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王都には行きたくない2

08

 うん、やっぱマッセなんて名前は記憶にない。

 それにしてもリオンから領地を奪おうってどんな馬鹿だ?

 それにしても占領か侵略か、どちらにしろリサの考えていた通り、信頼出来ないような相手に話すわけにはいかないな。

 下手な話の広がり方をすれば、無駄な混乱が起きたり、リオンの統治能力が疑われたりしてしまう。


「マッセ……マッセ……たしか帝国の子爵にそんな名前があった気がするが……従士リサ、君の目から見てその男は本当に貴族だと思えるのかね?」

「はっ! 言っていることは問題ですが、動作には最低限の品がありました。率いている者たちの装備は野党や傭兵のものより質が良く、家紋らしい装飾もあるようでしたので、おそらくは貴族だと思われます」


 うわぁ……超面倒くさい問題じゃん。

 対処させられるやつが可哀想だ。


「なるほど。そうすると、問題は……そのマッセ子爵とやらはまだリッタナにいるのかね?」

「私が村を立つまでは、間違いなく」


 じゃあ、まだいるか? いないとしても、それほど遠くまでは行っていないだろう。

 リッタナ村からこの街まで100キロと少しくらいだったはずだから、従士として鍛えている彼女なら魔法の補助などを含めて3、4時間ってところか。

 自分の領地にするなんて宣言したんだから、占領を続けてるだろうな。


「急いだ方がいいな」

「だろうな」

「では、頼んだ」

「はい?」


 なにを?

 はは、まさか部下でもないこの俺にそんな面倒なことをやれなんて言うわけないよな?」


「言うさ。こういう時のためにお前を家においているんだ」

「ヤダよ。と言うか、心の声を読むなよ」

「声に出していたぞ?」

「……マジかぁ」


 また心の声が漏れ出てしまったか。裏表がなくて、隠し事をしない性格の自分が恨めしいぜ。


「なんで俺?」

「まず、早さ。お前ならば、即座にこの問題に対処できる。次に安価であること。敵は複数いるのだからこちらも兵を集めなくてはならないが、複数の兵を動かせばそれだけ多くの金が掛かる。そして、なにより帝国貴族が相手とするなら、お前ならば上手く事を収められるだろう?」


 早い安い上手いって俺は牛丼かなにかですか?

 いや、最後は字が違うけどさ。


「とりあえず断――」

「断るなよ? 断ったりすれば、私はお前の身柄を王家に預けなくてはいけなくなる」

「――る。っておい!? マジか!? お前それ本気で言ってんの!?」


 王家に俺を差し出すって言うのか!?

 たかが戦争に発展しかねない問題を解決するために親友を売るって言うのか!?

 そんなことをされたら、馬鹿な貴族を片付けるよりもはるかに面倒になる未来しか待ち受けていないじゃないか!

 そんなことを本気でやるって言うのか!?


「当たり前だろう?」

「ったく……あぁもう……最悪だ。わかったよちくしょうめ。方向は?」

「一応、最初は話し合え。おそらく無駄だろうがな」

「りょーかい。話してダメだったらテキトーに片付けるよ」


 面倒くさいことこの上ない。

 だがしかし、俺の日々の安寧のためにこの仕事はきちんとやり遂げなくてはならない。

 面倒くさいけど。


「あ~、めんど……ま、やるしかないならやりますよ~。さて、リサちゃんや行きますよ」

「ま、待て! 伯爵様、こんな男が本当に役に立つのですか?」

「なにを~!? こう見えても俺は一級冒険者なんだぞ」

「い、一級!?」

「Cクラスだがな」

「おまっ! それを言うなよ」

「Cクラス……」


 ほら。Cクラスって聞いたとたんにリサが俺を見る目がゴミを見るような目に変わったよ。

 うん。俺知ってる。

 こういう目をするやつって、Cクラス冒険者のことを腰抜けとか言って馬鹿にするんだ。


「しかし、その男が今回の問題をすべて解決することは保証しよう。そろそろ行きたまえ。っと、そうだカイ」

「ん?」

「お前の頭に乗っているそれは何だ?」


 え、今更?


「ドラゴンの赤ん坊」

「は? ドラゴ……え?」

「なるほど。この街に危険はあるか?」


 あ~あ~、リサは意味が分からなくて思考が止まったな。

 リオンの方はさすがと言うべきか、至って普通に反応してるし。


「いや、親に頼まれて面倒見ることになったから、こいつを意味もなく傷つけでもしなければ問題はないんじゃないのか?」

「わかった」


 無駄な説明とかしなくて済むから、こう言う時は信頼って奴がありがたく感じる。

 その信頼のおかげで七面倒なことまでやらされるんだけど。


「ほれ、行くぞ~」


 未だに混乱しているリサを押して歩を進ませる。

 さっさと行かないと暗くなる前に出発できないぞ?




「い、今から行くのか!? 夜の移動はさすがに危険が!?」

「大丈夫大丈夫、気にしない気にしない」


 門のすぐ側に来てまで渋るなよ。

 抵抗しないでさっさと出発させてくれ。


「って、ここは北門だろう。リッタナ村は西だぞ!?」

「俺の馬が預けてあるんだよ。普段は北の森にしか行かないから、ここに預けっぱなしだ」


 いろいろな方角へ行くならば、自分の家や宿の厩舎に入れるが、俺のように基本的に1つの方角へしか行かない場合、門の近くにある厩舎へ預ける方が楽なのだ。


「北の森? 北にある森なんて、深淵の森だけだろう? Cクラスがあんな場所に行っているというのか!? 馬鹿も休み休み言え」

「まぁ、Cクラスでも一級だからな? お前の考えてるCクラスと同じに考えないでくれ。おっちゃん、悪いけどまた出すわ」

「おんやカイトじゃねぇか。出不精のお前が一日に三度も出かけるのか? 珍しいこともあったもんだ」


 うっさいわ。俺だって家でのんびりしてたいよ。

 おっちゃんはカラカラと笑いながら、奥からシシカを引いてくる。


「え、エビルホース……」


 なんか、リサがシシカを見てビビってる。

 それもそうか、普通ならエビルホースなんて魔物はそうそうお目にかかれない。

 稀少な上に危険な魔物で、戦闘力という観点で見れば、冒険者3人を一方的に殺して見せた猪頭を瞬殺できるほどの力を持っていて、普通の人間なら出会ったら即座に死を覚悟するレベルの魔物だ。


「おし、んじゃ行くぞ」

「わ、私も乗るのか?」

「そりゃ、俺だけ先に行くわけにも行かないからな」


 だから、そんな絶望したような顔しないでくれ。


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