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ドラゴンの卵5

05

 エリスからギルドを追い出されたせいで森に戻る羽目になってしまった。

 一度街に戻ってからその日のうちに再び外に出ることなんて今までに一度としてなかったことなので、顔なじみの門衛は大層驚いていたが、俺としても誠にもって遺憾なことだ。まぁ、自業自得の面がないとは言えないのでそれはしょうがない。

 さて、ギルドエリスから正式に対処を指示されてしまったので、ドラゴンベイビーをどうにかしないことには、街に戻ることも出来はしない。

 是非とも今日中になんとかしたいところだ。なにせ俺は、日帰りの仕事しかしてこなかったので冒険者でありながらテントや寝袋どころか、遭難や不測の事態へ備えるという冒険者なら常識的に持ち合わせる予備の食料すら持ち歩いていないのだ。

 戦時でもないのに飯も食わずマント一枚おっかぶって森の中で夜を明かすなんてことは勘弁して欲しい。


「問題は……こいつをどうするかだよなぁ……」


 問題のドラゴンベイビーは……なぜだか知らんが、俺の頭頂部を気に入ったようで、頭の上を陣取ってグースカ寝息を立てている。よだれを垂らしてないよな?

 この鼻提灯を大小させているドラゴンベイビーをどうするかの選択肢は主に2つ。

 放置するか親を探すか。

 自動的に前者は却下されるので、ほぼ一択だな。

 なにせ、放置なんてしようものならこいつ程度の戦闘力では一晩も持たずに死ぬ未来しか待ち受けていない。

 ドラゴンは魔力察知能力が高いので、そのうちこのドラゴンベイビーを見つけ出すのは間違いない。その時にこいつが死んでいれば、ただでさえ卵を盗まれて怒っているところへ火に油を注ぐどころではない怒りっぷりを見せるだろう。

 そうなれば、ここから最寄りの街――と言うか、国が滅びるようなレベルで暴れ回るのは想像に難くない。

 それが分かっているのだから、真面目に考えれば放置という選択は取れない。さすがの俺でもここでふざけるような真似はしない。まぁ、脳内での選択肢にあげるぐらいのおふざけはいいだろう。


「ふむ……」


 親を探すと言う選択しか取れないのならばそうすることもやぶさかではないものの、問題はさすがの俺でもドラゴンにコネがないことだ。

 これがただの貴族や王族、魔族であったのならばいくらでも選択肢は広がるが、生憎とドラゴンの知り合いは1人もいない。

 ……ん? 1人? 1匹? 1頭? 1羽? まぁ、なんでもいい。


「さてどうしたもんか……」


 どかりと地面に腰を下ろして思案する。

 何の当てもなくドラゴンの親を探すのは非常に面倒だ。

 なにせ、卵を盗んだ馬鹿共がだだっ広い竜の山のいったいどこで卵を盗んだのかまったく見当がつかない。

 当てもなく日本列島よりも広い竜の山を歩き回るなんて、何日かかるか分かったものじゃないような苦労は御免被る。

 ドラゴンの知り合いがいれば、ドラゴン同士の付き合いなどから卵を盗まれたドラゴンをみつけることを期待できるんだが……


「ん? そういえば……」


 変態ガライアスのアホたれが竜の王と知り合いだとかほざいていた気がする。

 コネあったな。

 名付けて『友達の友達は友達作戦』だ。

 早速俺は懐からケータイ――携帯式通信魔道具――を取り出して連絡先の中から変態ガライアスを選択する。

 何度かコール音がなったかと思えば、聞き慣れたおっさんの声が聞こえてくる。


『がっはっはっは! ガライアスである』

「あ、もしもし? 俺だ。ちょいとばかり頼みがあるんだが――」

『所用により通信を受けることが出来ん。用がある者は発信音の後に伝言を残すが良い』

「――はい? ……マジかよ!?」


 まさかの通信が出来ないことを示すアナウンスに呆然とするが、無情にも発信音が聞こえてきたことからふざけているわけではなく本当に通信に出ることが出来ないのだろう。

 まぁ、変態とは言え魔王なのだから仕事があって然るべきだが、このタイミングで通信に出られないとは役立たずと言う他にない。

 そんな役立たずに言うことといえば――


「死ね! 5秒以内に折り返しがなかったらお前が【ピ――――】の時に【ピ――――】した写真をティア息子アルに送りつけるからな。以上!」


 役立たずは家族会議の重要議題の刑だ。

 5秒以内はさすがに厳しいだろうから武士の情けでたっぷり10秒くらいかけて5秒数えてやろう。


「ご~ぉ、よ~ん、さ~ん、に~ぃ、い~ち、ぜろ。はい、送信と」


 俺の仏様すら裸足で逃げ出すような慈悲深い優しさも意味がなかったようだ。

 さて、いきなり作戦が頓挫してしまった。

 変態が役に立たないとは困ったな……

 いやまぁ、所詮は変態だから役に立たないのも当たり前だろうか?

