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公園の木

 あなたはきっと、ただ優しかったのです。少しの好奇心とその優しさで私を救おうとしたのでしょう。


 私は償えきれない罪を犯しました。手を差し伸べてくれたのに、その手を引っ張り身代わりに、無邪気なあなたを地獄に落としてしまいました。


 やりきれなかったことでしょう。

 なぜ自分がこんな死に方をしなければならぬのか、神に見捨てられたのかと絶望に絶望を重ねたのだと思います。

 恨み言ひとつ言えぬまま、その死さえ誰に気づかれることもできなかったのだから。

 形容し難いほどに、私を恨んだことでしょう。


 私は後悔するしかなかったのです。ただひたすら後悔して生き続けるのが私の唯一の償いにも及ばぬ足掻きなのです。

 だからせめて、私は耳を澄まし続けます。あなたがいつか神様に愛されて、私に恨み言を言える日が来たら今度こそ、あなたの声を聞くために。

 


 泣いてばかりいた。


 毎日毎日、胸元のシャツを力一杯握りしめ、歯を食いしばりお腹に力を入れ膝を抱える


 うー、と喉の奥からこもった音が漏れる。


 ふとんを頭からかぶり、目をギュッとつぶる。

 明日が来なければいい、今日寝てしまったら、もう2度と目が覚めるな。


 もう要らない。明日なんていらない。


 その願いが叶わないことは知っていた。

 だって毎日、同じことを願っているのだから。


 薄っぺらい布団に顔を押しつけて、なぜこの息は止まらないのだろう、なぜこの心臓は止まってくれないのだろう、私にくっついているくせに、と暗闇に問う。


 私の胸の中には重くて固くて黒いモヤを纏ったような塊があるのに、それを取り除くことは叶わない。


 声にならない叫びともにこみ上げる涙は、私をこの世に繋ぎ止める最後の糸だった。


 ピッピッピッピッピピピピピ…


 いつもの機械音がいつものリズムを淡々と刻み、なんとも不快なその音で目を覚ます。

 数秒しか経っていないのではないだろうか、そう思ってもデジタル時計はきちんと7:00を表示し、カーテンの隙間からは絶望の光が部屋に入り込んでいる。


 明日に抵抗したくて、毎夜午前3時まで起きるのだが、結局朝はやってくる。


 でも起きてしまったのなら仕方ない。これは抵抗虚しく目を覚ましてしまった私への罰。生きているなら生命活動に必要な事項をこなさなくてはならないのだから。


 私は頭のてっぺんから上にすり抜ける意識をする。そうして自分自身の身体から距離を取り、行動する役と天井から行動を見守る役の2つに自分を分けるのであった。


 見守る私はただ見ていれば良い。


 あとは行動する私が全てを済ませる。肉体を会社まで運び、罵声を受けて体か心か分からぬ傷も受けて、そして夜中には満身創痍の身体を家まで届ける。


 届けられた身体に見守る私がスッと入ると、今日一日の生命活動の終わりというわけだ。


 そして昼間は行動する私が代わりに受けていた痛みという痛みを一身に受けるのである。


 体も心も重すぎて、こんなことをしてまで私は一体どうして生きているのか、全くわからない。


 わからないよ。


 そうしてまた泣くのも、生命活動の一部なのか。

 明日に糸を繋げなきゃ。糸を紡ぐのを忘れてしまったら、私は消えてしまう。


 いつかいざ終わらせたくなった時のために、と人目につかず誰にも邪魔されなさそうな木をまるで徘徊しているかのようにフラフラと探す。



 その途中、人気のない公園が目に入った。

 こんなところに公園なんてあったっけ。あぁいつもボーッとしている私だから気がつかなかったのか、と黄色いペンキが所々剥がれた金属のアーチを跨いで中に入る。


 大きく長い滑り台や列車をモチーフにした遊具などが豊富に置かれているにもかかわらず、子供が誰1人としていない。


 その光景の、なんと寂しいことだろう。

 子供のために作られた罪のない公園。

 忘れられたか子供が減ったか、その役目を果たせない公園…。


 そんな哀しい公園のど真ん中に、明らかに高齢の大木が1人踏ん張って立っていた。


 木の成長など微塵も知識のない私だが、その木の太さから見ても樹齢何百年は経っているだろうと予想できる。


 良い木があると思ったが、大木が故に分枝の1番背丈の低いものでさえ梯子を使わなければ届かない位置にある。


 ここは私の求める場所ではない、と踵を返す。


 その時、風が強く私に体当たりするかのようにして吹き、同時に耳の中にハッキリと声が響いた。


「君はそんなになにに傷ついているの?」


続きます。

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