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ドラゴンの卵6

06

 対応見るために軽く挑発してみたけど、謝罪までされちゃいましたよ?

 ドラゴンは、卵盗まれたらキレて暴れ回るんじゃなかったのか?


『それで、貴様はそのの親を探していたと?』

「ええまぁ。さすがにどこにいるか分からないのに竜の山を探すのは面倒なんで、どうにかドラゴンとコネがありそうな知り合いに声かけてるところであなたが来た感じですね」

『なるほど』


 長い首を上下に揺らして――あれは、頷いてるのか?


『道理でそのが貴様になついているわけだ』

「寝てるだけなのに分かるんで?」


 と言うか、あれだけの風の中で起きる気配が微塵もないのは素直にすごいと思う。

 俺の頭の上で微動だにしなかったし。


『竜とは言え、幼子に力はない。魔力を感じ力を持ち、信頼できる相手が近くに居らねば眠ることもなかろうよ』

「はぁ……なるほど」


 俺の頭を気に入っていたと言うよりも、自分を守ってくれる相手の近くに居たいってことか。

 つまるところそれだけ信頼されていたわけだ。


『しかし、なるほどな。そのがなつくのも頷けるというものよ』


 あ、なんか喧嘩売られてる?

 すっげぇ首の後ろがチリチリするんだけど?


「こいつはあんたに返すから、喧嘩は勘弁して欲しいんですけど?」

『はっはっは。我に威圧されながらそこまで飄々としていられるのは大したものよ』


 威圧って言うか、完全に殺気だったよね?

 普通の人間だったら糞尿垂れ流しながら即座に気を失うレベルでしたよ?


「と言うか、こいつが俺の隠してる魔力を察知できたってことはあんたも俺とあんたの力の差ぐらいわかってんだろ?」

『力の差? 矮小な人族ごときの中ではそれなりの力を有していようが、所詮は人族。まさか、我と対等なつもりか?』


 あれ? え? マジで分かってないの?

 俺は、周囲への影響を考えて普段は魔力を隠している――というか、もうほとんど封印している。

 それでも、舐められない程度に残った魔力はそれでも人族では最強レベルなのは間違いないが、隠している分を含めれば誇張なしに世界最強レベルだ。

 目の前のドラゴンでも鼻歌交じりに殺せるぐらいの力を俺は持っている。


『っ!?』


 俺が普段隠している魔力をちょっとばかりの殺気と共に解放した瞬間、数十キロ先の木々まで揺れるほど森全体の生き物が俺を中心とする場所から距離を取ろうと逃げ出した。

 さすがはドラゴンだな。

 目の前に居ながら気を失わないなんて大したもんだ。


「わかった?」

『う、うむ……先ほどの言葉は訂正しよう』


 どうやら無事に力の差を理解できたようだ。


『まさか、貴様――いや、お主がカイトなのか?』

「ん? なんで俺の名前知ってんの?」

『やはりそうか……ガライアスの言っていた通り、常識外れにもほどがある……』


 ガライアスの知り合いなのか?

 類は友を呼ぶって言うし、まさかこの威圧感たっぷりのドラゴンも変態なのか?

 俺は後ろの貞操はなんとしても守り抜くぞ?


『そう言えば、我が子を保護してもらっておきながら名乗ってもいなかったな。我が名は竜を統べる王、黒雷のエルンストだ』

「チョコレート?」

『ちょこれ……なに?』


 いや、黒雷――つまりブラックなサンダーと言えば、チョコレートでしょ?


「まぁ、こっちの話だ。そうか、あんたが竜王だったのか」

『あの……もう少し驚いたりとか……ないのか?』

「ん? 驚いてる驚いてる。いやぁ、世の中狭いもんだな。まさか、知り合いの知り合いとこんな形で知り合うことになるとは思わなかったよ。本当に驚いた」

『いや……ちが……』

「ん? どしたん?」

『……なんでもない』


 なんか落ち込んでるな。

 まさか、竜王を名乗れば俺が驚くとでも思ったんだろうか?

 こちとら生まれ変わる時に神様に会ったことすらあるんだ。

 今更ドラゴンの王様ごときで驚く訳がないと言うものなのだから、そんなはずはあるまい。


「じゃ、お互いの名前も分かったことだし、さっさと用件を済ませよう。こいつをあんたに返せばいいんだろ?」

『あぁ……いや、出来ることならば頼みたいことがある』

「頼み?」

『うむ。おそらくだが、そのは我が親であることは理解できてもお主の側を離れたがらんだろう』

「なんで?」

『竜は幼いほど強さに敏感だ。間違いなくお主の本当の力を理解しているはずだ』

「ふむふむ」

『力がない間……特に生まれて間もない頃など、竜は本能的に最も安全な場所を寝床とする習性があるのだ』

「つまり、俺もベッドとしてついてこいと?」


 竜の山なんて宿屋も飯屋もなさそうなとこに行くの嫌だよ?


『いや。出来ることならば、そのを育ててやってはくれまいか?』

「はい?」


 なんで?


『1年もすればこの森で生きていける程度の力は得られるであろうから、冒険者とやらの役にも立つはずだ』

「いや、俺はCクラス冒険者だからドラゴンの力が必要な依頼とかないんで。と言うか、そもそもなんで俺に育てさせようとするわけ? 親なんだから自分で育てろよ」

『お主の存在を知ってしまった以上、そのはお主の側を離れようとはせん。無理に連れて行けば、お主を探して逃げだそうとするのは目に見えておる』

「だったら、最初から俺に預けてしまえと? それでいいのか? 自分の子どもが可愛くないのか?」


 親なら側にいたいと思うものだろうに。

 少なくとも、こうやって卵が奪われたから王でありながら、自分で探しに出るくらい愛情を持っているんだろう?

 見張りをする労力ぐらいその思いでどうにでもできそうなものだ。


『我は、子が最も幸せになる方法を選ぶのが愛情だと思う。そのにとっての幸せはお主の側にいることだろう』


 なるほど、そう言う理論か。


「話は分かった」

『うむ、では?』

「だが断る!」

『な、なぜだ!?』

「何故も何も、今日知り合ったばかりの相手に子どもの面倒見てくれって言う方がどうかしてるだろ? それに、見返りは? 俺の冒険者としての仕事に役立つってのを推してるみたいだけど、戦闘力って意味では俺がその気になりさえすれば何の問題もないんだぞ?」

『む、むぅ……』


 って言うか、めんどくさい。

 ペットを飼うって事は命を育てる責任を持つって事だ。

 生憎と俺にはそう言ったものを背負うのは、面倒って言う感情が先立ってしまう質なので、御免被る。


『気は進まぬが、ガライアスから聞いていた通りにする他ないようだ』

「ん? あの変態が何か言ってたのか?」

『うむ。お主に頼み事をする際、あらかじめ貸しを作っていない場合は、了承するまで考え得る最も面倒な状況に追い込む必要があるのだと……と言うことで、お主が了承せぬと言うのなら、お主が原因だと喧伝しながら目に入った人族の街を片っ端から襲っていこう。まぁさすがに人死にを出すのは本意ではないので、建物を壊す程度に留めるがな』

「おまっ!?」


 それってあれでしょ? お願いとか追い込むとかじゃなくて、ただの脅迫じゃね?


「ずいぶんと悪辣な迫り方だな」

『なに、ただそのを育てると一言言えばそのような真似はせんよ』


 俺は基本的には平和主義だ。

 喧嘩になれば、やられた方が――と言うか、ぶちのめした相手が何度も襲ってくるし、仲間を増やしたりもして、いつまでも追いかけられたりする。

 そんな面倒な状況にならないよう暴力での解決は避けている。

 モンスターはただの獣――むしろ害獣の類いなので狩ることに忌避感はないが、この糞蜥蜴野郎ドラゴンのように知性ある相手に対し、交渉の手段や相手の性格が気に入らないなどと言う理由で暴力を解決方法に用いるのは下策だ。

 つまり、この糞蜥蜴野郎がむかつく手段で脅迫してきたからと言って暴力を振るうようなことはしない。と言うか、その方法はあまり意味を成さない。

 さすがに、こんな下らない理由で殺すような真似はしたくないし、ただただ痛めつけるだけでは、傷を負ったままですら嫌がらせなんていくらでも出来るのだ。


「本当にムカつくな。と言うか、あの変態め。もう2つ3つ罰を追加してやる」

『どうするのだ?』

「わぁったよ。だけど、俺はドラゴンの育て方なんて知らないぞ?」

『側に置き、食事さえ与えればそれで構わん。それだけあれば竜は勝手に育つものだ』


 …………仙人掌サボテン


「食事って何食うんだ?」

『竜は人間と同じで雑食だ。お主と同じようなものを食べさせれば良い。人であれば死ぬような毒であっても、竜の身にはさしたる問題ではないから、勝手に何か食べようとしても慌てる必要はないだろうな』


 なるほど。

 それならそこまで面倒ってわけでもないか……


「了解……食事代はお前が出せよ? 親なんだから」

『うむ。しばし待て、いくつか宝物を渡そう』

「あいあい。んじゃ、よろしく……はぁ」


 糞蜥蜴野郎を見送ってため息をこぼす。

 面倒なことになってしまった。

 俺の知る限り、未だ曾てドラゴンを育てた人間は存在しない。

 とりあえず、リオンに話さないといけないか……

 なんでこうなってしまったんだか……はぁ。


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