 変態あいつに期待した俺がバカだったんだ。

 しかし、種族ランキング2位(俺統計)にランクインしている魔族の王だからこそランキング1位のドラゴンと面識があるのもおかしくないが、人族や獣人族などではドラゴンと知り合いなんて人間はそうそういないだろう。

 変態ガライアス以外にドラゴンの知り合いがいそうな魔族に心当たりは――あるな。いや、あるけどあいつに通信したくないんだよなぁ……

 あ、人間でありながら魔王と同等の超人、勇者パシリくんならドラゴンとのコネとかないかな?


「もっし~、パシリくん? オレオレ」

『僕の名前はパシリじゃありません。あと、オレオレ詐欺に用はありません』


 通信に出たと思ったらすぐに切られた。解せん。

 まだ俺のターン、トラップカードオープン! 連続コールを発動!


「いきなり切るとかひどくね?」

『酷くないです』


 また切られた。解せぬ。

 もしかして俺、嫌われてる?

 しかし、まだまだ俺のターン、連続コールをもう1枚発動! さらにマジックカード、真摯な紳士な説得を発動!


「次、話聞かずに切ったら本気で嫌がらせするぞ?」

『…………なんですか?』


 どうやら俺の真摯な説得が功を奏したようだ。

 さすが俺だね、紳士的スマートに物事を解決する術を知っている。

 パシリくんは今までの態度を深く反省して、とても気持ちよく話を聞いてくれるらしい。


「単刀直入に言って、ドラゴンの知り合いとかいない?」

『いません。ドラゴン探してるって今度はなにやらかしたんですか?』

「いや、卵拾っちゃってさ。返してやりたいんだけど、親がどこにいるか分からないんだよね」

『あ、本気マジの面倒事ですね……そうならそうと早く言ってくださいよ』


 話す前に切られたから話せませんでした。

 理不尽、勇者ってマジで理不尽!」


『ふざけないでください。変態ガライアスが竜王とマブだって言ってませんでしたっけ?』

「あれ? また声に出てた? とりあえず、あの変態は役立たずだから罰を下した」

『…………ご愁傷様。後は……あ、婚約者さん竜の巫女だったんじゃないですか?』

「婚約者じゃないし、あいつと連絡取るぐらいなら足で探す苦労した方がマシだ」

『だったら……ん~? 僕にはどうしようもないですね』

「そうか、ならいいんだ。ありがとう。と言うか、探すまでもなくご本人が来てくれたらしい」

『あ、マジですか……今度の相手はドラゴンって……ま、頑張ってください』


 通信を終えてケータイを仕舞いながら見上げる先には、全長40メートルはありそうな巨大なドラゴンが1匹。

 でかくね?

 普通のドラゴンって半分ぐらいだと思うんだけど?

 もう広げられた翼とか80メートル超えてるし、羽ばたく度に吹き荒れる風がヤバい。


『我の子を奪ったのは貴様か?』


 声渋っ!

 念話って下手なやつがやると頭痛くなるけど、すげぇスムーズにやったな。

 さすがはドラゴン。

 それだけじゃなくて、そこはかとなく漂ってくる覇気って言うの? 

 とにかく威圧感が半端ない。


『さぁ、答えよ人間』

「あ、違います」


 いやまぁ、威圧感とかあってもどうでもいいんだけどね。

 今更ドラゴンの1匹や2匹にビビる俺じゃないっすよ。

 にしても、詰問っぽい感じになるのは仕方ないとしても、敵意が感じられないのはどういうことだろうか?


『では、貴様の頭に乗っているのは誰の子だ? そのが持つ魔力は我の魔力とあまりにも似通っているのではないか?』

「いや、盗んだのは俺じゃないだけで、魔力の違いは人間の俺には分からないですけど似てるって言うんならあなたの子なんじゃないですか?」

『どういうことだ?』


 まぁ、普通に考えて意味分からないよな。

 俺も当事者じゃなかったら意味分かんないし。


「いや、卵を盗んだ馬鹿たれ共は猪頭に襲われて死にました。俺は、そいつらが盗んだらしい卵を見つけたんで、どうにか親元に帰してやろうとしてたところです」

『ふむ……』

「ていうか、どうすんの? 暴れる気がないんなら降りてくれません? いい加減、羽ばたく度に風が強くて踏ん張るの面倒なんですけど?」

『む? それはすまなんだ』


 そう言うと巨大なドラゴンは地面に降り立った。

 理性的すぎません?


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