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ドラゴンの卵3

03

 マントに包んだドラゴンベイビーを抱えたまま、30分ほどかけてのんびりと森を出る。

 森を抜けた先は見渡す限りの草原が広がっている――というか見えない範囲の地平線の向こうまで伸びている。

 最寄りの街まで35キロほどあるので、30キロ以上進むまではこの光景が続くと言うことだ。

 普通に歩けば1日歩いて辿り着けるかどうかと言う距離だが、そんな面倒なことをこの俺がするわけがない。

 森を走った速さで走れば、街には6分ほどで到着するだろう。しかし、時速400kmを超える速さで草原を駆け抜ける様を目撃されれば、色々と面倒なことになるのは火を見るより明らかだ。

 ではどうするのか?

 ――答えは簡単。乗り物を使えば良い。

 と言うわけで、ポケットから笛を取り出して吹く。

 すると、数秒ほどで土煙を上げながらこちらに近づいてくる影が1つ。


「待たせたなシシカ」


 シシカ――馬なのに鹿ではなく、馬鹿というわけでもなく、正式な名を『漆黒の死を呼ぶ風』と言う俺の愛馬である。

 栗毛なのに漆黒だとか色々とツッコみどころと厨二臭さ満載の名前であるが、俺のセンスではない。

 断じて俺のセンスではない。

 もらい受けた時点でこの名前をつけられていたのだ。

 エビルホースという魔物であるシシカは、従魔登録が義務づけられているため登録名を変更することは出来ない。

 基本的に登録上の問題から、主人が従魔をまったく別の名前で呼ぶことは禁じられている。

 だからと言って、厨二臭い言葉を何度も発するのは俺の精神衛生上よろしくない。

 幸いなことに正式名をもじってさえいれば、愛称をつけることは認められているので、省略形としてこの名前をつけることになった。

 黒風ってのも一瞬考えたが、これも十分厨二臭い――ってのはどうでもいい話だ。


「少しばかり荷物が増えたけど、お前なら大丈夫だよな?」

「クォッ!」


 シシカの首元を撫でてやりながら語りかけているとマントで包んだドラゴンベイビーが責めるように鳴く。

 荷物扱いされたことに怒ったのか?

 残念ながら荷物なのは厳然たる事実って奴なので、異論は認めん。

 シシカに跨がり、ドラゴンベイビーを包んだマントを抱え直すと街に向かってシシカを走り出させる。

 こいつなら街まで20分もあれば到着するだろう。






 西部劇にでも出てきそうな扉を押し開けてギルドに入ると昼をいくらか過ぎたばかりと言う時間帯なだけあって閑散とした光景が広がっている。

 朝と夕方はラッシュアワーも斯くやと言わんばかりの光景になるが、俺にとってはむしろこっちの方が見慣れた光景だ。


「あら、今日はいつにも増して早いですね」


 俺がギルドに入ってすぐにそんな言葉が投げかけられる。

 と言うか、言い方に気をつけて欲しい。

 一言目から嫌みをたれてきたのは受付のエリスだ。

 エルフらしい体つきで、かなりの美人。

 カッコイイ大人な女性という見た目ルックスなせいか、切れ長の瞳で蔑んだように見ながら言われるとベッドで馬鹿にされてるような気分になる。俺は別に早くない。いや、マジで。


「まぁ、ちょっとしたトラブルがあってね。あと、猪頭に殺された馬鹿がいるぞ」


 そう言いながら、受付カウンターに歩み寄った俺は、ポシェットから森で回収したギルドカードを手渡す。


「猪頭に? 馬鹿あなたでもあるまいし、そんな深部に向かう人間の報告は聞いていませんが……」


 おい。なんだか非常におかしな呼ばれ方をした気がするぞ?


「やはり、そんな記録はありませんね。それに、この方たちの所属は王都です」

「やっぱなぁ……モグリか」


 モグリ――ギルドに所属しておきながら、ギルドを介さずに依頼を受けること・・をそう呼ぶ。ギルドを介さないで依頼を受ける人間を指すんじゃなくて、ギルドを介していない依頼を受けると言う行為自体の名称なのがミソだ。

 大原則として、ギルドに所属している人間はギルドを介さずに依頼を受けることが禁じられている。

 ギルドは仲介料が主な収入源であるだけにそう言ったことをされれば利益が減じると言う理由もある。

 そんな理由もあるにはあるが、それ以上にギルドがモグリを禁じるのには安全管理などの面が大きい。

 ギルドに所属する人間ならば知っているので、ほとんどの人間がそのルールに従っている。

 しかしまぁ、どこにでもルールに従わない人間はいるものだ。

 依頼が依頼なだけに当然の話だしな。


「分かっていたんですか?」

「まぁな。こいつらの遺品見れば分かるよ」


 そう言って俺は、カウンターに回収した遺品を並べていく。

 剣2本と槍1本、剥ぎ取り用のナイフが3本、そして卵だ。

 冒険者が最も金をかける装備は武器なので、遺品として回収した際に最も利益が出るのもソレになる。次いで、駆け出し以外の冒険者が個人を判別するのに用いる剥ぎ取りナイフ――まぁ、ドッグタグみたいなもんだな。

 これらは、遺体発見時に回収する定番アイテムなので、おかしな点はない。

 おかしいのは最後の一つ。

 案の定、エリスも卵を見て首をひねっている。

 そう、卵だ。

 バラバラになった卵の殻ではない。当然ながら割れてもいないし、罅も入っていない。どう見ても完全無欠の卵である。


「これは…………まさかっ!?」


 エリスはギルドの受付嬢なだけあって、必須技能である簡易査定の魔法が使える。

 驚きの表情を浮かべたのだから、査定結果が出てこれが何の卵なのかわかったのだろう。


「これが遺品なんですね?」


 深刻な表情を浮かべながら尋ねてきたエリスに首肯を持って返す。


「これは……ドラゴンの卵です」


 心底深刻な感じで言ってるけど、知ってる。


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