表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 夏野イルカ
1/1

裕一郎

その日は突然やってきた。


長瀬智也似の男と連絡を取り始めて

一週間ちょっと。


いつものように学校へ行く仕度をしてしていると、鏡ごしにケータイが震えた。


「今日会わない?」


予想にもしていなかった言葉に、

私の心臓は一気に高鳴った。


もちろん学校が終わってからの話だろうと思ったが、私の門限は19時だ。


「いつ?」


と、返事を送ったものの、いくら頭をひねっても、休日でもないのに会える時間を算出できない。

せっかくの誘い、会いたいのに断らなければならないのかと思うと、居ても立っても居られなかった。


数分後にケータイが震えた。


「今日学校さぼれる?」


一瞬、脳がフリーズした。


こんなに短い言葉なのに、体に浸透して意味を理解するまで数分を要し、何度も読み返した。


私は親に反抗的で、決して優等生ではないのだが、流石に学校をサボり初対面の男に会いに行くなど今まで経験がない。


不安要素がありすぎる。

もしバレたら、勘当されるだろう。


しかし、、とも思った。

親は親だが、もはや今となっては家族の意味をなしていない。


私が嫌だと思うことを両親だって今まで散々してきた。

すでに和解している状況であれば私が出す答えも変わっていたのだろうが、和解どころか悪化の一途をたどっている。


私だって少しくらい、自分の好きにしていいじゃないか。


10代そこらの考えだ。

目先の楽しみを選ばずして、何をしよう。


私は気持ちが変わる前に勢いのまま、一気にケータイのボタンを乱打つし、送信した。


「いいよ!どこで会う?」



不安と興奮と相反する気持ちを胸にしまいこみ、半ば蒼白状態で気付いた時には電車に乗っていた。


当たり前だが、学校に行くていで家を出たのだ。


作戦はこうだ。

裕一郎が父親のふりをして学校に電話をする。


風邪のため、娘は休ませますと。


なんと薄っぺらい作戦だろう。


もはやバレるかどうかは問題ではなかった。

それよりも、写真を一目見た瞬間から焦がれた男性を遂にこの目で、近くで、感じることができるのだ。


会えることにドキドキしているのか、

学校をサボったからドキドキしているのか

最早分からなかった。


待ち合わせの駅にたどり着くまで、生きた心地はしなかった。



改札を出て、指定の場所まで歩く。

待ち合わせの時間まであともう少し。

あまりキョロキョロすると、万が一探している姿を見られたら恥ずかしいのでケータイのディスプレイの時計ばかりを確認した。


メール受信


「見つけた」


私は制服だったことをすっかり忘れていた。



顔を見上げた瞬間、遠目でも彼だと気づいた。芸能人に会ったらこんな感覚なのかもしれない。


彼は背が高く、髪が少し長めでオーラがあった。

いや、私にはそう見えただけかもしれない。


「はじめまして」


あんなにメールでやり取りをして親密になったはずなのに、やはり実際に会うとなれば一気に初対面の雰囲気になる。


「美希ちゃんだね」


彼はそう言って、優しく笑った。


その時に交わした会話は、正直緊張で何一つ覚えていない。

ただ、制服姿の私が、学生であれば登校しているはずの時間にうろついていては目立つので、一人暮らしをしている彼の家に行こうと決まり、歩き出したことは覚えている。


かなりリスキーな行動だが、彼の優しい笑顔と雰囲気に警戒心など皆無だった。



彼の家はなんの変哲もない少し広めのマンションだった。

今でさえ真相は分からずじまいだが、彼は歯医者の息子で自身も歯科大の学生だと言った。


初めて会う男女には、話すことがたくさんあり会話のネタには困らない。

私たちはタバコを吸いながらたくさん話した。


最初は離れて座っていたが、

次第に距離が近くなり、キスをした。


子供の私には未経験の甘いキスから始まり、

長く長いとろけそうなキスへと変わった。


このままでは一線を超えてしまう。


大人の今でなら状況は理解できる。

男が女を部屋に誘い、しかも出会い系サイトで知り合う男ならなおさら体目的だろう。


しかし、ここまで来てそれだけは避けたかった。


一回体を優しく離して、

飲み物が欲しい、そう言った。



彼は立ち上がり、冷蔵庫に向かう。

怒らせたかな?と思ったが、振り向いた彼の顔を見て安心した。


空気が少し変わったところで、私はケータイを確認した。


メール5件

着信10件


マナーモードにしていたのですぐに気がつかなかったが、その相手はなんとなく想像ができた。


学校への電話は、彼に会いに電車へ向かっている時点で彼が済ませておいてくれたのだが、


「学校に電話しておいたよ。

分かりましたと言われたから大丈夫だ。」


その言葉にうまくいったと思っていたのだ。



「ごめんね!ケータイ見ていい?」

私は少し震えながらそう言った。


彼は笑いながら、もちろんいいよと答えた。


見たくはないが、どこかで友達かもしれないと期待を込めてケータイを開いた。


学校でも仲のいい、あかりからのメールだった。


「今日休みになったんだ?寂しい〜!!」


次のメールを開くと、、


「なんで電話に出ない?お前、帰ってきたらぶっ殺す。」


予想外の、兄からのメールと電話だった。


母からの連絡はない。

おそらく母が兄に話し、兄が連絡をしてきているのだ。


楽しい時間が一気に地獄へと変わった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