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ドラゴンの卵4

04

 ドラゴンの卵だって深刻そうな顔で言われてもそんなことは知っているのだ。

 そしてドラゴンの卵ってのが、どれだけヤバい代物なのかは常識なので、当然知ってる。

 竜はこの世界において圧倒的強者であり、ギルドで普段扱うような魔物モンスターとは一線を画した存在だ。化け物と言い換えてもいい。

 下手に手を出せば、あまりにもひどい結果が待っているので、ギルドは原則として竜に関わることを禁じている――いや、ギルド程度の話ではない。人としての常識と言っていい。

 最悪の場合、国が滅びるレベルの被害が出るのだから当然だ。


「急いでギルド長に報告しないと……こちら、少々お借りします…………ね?」


 慎重な手つきで卵を持ち上げたエリスが固まる。

 うん。

 まぁ、持ったりしたらバレるよな。

 当たり前だろう。

 なにせ中身は俺の手にしたマントの中にいるんだ。


「………………中身はどうしたんですか?」

「………………それなんだがな?」


 至って神妙な顔つきで勿体振ってやる。


「まさか…………落として割ったりしてませんよね!?」

「あ、いや。それは違う」


 勿体振りすぎて勘違いされてしまった。

 まぁ、からかうのはこの辺にしておこう。


「こいつを見てくれ」


 そう言いながら、手に抱えていたマントをカウンターの上にのせる。

 ハラリとマントがほどけ、中から現れるのはつぶらな瞳のドラゴンベイビーの姿だ。


「クォ!」

「……………………」


 ん? どうしたんだいエリスくん、頭なんか押さえて。

 あまりのかわいらしさにキュン死寸前ってところかい?」


「今すぐその口を閉じないと二度と喋れなくしますよ?」


 あれ? 声に出してた?

 と言うかエリスさん、喋れなくするってどうする気? 目が座ってて超怖いんですけど?

 もう、ギロリとか音が聞こえてきそうなぐらい目が怖い。


「このドラゴンの子どもにしか見えない生き物はなんですか?」

「見たまんまだ。正確には生まれたばかりだからドラゴンの赤ん坊だな」

「………………」


 揚げ足取ったのはスルーですか?

 さっきから頭抑えてるけど、どうしたの? 頭痛いの?


「何を考えているんですか!?」

「何を考えてるも何も、俺は猪頭に殺された馬鹿の遺品を回収しただけだ。まぁ、荷車に乗ってた時は卵だったんだけどねぇ……」


 ダカラ オレ ワルクナイ。

 ナゼ オコテルノカ ワカラナ~イ」


「ふんっ!」


 ひょいと首をひねることで、カウンターを蹴倒しながら突き出された万年筆を回避する。

 また声に出てたらしい。

 と言うかエリスさん、不意打ちで眼球を正確に狙ってくるあたり本気マジですね。

 喋れなくするって言ってたのに初手が目つぶしってどうなのよ?

 万年筆を目ん玉に下から突き刺されたら、脳まで届いちゃいますよ?

 あ、死ねば喋れないな。なるほど、喋ったら殺すって意味だったんだね。


「ドラゴンだと分かっていながら街に持ち込むなんて何を考えているんですか!? あなたはこの街を……いえ、この国を滅ぼすつもりですか!?」

「いや、だって回収した遺品の処理はギルドの仕事だろ? それが何であろうと遺品を回収した冒険者が未申告で着服したりすれば犯罪行為になっちゃうじゃん? 回収した遺品をルールに従って提出しただけだよ?」

「常識ってものを考えてください! 今すぐ拾った場所に戻して……いえ、きっちり始末をつけてきてください」

「始末って……こんな無垢な赤ん坊を殺せって言うのか!?」

「そうは言っていません。竜の山に行って、その赤ん坊を返してきてください」

「それって、俺がドラゴンに襲われない?」

「襲われろと言っているんです。それで、あなたの手で問題を解決してください」

「そうは言っても、遺品の処分はギルドの仕事だろ? 俺はルールを守ってるんだから、そっちもルールを守れよ」

「百歩譲ってあなたがルールを守っている点は評価しましょう」


 評価して当然なのに百歩譲る必要があるのは何故ですか?


「ですが、これはいったいなんのつもりですか?」


 言いながら片手で抱えていたドラゴンの卵――の抜け殻をエリスが指し示す。

 それは罅の一つも無い完全な状態だ。孵っているのだから、本来なら割れているはずだが、そんな形跡はどこにもない。

 なぜ、そんなあり得ない状態なのかと言えば――


「退屈な日常のちょっとしたスパイスってやつだな」


 つまるところ、からかう・・・・ためだけに割れてしまった卵を元に戻しただけだ。


「街が滅びるかもしれない緊急事態にずいぶんと余裕があるんですね? ぜひともその余裕で問題を解決してください」

「いやいや、だからなんで俺が」


 面倒だからギルドへ押しつけるために来たんだ。

 正式にギルドから問題解決を押しつけられたら、意味がなくなってしまうだろ。


「拒否は認めません。拒否するならば、私はあなたへの依頼とあなたからの買い取りの一切を拒否します」


 さすがにそれは困る。

 諸々の理由からギルドで俺を担当するのは専属担当者エリスに任されている。

 そのエリスに依頼と買い取りを拒否されてしまえば、それはギルドからの追放とほとんど同じだ。

 依頼を受けられず、買い取りもしてもらえなければギルドで金を稼ぐことは出来なくなってしまう。

 そうなれば、見事に無職の仲間入りってやつだな。

 いや、別の仕事に就けばそんな事にはならないし、簡単に職に就く方法もあるけれど、冒険者以上に楽な上に稼げる仕事はない。

 面倒だけど、まぁちょっとばかり悪戯が過ぎてしまったと言う負い目もある。

 そもそも、エリスがやれと言っているのは、俺ならばそれが可能だと分かっているのも大きいだろう。


「はぁ……はいはい、わかりましたよ」

「では、今すぐ街から出て行ってください。二度と戻ってこなくてもかまいませんので」

「さすがにそれは酷くない?」

「何か言いましたか?」

「いえ、ナンデモナイデス」


 マジで今回はからかいすぎたな。

 いつもならもうちょっと小粋なやりとりが出来るんだけど、さすがに今回はドラゴンが関係しているだけにテンパってしまってるようだ。

 俺は、ため息を一つこぼすと首の裏に手を当てながらギルドを後にした。

 まさか、また森に戻る羽目になるとはなぁ……

 人生って奴はままならないもんだ。


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