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2話 王都には行きたくない1

07

 糞蜥蜴野郎、もといエルンストから正式にドラゴンベイビーを預けられることとなり、エリスから依頼された件は一応の片が付いたので街へと戻ってきた。が、エルンストが食費代わりの宝物類を持ってくるまで結構な時間が掛かったので、ずいぶんと遅い時間になってしまった。

 すっかり日も傾いた夕暮れ時なので、街中は仕事を終えた職人やら何やらで人通りが多い。

 人通りが多いと言うことは、当然のことながらドラゴンを頭に乗せた俺への注目が集まるわけだ。

 ドラゴンの赤ん坊なんてものを頭に乗せている人間が歩いていたら、普通ならパニックを起こすだろう。だが、幸いというか何というか、そんな俺が歩いていてもパニックは起きていない。

 だいたいの反応は、一瞬こっちを見て、二度見して、三度見して、頭に乗ってるのがドラゴンと分かって一瞬慌てて、ドラゴン乗せてる頭が俺の頭だとわかって慌てる必要がなさそうだと安心する。

 これでも俺は、街の有名人だ。主に面倒くさがりでトラブルを回避しようと動いていることに関してな。

 その俺がトラブルの塊にしかならなそうなドラゴンを頭に乗せてるのは、きっと問題がないからだろうと誰もが分かってくれる。

 問題があった場合は領主が俺を街から追い出すってのもわかってるからだろうな。

 まぁ、パニくってはいないが、注目はされているわけで、どうにも視線が痛い。

 ギルドに報告するのは明日でいいか……

 ギルドも混んでる時間帯だし、今日はもう疲れた。さっさと寝たい。


「およ?」


 中央市場を抜け、街の中心にある我が家――もとい領主館が見えてくると、どうにも正門の辺りで騒ぎが起きているようだ。

 いや、騒ぎってほど大したものでもなさそうだな。なんか、門の前で揉めてるとか、そんな程度の話だ。


「いいから領主様にお目通り願いたい!」

「だから、予定にない相手を用件も聞かずに通すわけにはいかないんだ。ただでさえ、日も暮れそうな時間なんだぞ? 急ぎなら理由をきちんと説明してくれ」


 なんか、汗だくの姉ちゃんが門番ジャンと押し問答してるな。

 長身で、服の上からでも引き締まっているのが分かる体。かと言って女性らしい膨らみがないかと言えば、そんなことはなく女性らしさに溢れている体つき。顔かたちも整っていて見るからにいい女だ。


「お疲れ~」


 ま、俺には関係ないけどね。

 女の方は無視してジャンに声をかけながら横を通り過ぎる。


「あ、カイトさん。お疲れ様です」

「おいちょっと待てっ! その弱そうな冒険者は通せて従士の私が通せないとはどういうことだ!?」


 弱そうって……

 まぁ、武器も持ってないし、意図してそう見せているんだから弱そうに見えてもしょうがない。

 と言うか、この姉ちゃん従士なの?

 従士と言えば、未来のエリート様だ。

 将来は騎士になって貴族の直下で働くのがほとんど決まっているのが、この世界における従士だ。


「弱っ!? お前、この方はなぁ!」

「おいジャン、それ以上言ったらお前だけ特製の訓練フルコース一ヶ月やらせるぞ?」

「失礼しました! カイトさんはただの弱そうな冒険者です!」

「よろしい。半月で勘弁してやろう」

「そんなぁ……」

「俺をディスる必要はなかったのにディスったお前が悪い」


 余計な一言が自分の首を絞めることを知っておくべきだったな。

 具体的に言うと、今日の俺が卵を再生させるなんて徒心を出さなければ、今頃自室でのんびり茶でも飲んでたはずなのに、余計なことをしたおかげで帰りがこんな時間になってしまったように!


「で、お姉さん。ここは俺の家だから、弱そうだろうが、薄汚れていようが俺が入れるのは当然なんだ」

「で、では、あなたが伯爵様ですか?」

「いや、違うよ」


 まさか伯爵リオンと間違えられるとは思わなかった。

 この姉ちゃんは、領主やってるようなお貴族様が冒険者の真似事をするとでも思ってるのかね?


「え? ですが、領主館ここが自分の家だと……」

「うん」


 だって、住んでるもん。


「それなのにあなたは伯爵様ではないと?」

「うん」


 まったくの別人だからな。


「では、あなたはいったい何者ですか?」

「そいつは、居候だ」


 それまで問いかけに答えていた俺の声とは明らかに違う声。

 足音も立てずに近づいてきて、インターセプトをかましてくれたのは、金髪碧眼の美丈夫――と言うか、リオンだ。

 それにしても居候とは失礼だな。きちんと食費は入れてるし、猪頭とかの一般的には高級食材って呼ばれる食材だって金も取らずに提供してるぞ?

 まぁ、家賃は払ってないけど。


「私が、リオン・ユルザー・フォン・カッツェ伯爵だ。君は?」

「し、失礼しました。わたくしは、リッタナ村に配された騎士シュルムの娘、従士リサと申します」


 慌てて膝をついた姉ちゃん――リサは緊張した面持ちで頭を下げる。

 と言うか――


「シュルムって、あの髭面禿げにこんな美人の娘いんの!? あのおっさんの要素どこにもないじゃん!?」


 シュルムと言えば、リオンが任じた騎士で筋骨隆々とした大男だ。顔は凶悪で、髭はじゃもじゃ。そのくせに頭はつるっ禿げと言う顔に生える毛の上下が間違っているおっさんだ。

 その娘だというのにリサはどうだ?

 女性にしては身長は高いが、細く引き締まった肉体だが出るところは出て女性らしさに溢れているし、顔つきだって熊かゴリラのようなおっさんとは似ても似つかないクール系の美形。

 厳ついおっさんの面影すべてを帳消しにしてなおこんな美人に出来る遺伝子って、嫁さんどんだけ美人なんだ?


「っぶ!」

「な!?」


 俺の言葉にリオンは吹き出し、リサは目を大きく見開きわなわなと震え出す。


「き、貴様! 冒険者風情が騎士である我が父を侮辱するのか!?」

「ま、まあ待て。くくく……そいつはシュルムとも知己がある男だ。侮辱の意図がないことは私が保証しよう」

「む……むぅ」


 上司の上司のそのまた上司くらいの相手にそう言われては引っ込まざるをえないので、リサは納得がいかないことを隠そうともしないが、引き下がる。

 いや、本当に侮辱したりしてないよ?

 ただ単に事実と俺の感想を率直に口にしただけなんだから。

 少なくとも俺とあのおっさんは、この程度のやりとりは笑って言えるぐらいの間柄だし。

 

「それで? 従士リサよ。ずいぶんと急いでいたようだが、何があったのかね?」

「ことを公にするには事が事ですので、内密に話をさせていただきたいのですが……」

「ここでかまわんよ。幸い、この時間はここを通る者はいない。そして、ここにいるジャンは後事を任せるに値する部下の1人だし、私が知ることが出来る話であればこいつも同様に知る権限を持っている」


 こいつ扱いは酷くないか?

 つか、中途半端な説明するなよ。

 明らかに冒険者風の男が伯爵並みの情報閲覧権を持っていることに意味が分からないって顔しているぞ?


「ですが……」

「分からないかね? 私はここで話せと言っているんだ」

「し、失礼しました。……昼を過ぎた頃、リッタナ村をマッセ子爵と名乗る男と一団が訪れ、この村を自分の領地にすると宣言しました」

「はい?」

「なんだと?」


 誰だよマッセ子爵って……


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