者時代の武勇伝や冒険者組合の長の働きをみるに、確かにキレ物であることを思い知らされる。
「待て待て、お姫様が冒険者になるなんて聞いたことがない、というかそれは許可出てるのか?」
つい最近、王族関連で痛い目を見た俺は念のため確認する。
すると姫は照れ隠しで笑いながら質問に回答してくれた。
「お恥ずかしながら、私の王位継承順位は11位なので王としては期待されていないというか……『冒険者になりたい』という願いもあっさり通ってしましました……多分冒険者組合とのコネクションという意味もあるのだとは思いますけど……で、でも!本気で冒険者になりたいと思ってるんです、私!」
下を向いていた彼女は急に俺に向き直り、グイと一歩近く。
「……小さな頃から宮仕えの吟遊詩人に英雄譚を何度も、何度もおねだりして……『いつか絶対冒険者になってダンジョンに潜って未知の光景を仲間と共有したり国の窮地を救ったりするんだ!』って、気がついたらそれが私の夢になってました」
姫は真剣な表情で冒険者の夢を語る、そこには先ほどの照れや恥じらいの感情は一切感じられなかった。
「教養としての魔術や武芸についての知識は一通り王宮で身につけたものの、実戦経験は全くなくて……でも冒険者になるからにはその、勇者を目指したい!って思ってて……」
と、思いきや急に自信なさげにシュンと縮こまる。
この空間は夢を叶えたい気持ちで溢れる姫の独壇場となっていた。
「よろしければ元勇者のメルクリウス様……いえ、メルクと共に学園で冒険者としての指導を受けられればと思いまして……どうかお願いします!私を勇者にしてください!」
お姫様はそういうと俺の目を真っ直ぐ見つめた後、深々と頭を下げた。
その目はかつて俺が師匠に弟子入りした時と同じ目をしていた、ように思えた。
だからこそ、俺は断らない、断れるわけがない。
同じく勇者に憧れた人間が目の前にいて、今の俺にはそれを導く力がある。
「わかった姫様、いやラムダ……そのお願い、受けるよ」
「ーーッ……あ、ありがとうございます!」
「でもビシバシいくからね、それこそ姫とか関係なしにね」
「は、はいッ……お、押忍!」
そして俺とラムダは握手を交わす。
こうして俺は冒険者の資格を取り戻すために……
ラムダは冒険者の資格を得るために……
共に学園都市ルーツポリスで学園生活を送ることとなった。
略して「しかくまる」です
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