これが戦争、これも戦争8
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一陣の風が吹き僅かな土煙と短い草葉が宙に舞う。
国境を挟んで対峙するのは王国軍7万と帝国軍5万という10万人を越える人間が集まっている光景はなかなかに壮観だ。
手柄を立てて立身出世を夢見る冒険者たちの殺気がギラギラしている気がしますね。
はい。というわけで王国VS帝国の戦争当日となりました。
こちらは現場のカイトです。
続々と集まってくる両国の貴族、騎士、農民兵が所狭しと並んでおります。
さて、戦争はどのようにして行われるのか。
時間になったら即開戦?
ノンノン、そのように簡単な話ではありません。
歴史が積み重なり戦争というものにもルールと作法が作られているのです。
とくに魔道具が開発されてからというもの、戦争にも多様な変化がもたらされました。
魔道具は武器だけに使われる技術ではないのです。
負傷兵への治療にも使われますし、行軍食をおいしくするためにも使われます。
通信用魔道具を使った情報伝達などその最たる例でしょう。
これからご紹介するのはこの世界における最新トレンドです。
とは言っても、飯は食ったしこっちに被害は出ないだろうから紹介できる内容は非常に少ないでしょうね。
まだ開戦してもいないので、紹介するまで時間もかかりそうです。
それにしても、帝国に戦争の作法を指導した身としましては、自分の教えた内容をきちんと実践できるのかテストする教師の気分でございます。
緊張してきたぁ……
「カイト様、緊張されているのですか?」
めぼしい人間がいなかったので、思っていた通り筆頭騎士となったセロが尋ねてきましたが、緊張しているのは確かだけど、あなたが考えているような理由ではありません。
これから始まる戦争に勝てるのか、自分の考えた作戦は上手くいくのか、そういった不安からくる緊張だと思っているのでしょう。
ですが、私の場合はどちらかと言うと、あの子ったら失敗しないかしら? 大丈夫なの? っていう子煩悩なママさんの緊張です。
今のところは上手くいっています。
まず戦争を始めるにあたって、宣戦布告をします。
宣戦布告の際には最初の会戦をどこでいつ行うのか話し合うわけですが、先ほども述べた通り時間になったら即開戦というわけにはいかないのです。
決められた日取りよりも前に責任者は会戦の場へと前乗りします。
そして、会戦の前日に会戦前最後の会談で、予定している軍の数や禁止事項の確認を行うのです。
会談の結果、王国軍は7万、帝国軍は5万が事前申告した軍の数となります。
禁止事項は戦時国際法にのっとり、捕虜への虐待禁止、降伏した者への攻撃禁止など複数の項目をしっかりと確認しました。
ここまでは手順通りにことが進められていて、作法を教えた身としましては一安心でございます。
ちなみに、伏兵は公式に認められているしこの会談で申告する軍の数には含めなくて良いという謎ルールが存在するのは何故なのかが疑問です。
おっとぉ? 帝国側から鏑矢が放たれました。
どうやら帝国側は準備が完了した模様です。
会談で申告した数が配置についたら鏑矢で準備完了の合図をするというルール通りの行動ですね。
こちらはまだ準備が完了して――準備が完了したようですのでこちらも鏑矢を放つよう指示を出します。
「では、戦爵閣下。よろしくお願いいたします」
「おう」
シシカに乗って悠然と帝国軍とにらみ合う中心地点へ向かわせていただきましょう。
時間が来たら即開戦しないのと同じように、準備完了したからといって即開戦ってわけにはいきません。
次の手順では、戦争の前座、もしくは第一回戦と言うべき争い、その名も舌戦です。
戦争という最終手段をとっているのだから最早お互いの主張が平行線を辿るのはわかりきっています。
ですが、この場でお互いの主張を再度口にし、自分たちの正義を味方の戦意高揚に役立てるわけですね。
なにせ、一般兵なんかは宣戦布告が成されるまでの詳細な経緯を知っている人間は非常に少ない。
自分たちの主張の正しさを知り、相手が無茶なことを言っていると分かれば戦いに赴く気持ちも高まるという者です。
逆に言えば、上手く論破されると戦意をそがれてしまうこともあるので、意外と重要な争いなのです。
ここに魔道具の英知が光る!
そう、わたくしカイトが戦爵に叙された後の式典で使用したのと同じ、拡声用の魔道具がこの舌戦を開戦直前に行う点順の1つとして確固たる地位を築く要因となったのです!
昔はお互いの代表が前に出て聞こえない声でなにやら言い争っていても、あいつらなにやってるんだ? で終わっていました。
小規模な争いなら全員の耳にも声が届くかもしれませんが、ものすごく大きな声を張り上げないと聞こえない人が続出して結局は戦意高揚につながりません。
そこに拡声用魔道具が登場すれば話が変わりますね。
戦場にいる誰の耳にもお互いの主張が届いて超ハッピーってわけです。
さぁ、舌戦を行うのは王国の総指揮官である俺と帝国の皇帝であるハインリヒの2人、それでは張り切ってどうぞ!




